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「世間知らずだった自分へ」 noteプロデューサー徳力基彦氏 Vol.3(最終回)

2度の転職で苦い挫折を味わった徳力さん。ビジネスパーソン人生の崖っぷちに立っていたなか、「何とか生きている証を残したい」と望みをかけたブログで、徳力さんの人生は新たな展開へと向かいます。

ディベート欲をブログで昇華

編集部:ブログをはじめて影響力のある存在になった。これもまた、大きな転機ですよね。

徳力:そうなんです。それ以前にもちょこちょこブログは書いていたんですけれど、この時のブログは「コミュニケーション」を目的にして始めたんです。

当時、クビになるかもしれない恐怖と戦っている状況だったので、グロービスから足が遠のいていました。するとね、世の中の情報について誰かとディスカッションしたいという欲がたまってくるんです。

それの解消法が、ブログでした。当時、ネット上のオピニオンリーダーだった梅田望夫さんのブログを毎日読んでいて。梅田望夫さんにトラックバック(通知を送りながら記事を書く機能)を使って、自分の意見を送っていたんです。すると、たまに梅田さんも私の記事にリンクを貼ってくれて。そうやって、自分がすごいと思っている人とのやりとりが生まれました。

でもこれって、グロービスの講義でやってることじゃないですか。このケースに対してみなさんどう思いますか?という問いに、みんなが、授業でも授業外でも意見を言い合っている。私が今でもブログ書いてるのは、いろんな人と意見や情報交換ができるからです。自分が学べるからなんですよ。

編集部:グロービスの講義をそんな風に捉えてくださって嬉しいです。

徳力:リップサービスでも何でもなくて、本当にそうです。だからこそ、最近「グロービス=知識を得るための学校」とだけ捉えている方が増えている気がするのは少し残念です。言葉を選ばずに言うと、グロービスって「わざわざ仕事とは別の時間を使って学びに行こうと思う、ちょっとおかしい人たちのコミュニティ」だと思うんです。そういう人たちと出会えること自体に、大きな意味があるはずで。

「会社の中の人」ではなく「いち個人」である自分

徳力:ブログを始めてから変わったのは、自分を「いち人間」としてみるようになったこと。出会った人と友達としてつながることは、のちのち仕事にも役に立つかも、という考えになりました。

編集部:それまでは、どんな考え方だったんですか?

徳力:昔の私は、自分のことを「会社の看板の中にいる存在」と考えていました。で、会社にいるスーパーエンジニアをメディアにアピールすれば、その記事を読んだ偉い人から依頼がくるんじゃないかと遅くまで会社の中で仕事をしてました。

でも、エンジニアもシャイだし、そんなにネットワークが拡がらないんですよね。他の企業は毎月のようにいろんな提携をしているのに、なんでうちにはオファーが来ないんだとか悩んでたわけです。そんなある日、GREE*に入れてもらったんですよ。

*GREE…招待制で始まったFacebookのようなSNS。

そこで気付くんです。「なんだ、みんな友達なんだ」と。昔は、企業と企業の提携は、会社と会社のコミュニケーションの流儀があるんだと思い込んでたんですよね。でも、実際は個人と個人で繋がっていた。今考えれば当たり前の話なんですけど、当時は全く理解できていませんでした。

そこから心を入れ替えて、イベントやネットワーキングの場所に出まくるようになるんです。私はもともとそういうのが好きだったはずだから、最初から行けばよかったんだけど。

中途入社の自分が、会社を代表してコミュニケーションするって発想がそもそもなくて。こういうのは社長とかトップのエンジニアがやるものだと思っていたんです。

いつまで「前時代の武器」で戦うのか?


徳力:当時の私は、セミナーに「偉い人の話を聞きに行く」モードで行っていたんですね。あくまで発信者と受信者っていうヒエラルキーの構造でとらえていました。

でも、梅田望夫さんのオフ会が想像を絶するカジュアルな会で。梅田さんも私のブログを何となく認識してくれていたし、横に座った方と名刺交換して「こういうブログ書いてるんです」って言ったら、「知ってる、知ってる」と言われて。そのときに、このヒエラルキーが壊れたんです。あ、俺も発信者だ。発信者というか、みんなフラットなんだ、って。

そこから、時間の使い方が劇的に変わりましたね。社内にいるよりも社外にいる時間が圧倒的に長くなった。どんどん自分で外に出ていろんな人とつながるように努力をしました。それが結果的に会社の仕事につながることがあるんだなって。

編集部:まさに今最前線の個を立てる働き方に聞こえますが、それを2006年くらいからされていた。

徳力:おそらく今、時代はパラレルワールドになってるんですよね。今まで通りの仕事をしてる人たちも大勢いるけど、個人名を出して情報発信して人とつながりながら、仕事にもメリットを出している人がいる。

