「君たちは理念に雇われているんです」

和歌山県南部、白浜町に位置するアドベンチャーワールドは、その広大な敷地にサファリパーク、遊園地、動物園、水族館が併設された一大テーマパーク。中でもジャイアントパンダの飼育で広く知られている。昨年(2018年)生まれた彩浜(さいひん)を含めた6頭が飼育されており、パンダの飼育数日本最多となっている。
パンダが主食とするのは竹の葉。アドベンチャーワールドでは大阪府岸和田の竹をパンダの食用として利用している。大量の竹を使用するものの、必要なのは葉が主であり、幹は大部分が不要となってしまう。その竹の幹を有効利用しようとして生まれたのが、「つながるsmile 竹あかり」プロジェクトだ。第1弾として今年(2019年)7月に開催され、第2弾が12月に開催される。詳細は以下のプレスリリースを参照。

https://www.aws-s.com/topics/detail?id=top1592

このアドベンチャーワールドを運営するのが大阪に本社を置く、株式会社アワーズ(以下、アワーズ)。社長の山本雅史さんは社員によく次のような問いかけをするという。

「君たちは何に雇われていますか?」

普通に考えれば社長に、会社に雇われていると思いそうなものだが、社長の答えは異なる。

「君たちは会社の理念に雇われているんです」

この言葉を聞いたときに池田親生は「なんて、かっこいいんだ」と感銘を受けたという。会社の理念とは「こころでときを創るSmileカンパニー」。会社のホームページには次のように説明されている。

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形にあるものではない本当に大切なもの、それは「とき」と「こころ」です。
わが社は「こころ」を大切にし、関わる全ての人との大切な「とき」を共有することによって、永続的にホンモノの「Smile」を創造・提供し続けます。
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もちろん、社長も理念に雇われているひとりだ。その意味で社長は「理念の代弁者」とも言えよう。そのことが会社運営に存分に発揮されていることは、筆者自身が会社を訪問した際にも強く感じた。一般的に会社のオフィスには一種の緊張感が立ちこめ、決して楽しい雰囲気ではないことが多い。だがアワーズにおいては社員たちがよく笑い、楽しそうに打ち合わせや仕事をしている光景を日常的に見ることができる。

親生がアドベンチャーワールドを訪問した11/26。偶然にも、社員食堂で初の試みとなるアルコールも含めた食事会が開催されていた。参加者の多くが社員とその家族たち。食堂の中を大勢の子どもたちが走り回り、大人同士は談笑し合っている。これもまさに理念に基づくものだろう。まさに理念が会社運営においても実行されていると感じる光景だった。

今回の「つながるsmile 竹あかり」プロジェクトにおいても社員やお客さんたちとの「こころ」と「とき」を共有する理念が通底している。社員やお客さんが一緒になってつくった竹あかりを灯し、点灯が終了した竹あかりは粉砕し、ジャイアントパンダ食用竹林の堆肥として使用し、資源を循環させていくという。

この循環の思想は、「ちかけん」が企業当時からうたう「ちかけんの柱」とも非常に親和性に富んでいる。(http://chikaken.com/concept/)ちかけんは竹の循環的活用を訴え、使用した竹あかりを粉砕して堆肥にして作物を育て熊本市内のレストランで使用する、といったことも行ってきた。年間を通じて大量の竹を使用するちかけんであるが、その大部分は燃やして灰や炭にしたり、粉砕してチップにして活用するといったことを続けてきた。

この二つの会社の理念が、パンダという触媒を通じて必然的に出会って生まれたプロジェクトが今回の「つながるsmile 竹あかり」なのだ。このプロジェクトのために親生は11月26,27日とアドベンチャーワールドに竹あかり指導に訪れた。ここで竹あかりのつくり方を指導し、学んだアワーズの社員たち自らが12月に点灯する竹あかりを制作する。また、同時に竹あかりのワークショップも開催され、お客さんたちの制作する竹あかりもある。それら竹あかりが12月21日から年を越す1月5日まで、来場者をあたたかく迎えることになるのである。

アドベンチャーワールドには壮大な構想がある。上記のプロジェクト紹介ページに【「竹幹」の将来的な活用方法としてバイオコークス」や「竹粉」、「工芸品」などの可能性を模索、「循環型パーク」の取組を進めています】と記載があるように、竹幹の総合的な活用をすすめているのだ。その一環としての竹あかりであり、今後、竹を用いたコンクリートやプロダクトの開発など、さまざまな竹の利活用を発信する拠点としていくのだという。ちかけんがずっと願っていた「竹の循環的活用」のひとつのかたちが、このアドベンチャーワールドで生まれようとしている。そのことに親生はたまらなく胸を躍らせている。まずは12月の竹あかりを成功させることに注力させ、同時に多種多様な取り組みを仕掛けていくようだった(2019年11月27日 橋口博幸 記)

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