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#89 ビリヤード解剖学・「手首の動作」(中編)

前回は「手首の解剖学的知識の確認」と「手首の動作のグラフによるイメージ化」をしてみました。
今回は前回イメージ化したグラフ図の活用もしつつ、手首の動作を考察していきます。

前回記事(前編)はコチラ

※冒頭に前回グラフ図の補足を少し・・・
グラフ図にある各屈曲方向とグリップ(こぶし・握り)の関係性は以下のとおりです。(ヘンテコな手の絵ですが何とか分かりますでしょうか・・・)
以降、手の絵は邪魔なので消えていますが、こういう意味のグラフだと認識しつつ読んでいただけたら幸いです。
あと、手球とキューが当たる位置を「インパクトゾーン」として追加しました。←これは「インパクトをここで捉えるべき」という技術論の意味ではなく、「コック動作の途中にインパクトが存在する」イメージ的なものです。これはプレーヤーによって当然にゾーンの位置は変わってくるはずです。

図1:グラフイメージとグリップの関係性

では本題に入ります!

〇ストロークにおけるコック動作
もしも肘~前腕の屈曲・伸展運動の方向軸と手首のコック動作の方向軸が同一方向(※同一直線上とは限らない)である時、ストローク(キュー)は左右へ弧を描くことなく一直線な軌道を走るはずである。
これは「真っすぐキューを振る」目的に対しては理論上最も理想的な形であると言えるはずである。
そして、コック動作単体としても一直線な軌道である時、手球とキューが接触する位置(インパクトゾーン)においても、手球が向かうべき方向とずれることなく手球を捉えることができるはずである。

図2:ストロークにおける理想的?なコック動作のグラフイメージ
※肘~下腕の軌道は青軸と同一直線上であると仮定しておく

逆に・・・
下図のようにコック方向の軸がズレていたり歪んだ軌道を描いていれば、コック動作による手球とのインパクトによって、力を加える方向がズレたり撞点がズレたりといった不具合を発生する可能性があるかもしれません。

図3:ストロークにおける望ましくない?コック動作のグラフイメージ

ところで・・・
上記では理想的なコック動作の軌道を「直線」で表現しましたが・・・
前回の解説で「手首(橈骨手根関節)は顆状関節という楕円状の凹凸で構成される2軸性関節」という話をしました。
そこから推察すると、ニュートラル位置以外での一見直線的に見える手首の動作軌道においても、実は「関節面の緩やかなカーブ」に沿って僅かにカーブを描く、且つ関節辺縁の接合面付近に向かうほどそのカーブが大きくなっていく・・・のではとも考えられる。←これは同時に過度の外巻き又は内巻き位置では基本的な軌道は限りなく関節辺縁の楕円曲線(手首を回す動作の軌道)にのみ近づくという可能性も示唆している。

図4:コック動作の軌道についての推測イメージ
今回2軸の方向に着目した平面グラフでイメージしているが、関節形状的には本来は「くぼみ」という高さ(深さ)も存在しているはず。厳密には「0,0」を通る軌道以外は平面基準で見ても真に直線軌道とはならないのではとも考えられる。

上記を踏まえると、
「理想的な軌道となるコック動作」とは
①スナップ方向にニュートラル(0位置)な状態でのコック動作
であり、
「理想に近い軌道となるコック動作」であれば
②スナップ方向のニュートラルに近い範囲の内巻き又は外巻きで、関節辺縁まで稼働しない範囲でのコック動作
といった所に拠ってくるのでは、と予測しています。

図5:理想的なコック動作による軌道を保てる動作限界のイメージ ※この図では「外巻き」「内巻き」の軌道を直線的に描いているが、「カーブがごく僅かで概ね直線的である範囲のみで動かしている」というイメージで捉えてもらえるとありがたい。


〇手首ニュートラルや内巻き・外巻きでのメリット・デメリット
今までの話の流れだと「スナップ方向ニュートラル位置でのコック動作が最も理想的である」という感じになりますが、実は以下のようなデメリットもあるのでは?とも、あくまで予測レベルですが考えたりもしています。

①手首ニュートラル位置
・メリット:コック動作のみなら最も直線的且つ最大可動域で使える可能性がある
・デメリット:「ニュートラル位置=基本的に脱力における正位置」であると言えるので、コック方向だけでなくスナップ方向へも制限なく自由に動く→結果としてコック動作軌道の歪み=こじり等の発生となる可能性がある

②内巻き・外巻き位置
・メリット:「巻く形の維持=意識的に筋・腱の力でその位置を固定する」事であるから、スナップ方向への可動域が制限されその方向へこじり難くなる可能性がある
・デメリット:メリットに記載のとおり意識的に制限を掛けている状態なので脱力した動きが出し難い。また図4の顆状関節でも書いたとおり、巻く(関節辺縁に寄る)ほど直線的→曲線的な軌道に変化していく可能性がある

※もしかしたら手首ニュートラル位置でさえも筋・腱の働きで維持する事ができるならこのデメリットは解消されるかもだが、結局それは脱力のメリットを失ってもいるので、コック方向の動作も若干制限されるのだろう・・・

図6:外巻き・内巻き時のスナップ方向への動きをロックするイメージ
外巻き・内巻きでは筋・腱の働きでその位置を固定する。しかし、ニュートラル位置では筋・腱の働き無くその位置を維持することが可能。 ※ビリヤードのフォームでは前腕~手は鉛直下向きなので、脱力すれば重力だけでその位置に留まることができる。逆に「前へ倣え」の形なら持ち上げるような筋・腱の働きが発生しないとニュートラル位置にはならないだろう。
図7:脱力したニュートラル位置でのこじりのイメージ ※図の線はあくまで直線的でない事のイメージである


改めてまとめると・・・
・肘~前腕の屈曲・伸展運動の方向軸と、「インパクトゾーン」でのコック動作の方向軸との一致性を担保する必要がある←これだけは必須条件だと思っている
・「インパクトゾーン」の前後においてもコック動作の方向軸を一致かつ直線的にすることで、「インパクトゾーン」での一致性・直線性を補助できる可能性が高まる
・手首スナップ方向はニュートラル位置が最も理想的、又はニュートラルに近い範囲で外巻きや内巻きを保持することで、直線的なコック動作になる可能性が高まる
・特に手首ニュートラル位置の脱力状態が、コック方向動作で最大の可動域となる可能性が高い
・手首を使う範囲を関節辺縁部に寄せない(ニュートラルを除く)
・意図的な外巻き・内巻きには、スナップ方向への可動制限によるスナップ方向へのこじり防止の効果を生む可能性があるから、一概に巻く事が悪いとは言えないのではないか

後編では今回考察も踏まえて、ポケットビリヤードまたスヌーカーやチャイニーズ8でのストロークと手首の関係性や意味の考察をしていきたいと思いますのでお楽しみに!


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