調子はどう?
※FUKAIPRODUCE羽衣第25回公演『スモール アニマル キッス キッス』の内容にかかわることがたくさん書いてあります。全編にわたるネタバレ。
しばらく経って落ち着いてから書こうかとも思ったんですが、公演動画の配信は9月13日までだし、冷めないうちに一気に書くのもいいなと思って、同じく9月13日まで販売中のサウンドトラックを聴きながら書きあげました。ほぼ全編ですよこれ。音質もクリアです。ミュージカル音源が好きな人はぜひ。デモ音源を視聴してからでも。
※上演台本を入手したので歌詞と台詞の表記を台本にそろえました。それにともなって、台詞が「台本ではこうだけどこんな風に聞こえた」という部分は太字にして追記しました。役名については台本における表記がやや複雑なので、記号と作中の呼称の表記のままにします。
※とにかく長いので目次で「おわりに」(ネタバレ少なめ)まで飛ばして読んでも大丈夫です
・はじめに
FUKAIPRODUCE羽衣の作品をおいかけるようになって7年くらい。第15回公演『サロメvsヨカナーン』のタイトルナンバーがウェブで公開されたのを出演していた枡野浩一さんづたいに知って〈ひとりぼっちよりもマシだから愛してる〉というフレーズにやられたのが先だったか、山階くんはきっと好きだと思うから、と第13回公演『甘え子ちゃん太郎』のDVDを知人に借してもらったのが先だったか、どちらにせよ2013年秋の第16回公演『Still on a roll』は2、3回くらい観に行きました。
それからはなるべくすべての公演と「FUKAIPRODUCE羽衣LIVE」に足をはこび、好きになった曲、そらで歌えるようになった曲もたくさんありながら、公演の単位でばっちりはまったと感じたのは『スモール アニマル キッス キッス』がはじめてでした。そこで、全曲レビューを書くことにします。
(追記:こちらが最初のふわっとした感想)
開演まで
役者たちは、開演する前から舞台にひとりずつあらわれて、それぞれたずさえた子供用のビニールプールに息を吹き込みます。ふくらませたら横になってプールに丸くおさまり、全員がおさまったところで暗くなり、開演。ひとりひとつのビニールプールは全編にわたって大活躍します。
ハナレバナレノアダムトイブ
メイン:緒方壮哉(libido:)【客演】
佐々木由茉【客演】
夜明け前。2人の目をさましたのは太陽ではなく恋の衝動だといいます。お互いの姿がなんとか見えるほど離れた島にいる2人。声は届かない距離。感情の強いエネルギッシュな発声と動き、それに見合う壮大な曲調。2人を隔てる海と波がときおり声や歌をさえぎる表現が印象的でした。風と波に見立てた手がビニールプールから伸びて揺れているさまがきれいです。それぞれのモノローグと歌唱(Aメロ)のあと、サビは2人で。
裸のままで 岸壁に立ち
あなたを呼びたい
風に搔き消されないよう
喉が千切れるほどの声で
ハナレバナレノアダムトイブは
互いの名知らない
一緒に林檎食べよう
甘い吐息で こんど名前教えて
そして、続くCメロは夜明けのおとずれを歌います。朝日とともに希望が見えてくるようだけれど、最後までお互いの声は相手に届かないまま。アウトロと波の音がスッと止み、次の曲のイントロがガッと流れます。
◎ビニールプールポイント:それぞれの島、まわりの海。
スモール アニマル キッス キッス
メイン:浅川千絵
からっからの喉
がさっがさの肌
こびりつく目脂
べたっべたの髪
軋んでる背骨
ドブ臭い口臭
スモール アニマル キッス キッス
スモール アニマル キッス キッス
自虐と露悪にぬりつぶされた自身のすがた、あるいは人間なんてみんなそんなもんだ、というような視点は、「endless sex in the world」とかにもあったけど、そういう言葉をてらいなく思わせてくれるのは、身体の存在感なんじゃないかと思います。前曲の夜明けのシーンから一変、明るさをおさえた舞台での全員の歌唱とギラギラした群舞はそうとうかっこいい。
