見出し画像

熱戦の記憶 ~あの名馬を追いかけて~ 菊花賞編 (1996年ダンスインザダーク)


週末のG1の過去を振り返る番外編です。
先週は体調が芳しくなく休載しました。
予定ではレッドディザイアの秋華賞をやるつもりでした。

競馬が、馬が大好きで仕方ない僕が、週末に行われるG1を対象に、
独断と偏見で一番好きなレースの年を回顧しています。

今回はダンスインザダークが制した1996年を振り返ります。

ここもデュランダル同様、春先からこれと決めていたレース。
「最も強い馬が勝つ」を体現したレースで、個人的には最も強い菊花賞馬です。
異論は認めますが、僕は揺らぎません(笑)

候補としてはナリタトップロードの1999年、セイウンスカイの1998年、ライスシャワーの1992年も捨てがたいですが、ダンスインザダークです。


完全に進路は無くなったはずでした。武豊の執念で道を切り開き、それに応えたダンスインザダークが繰り出した鬼脚で差し切った伝説のレースを振り返ります。


1996年の菊花賞。
1番人気は8枠17番、大外枠のダンスインザダーク。
満を持して臨んだ日本ダービーは悪夢そのものでした。
G1を勝ちまくっていても、ダービーだけは勝てない武豊J。
この年のダービーに懸ける想いは特別でした。
今をときめくサンデーサイレンスに、母はダンシングキイ。
半兄にエアダブリン。そして全姉にオークス馬ダンスパートナーと、超良血血統のダンスインザダークは新馬戦から、姉の背中を知る武豊Jとともに、圧巻のパフォーマンスでクラシックに向かいます。
道中はロイヤルタッチの後塵を拝すこともあったものの、弥生賞を完勝して皐月賞へ。ライバルと称されたバブルガムフェローの回避もあり、期待がかかりましたがダンスインザダークも熱発で皐月賞を回避。
その皐月賞を制したのは弥生賞で完全に封じ込めたイシノサンデーでした。
その後、ダービーに向けて前哨戦のプリンシパルSを完勝。
迎えた本番はいよいよ武豊Jのダービー制覇への期待の声も非常に多かったと思います。
直線は満を持して先頭に立ち、押し切りを図るも、そこに立ちふさがったのは、たったキャリア2戦、ここが3戦目のフサイチコンコルド。
外から並ぶ間もなく交わされ、悔しい悔しい2着。
あれだけ期待された馬で、春を終えてG1未勝利という屈辱を味わいました。
秋初戦はトライアル京都新聞杯を完勝。
武豊Jを背に、なんとしても落とせない最後の一冠に挑むのでした。
単勝オッズは2.6倍でした。

2番人気は2枠4番、ダービー馬フサイチコンコルド。
虚弱体質の持ち主で、デビューは3歳を迎えた1月。
新馬戦、すみれSと連勝を飾るも、体質を考慮して陣営は皐月賞を回避。
プリンシパルSからダービーを目指すプランでしたが、熱発でプリンシパルSに出られず。
ダービーは抽選となったものの、なんとか突破。
素質はあるにしても、キャリアは2戦。ここまでも決して順調に調整できておらず、単勝オッズは7番人気の27倍ほど。
しかし、そんな不安を跳ねのけるかのような「音速の末脚」で大本命のダンスインザダークを捕らえて見事ダービー馬の栄冠に輝きました。
藤田伸二Jはダービー初勝利。兄弟子の武豊Jの夢を自らで潰す形になりましたが、高々と掲げた右手はその嬉しさを物語っていました。
その後も虚弱体質が影響し、菊花賞の前哨戦に使われたのはカシオペアS。
圧倒的支持の1.3倍でレースを迎えるも、若き福永Jの跨る逃げ馬ムーンマッドネスに5馬身もつけられて2着。
相変わらず順調さを欠いていましたが、菊花賞ではダービーの衝撃もあってかファンの支持も高く、2番人気でした。
鞍上は主戦の藤田伸二J。単勝オッズは5.0倍でした。

