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だれか、すこし、いる

2020.7.26 経堂 amae

経堂駅を降りると蒸し暑さと不安定な天気 。初めての場所で初めての試みと、ふと見かけた呟きにどきどきした気持ちを押さえつつ、幅の広い螺旋階段をゆっくりと上がると来場者が受付を開始していた。
1人ひとり案内されていく。入り口、というよりもすでにそこは観客席。個別の高い仕切りでブースがあり、隣との視界を遮っている。
スタートのコールもなく静かに鳴り始めるピアノ。パーソナルスペースに慣れる間もなく空間に惹き込まれていく。

目黒陽介
天井から吊るされた1つの小さなランプ。下にボールが3つ。
壁にもたれ。1つのボールとひとり。むごむごと動く身体。
灯りに導かれボールに動かされながら進む時間。陰影なのか表現がそう感じさせたのか、気づくと泣いていた。苦しいほど、あまりにも美しくて。 

バーバラ村田
照明のあしらわれた額縁。赤い長靴を履いた女の子。一歩いっぽを確かめるように広がる世界に、脱がざるを得なかった長靴。出会いと戸惑い、愛し愛される喜び。誰の中にも居る、どうしようもなく愛おしい純粋な願い。時に自分を重ね、奥底で眠らせている匂いが浮かび上がってくるようだった。

イーガル
演目の核心となる空気を重くしすぎず作り上げていく。
どこからどこまでを音楽として認識していたのか、
わからなくなり空間とまざりあう。


目黒陽介
支配されているのか葛藤か、壁と板からはみ出すも離れることなく動かされる身体。現象に揺らされる。自由に起動を描くボール。ライトに照らされるコンタクト。同期する音と動き。何者でもない、ただそこに現れる事象に身を委ねる。儚く静かに。

バーバラ村田
かたわれの衣装に一瞬心臓が止まる。部屋の隅でうずくまる身体。太陽の下以外で観るのは初めてで瞬きも忘れて観入った。受容・寛容・歪み・諦め・嫉妬・裏切り。どれもワタシ。

私だけの空間で周囲の空気を気にせずに自分だけの感情に素直になれたのは、このブースと誰にも会わないことが約束されているからだろうと思う。ただ、昼公演で暴走してしまったことは少し申し訳なかった。空っぽのまま気づいたら始まった公演にフィルターを用意することができなかった。

だれか、すこし、いる。ことは解っているものの、誰かに揺さぶられない観客側と、だれか、すこし、いる。限られた人数だからこそ伝わってしまう演者の間に流れる空気は今まで感じたことがないものだったし、これが今の正解です。ということはないけれど、新しいパフォーマンスのひとつのかたちになったことは20名の観客と目黒陽介さん・バーバラ村田さん・イーガルさん、運営様、amae様が証人になっていくでしょう。

私には想像できないほどの葛藤の中、有観客で開催していただいたことに感謝と敬意を。

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