でも日本では、ソーシャルメディアに関してよくないイメージを持っている人がまだ多いですよね。最近ショックだったのは、学生さんたちが内定出たらSNSを辞めちゃう、って話。私からするとすごくもったいない。せっかく、個人がただの歯車になりがちだった世の中から、一人ひとりがピンでコミュニケーションできる時代になったのに。

古い価値観の世代はなかなかソーシャルメディアは始めてくれないですし、ソーシャルメディアに慣れた価値観で育ってきた人たちも社会に出ると、古い価値観に絡め取られてしまう。これを自分なりに何とかしたい、というのがピースオブケイク(note)に軸足を移すようになった背景です。

私からしたら、ブログやソーシャルメディアは明らかにビジネスパーソンの新しい武器になるんですよ。これを試しもせずに使わないと決めるなんて、わざわざ新しい武器を使わずに「竹やりでこれからも戦います!」と言っているに等しい。

編集部:竹やりで勝つのはキツいですね……。

徳力:でもね、それをバカにするのも違うんです。だってこれまでは、竹やりがうまい人が大企業で出世していましたし、今も多くの企業ではそうですからね。本来、新しい武器を使うようになった人たちの中から、大企業の人が憧れるロールモデルがもっと出てくるべきなんです。

そうすれば、新入社員もちゃんとアカウントをつくって、社業に悪影響が出る使い方をせず、良い使い方を学ぶことができるはずだから。グロービスさんにもぜひそこを変える役目を担っていただきたいです。

考えを表明し討論することが、未来を拓く

編集部:徳力さんが大事にされてるのは、「ディスカッションをする」ことでしょうか。

徳力:そうですね。日本企業ではネット上の発信は特殊な人がやる行為だと思っている人がまだまだ多いですし、何か書くとまわりから止められることも少なくないと思いますが。

たとえば、「このニュースについてどう思ったか」のコメントレベルのものなら、ビジネスパーソンはどんどんやった方がいいと思っています。自分の意見を書いた上でほかの人たちの意見を見て。「やべえ、俺結構間違ってるかもしんない」と思うのか、「しめしめ、こいつらこうやって思ってるから俺は逆張りで成功してやる」と思うのか、も自由だと思います。でも、このディスカッションのプロセスこそが、ビジネスパーソンとしては一番重要な学びになっているはずで。そういうアウトプットを通じた学びのサイクルを日々の習慣に入れていくべきだと思います。

編集部:言語化が、成長につながるんですよね。

徳力:斜に構えている人って、相手が言った話に合わせて「俺もそう思ってた」って逃げるじゃないですか。あれでは、ビジネスパーソンとして成長しないと思うんですよ。

たとえばiPhoneが上陸したときに、私は「日本にはガラケーがあるから普及しない」とか偉そうに書いてたんですけど、今となっては自分はアホやなぁとつくづく思います。でも、同じように考えていた方もたくさんいるはずなんです。が、忘れてるんですよ。10年も経てば、そういう人が「俺、iPhoneがきたときから『これはくる!』と思ってたよ」って言ったりしてね(笑)。でも、その反省をしないとビジネスパーソンとしての成長はないと思うんです。

だから、自分の意見をちゃんと文字に残しておくっていうのは、「責任を持って考える」という意味でも重要だと思いますね。

編集部:間違う怖さ、のようなものが足を引っ張るのかもしれませんね。

徳力:それはありますよね。でも、自分の意見を文字にすることによって、興味を同じくする人と議論ができる可能性が出てきます。それを続けてることで、いろんな出会いがあり、それこそコラムの依頼がきたり登壇の依頼が来たり……っていう事例だって、そこら中に存在していますよ。

多くの日本のビジネスパーソンは、自分は会社を代表して情報発信なんてしてはいけない、って思い込んでいる。当然、就業規則上、仕事に関わる秘密は書けないとか、他社を怒らせるような噂話は書いちゃいけないですけれど。

でも、例えば「マーケティングについてマーケティングを学び始めた生徒が言及しちゃいけない」わけじゃないですよね。マーケティングの授業でどう思ったかってことを発端にしてコミュニケーションをして、学んでいくわけで。それが授業の時間だけでなく、オンラインでいつでも可能な時代になってるんですよ。使わないのは損だと思うんですよね。

編集部:立派なことを書かないといけないわけじゃない。

徳力:まずは自分のメモとして自分のために書いてみるのがオススメです。考えを表明し、友達とディスカッションすること自体が、自分や友達だけでなく同じ業界や周囲の方の役に立つ可能性まである、と私は思っています。

編集部:これからのビジネスパーソンにとって、とても重要な視点の数々をいただいたと思います。ありがとうございました。