3番人気は7枠14番ミナモトマリノス。
春のクラシックは伏兵の立ち位置でしたが、迎えた秋初戦の神戸新聞杯を4着。そして中2週で臨んだ京都大賞典はあのマーベラスサンデーに半馬身差の2着と激走。
ここにはダンスパートナーも出走していて、そのダンスパートナー、さらには古豪のカミノマジックにも先着と、この一戦が評価されました。
迎えた菊花賞は3番人気。
鞍上は京都大賞典激走の立役者、佐藤哲三Jが継続。
単勝オッズは7.3倍でした。

というものの、ミナモトマリノス以下はオッズがさほど離れておらず、接戦の様相。
以下差し脚堅実なカシマドリーム、夏の上がり馬ローゼンカバリーと続き、皐月賞まではパフォーマンスは良かったものの、ダービー以降は精彩を欠いたロイヤルタッチは6番人気まで支持を落としました。

皐月賞馬のイシノサンデーは秋のトライアルを2戦とも落とすと、陣営はダートに活路を求め、菊花賞には出走してきませんでした。


ファンが世代で一番強いと信じたのがクラシック未勝利のダンスインザダーク。
「絶対にこの馬とG1を勝ちたい。」
リベンジに燃える武豊Jの3000mの戦いが始まります。


スタートは逃げ宣言のナムライナズマが大出遅れ。
波乱の幕開けの中、まずは4頭がハナを窺いますが、主張する馬はいません。掛かり気味の最内サクラケイザンオーと横山典Jがハナに立ちそうでしたが、制したのは3コーナー外からローゼンカバリーでした。
ダイワセキト、ロングカイウンが続いてまず4頭。
その後ろ、好位集団にマウンテンストーン、その外にフサイチシンイチ、内で折り合ったカシマドリームが中団前目、そしてその後ろにダービー馬フサイチコンコルドがちょうど中団。マークするようにロイヤルタッチ。その外ミナモトマリノス。
その後ろ、ダンスインザダークはこれまでとは打って変わって中団後方に位置取りました。
その内にマルカシーズ、外に盛り返してナムライナズマ。
メイショウジェニエ、オンワードアトゥが後方に構え、インターフラッグ、マイネルスピリットがシンガリから運んで1週目のスタンド前を通過します。

大歓声のスタンド前、各騎手折り合いに専念しながら単騎に持ち込んだローゼンカバリーは1000mを61.9秒で通過します。
あまりにゆったりとした流れで1コーナーに入りますが、マウンテンストーンが抑えきれません。サクラケイザンオーの外3番手までポジションを上げます。

先頭は単騎逃げに持ち込んだローゼンカバリーと柴田善J。
向こう正面に入る頃には各馬あまりの遅さに我慢が利かず、目まぐるしく順位が入れ替わっていました。
向こう正面で外から押し上げるカシマドリーム。そしてフサイチコンコルドも内からポジションを上げます。外にロイヤルタッチも前を射程圏に捉えます。
そしてダンスインザダークですが、馬群のど真ん中で既に行き場を失いかけていました。内に潜り込んでなんとかポジションを上げにかかります。
2度目の3コーナーに入る頃にはちょうど中団まで押し上げましたが、内ラチ沿いと出し所を探っている状況で勝負所を迎えます。
坂を下って残り600m。各馬外からペースが上がる中、ダンスインザダークの前にいたダイワセキトの手応えが悪くなり、ダイワセキトが後退します。
最内が災いして巻き込まれたダンスインザダークは動けず、メイショウジェニエ、インターフラッグに外から交わされます。
前を行くライバルたちは好位で絶好の手応え。フサイチコンコルド、そしてロイヤルタッチが直線を向くや否や追い出しを開始。
ダンスインザダークは4コーナーでダイワセキトを外からなんとか交わすと、すかさず最内を選んだ武豊J。
この頃の京都競馬場は外回りコースの4コーナーのカーブはきつく、馬群は外に開きやすいコースでした。

