共起ネットワーク図

【小説分析】飛べない澄子の声

私がカクヨムに投稿した小説、
『飛べない澄子の声』を計量テキスト分析で調べてみました。

自分の小説の分析なので、
書いている最中になにを考えていたか?
分析を見てみた感想は?
といったことを正直に書きながら、
計量テキスト分析を用いると、どんなふうに小説の振り返りができるかを例示できればと思います。

まずは共起ネットワーク図を見てみます。
これは、語と語のつながりを線で結んで示したものです。
具体的には、近くに出る傾向が強い語同士が線で結ばれています。

この図を見ても、小説の評価をすることは難しいです。
ただし、どのような物語だったのか確認する簡易的な手段として役立ちます。
せっかくなので、この図に登場した語を使用して『飛べない澄子の声』がどんな小説なのか説明してみます。
(その方が、後の分析も理解がしやすいと思いますし)

澄子、夏帆、大樹の三人が主役。三人は幼馴染で、同じマンションで育った。この世界の子どもはみんな、飛ぶ、不思議なを持っている。
ただし飛べるのは子どものうちだけで、中学生くらいになると飛べなくなってしまう。
しかし中には、飛べなくなると同時に、別の特別な才能を授かる人がいる。
澄子もその一人で、彼女は聞く力を得た。
それは、星を見ていると、どこかにいる誰かの心の声が聞こえるというものだった。
そのため澄子はになるとマンションの屋上行き、星の声を聞いていた。
だが彼女が夜にマンションの屋上に行くのは、星の声だけが理由ではなかった。
彼女は、のことを嫌っていた。
母から逃げる意味でも、澄子は屋上での時間を大切にしていた。
そんな澄子を優しく支えているのが、大樹だった。
大樹と澄子は恋人同士の関係になっていて、そのため大樹の部屋に澄子は度々泊まっていた。
一方でもう一人の幼馴染、夏帆は、二人とは距離を取っていた。
三人がいつまでも一緒にいることは正しい生き方ではないと思っていた。
幼馴染以外の世界に触れようとする夏帆は、クラスメイトの玲奈や、同じマンションに住む少年、隼斗と心を通わしていくのだった。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154915843

今回は、クロス集計による分析を中心に行いました。
『飛べない澄子の声』は10万文字の内容を、全14話に分割して投稿しました。
この14話それぞれを比較するというのが、クロス集計になります。

まずは主役である三人、澄子、大樹、夏帆がどのくらい登場していたかを調べてみました。

大樹は澄子の傍にいる役割だったので、澄子と大樹のグラフは似ています。

これは、書いている当時の意図通りです。

ただ今改めて考えてみると、大樹と夏帆の関わり合いをもっと強めておく(澄子があまり登場しないが、大樹と夏帆が登場するような話を入れておく)方が面白かったんじゃないかなと思いました。

また非常に興味深いのが、夏帆のグラフです。

執筆中の悩みは、夏帆の存在感をいかに出すか、というところでした。
夏帆は、他の二人とちょっと距離を置こうとしている、という難しい立ち位置です。
おまけに話のテーマ的には、澄子と大樹が中心にいます。
そのため夏帆をいかにうまく使うか、が書いている時には大問題だったのです。

ですがグラフを見てみると、むしろ6話ぐらいからずっと夏帆の存在感が強いんですよね。
すると当初の意図の「澄子と大樹が中心」とは実態が異なっていることがわかります。
夏帆が中終盤の要になっている以上は、
もっと夏帆をテーマに深く語れるような人物にした方がよかったのではないか?
という反省が見つかります。

夏帆をもっと大切に、重要なキャラとして扱えるようにするべきだった、
という反省を補強するデータもあります。

この小説において重要なのは、
空を飛べるとか、星の声が聞けるといった、超能力です。
それとヒロインの澄子が母を嫌っている点も重要な部分となっています。
これらの語の登場と、夏帆の登場についてのグラフがこちらです。

夏帆がいる時の方が、テーマに触れられているんですよね。
大樹の立ち位置は澄子に近すぎる面があり、
彼女たちから距離を取ろうとしている夏帆の方がより主人公として丁度良い位置にいたのではないか、と考えられます。

続いての図では、
澄子と玲奈の登場について見ていきます。
玲奈は、夏帆と深く関わりのあるキャラです。
そんな玲奈が、夏帆ではなく澄子とはどれくらい関係があったのか?

これを見ると、基本的に澄子と玲奈が顔を合わせていないことがわかります。

このことから『飛べない澄子の声』という小説は、
「澄子と大樹の物語」と、「夏帆の物語」に二分されていることが推測されます。
混ざり合うというよりも、分断されている状態に近そうです。
最初の想定以上に夏帆が目立っちゃって、それで崩れてしまったんですかね。

最後に対応分析で、
各話と語の関係性を見てみます。

距離の近さ=関連の強さというのは言わずもがなですが、
この図では上下の距離よりも、左右の距離の方が重要となっていることに留意してください。

左右の距離だけで考えると、
テーマ的に重要な「母」や「飛ぶ」に近い人物が「夏帆」ということがわかります。
澄子の母は「洋子」という名前なのですが、「洋子」に近いのもやはり「夏帆」なんですね。

このことからも、もっと夏帆中心のストーリーにするべきだったと、
構成上の欠点がはっきりしました。

今回の分析は以上になります。

このように、
計量テキスト分析を用いることで作品の反省点を発見できます。

もちろん悪い点だけでなく、良い点を発見するのにも使えます。

そして良い点悪い点を見つける際に、より客観的に見つめた上で発見できるのが特徴と言えるでしょう。
主観的なアドバイスや反省だと、的外れな指摘になってしまう危険性があります。

しかし計量テキスト分析で見つけた特徴・仮説には、数値という根拠があります。
そしてそれらの特徴・仮説はあくまでデータ由来のものですから、それが長所か短所なのかは、作者の判断に委ねればいいのです。
ですから的外れで役立たずのアドバイスになるということが少なく済むと私は考えています。

それが計量テキスト分析によるウェブ小説の分析の長所なのです。

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