迎えた直線。満を持して追い出すサクラケイザンオーが先頭に替わります。内で苦しくなったローゼンカバリーは後退。
替わって上がってきたのがフサイチコンコルドです。
さらに外からロイヤルタッチが今日は伸びてきます。
さらにその外マウンテンストーン。
肝心のダンスインザダークは内から物凄い切れ味で前を追っています。

残りは300m。
内から懸命に前を追うダンスインザダークですが、最内で垂れたローゼンカバリーを交わすために外に求めて失速。
更にこのタイミングで一杯になったマウンテンストーンが内にヨレます。
万事休すかと思われましたが、ここでダンスインザダークはマウンテンストーンを外に跳ねのけ、残り200mでようやく前が開けました。


そこからは異次元の鬼脚炸裂。
他馬が止まって見える程のとんでもない脚です。

残り200mで先頭のフサイチコンコルドまでの差は6馬身ほど。
馬から青い炎が見えるかのようなダンスインザダークの末脚。
一気に差を詰めて残り100mでその差は2馬身ほどに。

残り50m、内ラチいっぱい押し切りを図るフサイチコンコルドを図ったかのようにロイヤルタッチが交わしますが、その外から並ぶ間もなく交わし切って、悲願を達成したのはダンスインザダークでした。

武豊Jはゴール後何度もガッツポーズ。右手を何度も振りかざし、最後に噛みしめるかのような左手のガッツポーズから馬の首筋をポンとひと叩き。
武豊Jは大きなガッツポーズはしない騎手でしたが、らしからぬ喜び方からも会心の騎乗が見て取れます。

勝負所で何度失速したことでしょう。ポジションが災いして、バテた馬を2度も処理。普通ならあの4コーナーで終わっていますが、ダンスインザダークと武豊Jにはここに懸ける想いと勝利への執念がありました。
ローゼンカバリーを捌いた後も諦めず、内にヨレてきたマウンテンストーンを弾き飛ばしてのゴール前強襲。
まさに彼こそが「最も強い馬」でした。
フサイチコンコルドにやられた悪夢の一瞬の出来事を、クラシック最後の舞台でやり返してみせるのでした。

2着はついにクラシックでの勝利は叶わなかったロイヤルタッチ。
3着はフサイチコンコルド。
懸命に食い下がったサクラケイザンオーは最後苦しくなり、離れた4着でした。


そんなダンスインザダークですが、激戦の代償は大きかったようで、翌日に屈腱炎が判明。
そのまま引退を余儀なくされます。
ついにバブルガムフェローとの対戦は叶いませんでした。
その後のバブルの活躍を見ていると、やはり見たかったという意見が競馬ファンの総意ですね。
ダンスインザダークはその後種牡馬としても活躍しますが、産駒はステイヤー気質が目立ちました。
菊花賞馬は3頭輩出しています。
ザッツザプレンティ、デルタブルース、スリーロールスや、菊花賞2着馬のフォゲッタブルやファストタテヤマなど、とにかく長い距離での活躍が目立ちました。
しかし、昨今の日本競馬はスピードが何よりも大切な血統のトレンドです。
ダンスインザダークの血を繋ぐ馬はほとんどいなくなってしまいました。

2着のロイヤルタッチはその後有馬記念でもサクラローレルの4着と善戦。
ですが、その善戦マンから抜け出せず、その後も未勝利でキャリアを終えます。

3着のフサイチコンコルドはその後相変わらず脚元が弱く、結局ターフに戻ってくることはありませんでした。
文字通り音速のように過ぎ去っていった馬でした。


~終~


いかがでしたでしょうか。

武豊Jのガッツポーズは本当に印象的でした。
目立つのはスペシャルウィークのダービーのガッツポーズですが、僕はダンスインザダークの菊花賞のガッツポーズの方が好きです(笑)
とにかくかっこいいんですよね…

今週は菊花賞です。
この年とは違って群雄割拠の牡馬クラシック路線ですが、今年はどの馬にもチャンスがありそうですね。


10月22日。
最も強い馬が決まります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?