象とウサギの出てくる長台詞もやっぱり露悪的で、いわゆる「ぞうさん」「うさぎさん」みたいなイメージを逆手に取っていてスカッとします。〈スモール アニマル キッス キッス〉のフレーズが繰り返されるラスサビのなかで一旦テンポが落ち、照明がさらにおさえられたなかで全員でゆっくりと、宙に向かって誰とも交わらないキスをするのがかなり良かったです。これがタイトルナンバーということは、「ハナレバナレノアダムトイブ」はいわゆるアバンだったのかな、とも思います。なんてぜいたくなアバン。
◎ビニールプールポイント:それぞれのお立ち台のイメージ。
若いパパ
メイン:《パパ》澤田慎司
《ヨシ坊》平井寛人(高橋義和の代役)
《ママ》田島冴香
若いパパ 大学行ってりゃ3、4年
可愛いママ 日中男と逃げた
仕事帰り 暗い部屋で 2歳の息子が泣いてた
歌詞はこれだけ。歌の部分・パパとヨシ坊のエピソードの部分が交互に繰り返されるわかりやすい構成と、なにかを振り切ろうとするようなやけに明るい曲調と快活なダンスが、シンプルなのに読むほどにしんどい歌詞を引き立てます。たとえば〈大学いってりゃ〉という仮定から逆算される、ありえたかもしれない現在=未来。
◇「あの、あのね、あたし、やっぱり、ヨシ坊と離れて、生きていけない……」
◇「毎日毎日、いっつも、ヨシ坊のこと、考えちゃうの……」
❖「……戻ってくればいいじゃん、うちに。」
◇「ごめん。それは、難しい……」
❖「なん、なんでだよ、難しいってなんなんだよ!」
◇「ごめん。めちゃくちゃなこと言ってんのは、自分でもよくわかってんの。ごめんなさい……」
❖「俺だって、ヨシ坊と離れて生きていけないよ!」
そしてヨシ坊はママのもとに引き取られていきます。パパとヨシ坊が手に手をとって楽しそうに踊っているところにママが登場すると、気付いたヨシ坊は駆け寄って抱きつき、(パパと踊っていたのと同じ振り付けで!)ママと踊りながらはける。それを立ち尽くしたまま見送ったあと、ダメ押しのように歌……。
若いパパ 大学行ってりゃ3、4年
可愛いママ 日中男と逃げた
仕事帰り 暗い部屋で 2歳の息子が泣いてた
1人で暗い部屋に帰り、いつものくせで「ただいま」とつぶやいて靴を脱ぎ、かばんを下ろす。視線を落とすように腰を少しかがめて、ヨシ坊のいたあたり(が玄関からすぐ見える部屋のサイズ感が想像できる)をながめて……暗転せずに終わる。もしかしたらいちばん後味が悪かった曲かもしれません。
◎ビニールプールポイント:パパとヨシ坊の布団は隣り合っているはずなのに舞台上の配置はけっこう離れている……ハグするシーンが見どころ。
hand clap man
メイン:岡本陽介
『瞬間光年』からのリバイバル。蛙に扮したコーラス隊がきょろきょろしたりジャンプしたりするかわいげのある動きと〈ピチョン ピチョン ピ……〉というすこしまぬけなコーラスが、直前のシーンの重たい雰囲気をすこしずつ薄れさせていくすごい采配だと思いました。
「ここはロンドン。 オレ、イギリス人。ちょっと雨降ってるけど傘持ってない。だってこの世には、イケてる傘一本もないんだもの、バッド・ワールド!」
陽気な彼は、待ち合わせ場所にあらわれない〈すっごく優しくてとってもナイーブ〉な親友をあちこち探し回ります。ロンドン、隣町、マンチェスター、ヨーロッパを巡ってインドまで……。最後のシーンは『瞬間光年』では(全体の構成もあり)カウントダウンの演出がとにかく目立つ感じになっていましたが、今回は親友と彼の関係に残された謎の余韻をしっかり味わえるようになっていて、さらに好きになりました。
◎ビニールプールポイント:あるかないかの存在感。みんなすいすい入ったり跨いだりする。主人公が走り抜ける位置のプールをコーラス隊が1つずつ順によけてあげるとこがかわいい。
う~まんさんせっと
メイン:鯉和鮎美
村田天翔【客演】
◇「一杯、2700円。たけー。でも、今のあたしにとって、2700円って、子供のころのあたしにとっての、10円くらいの、価値。つまりこのテキーラサンセットは、子供のころのあたしにとっての、チロルチョコ、みたいな、感覚。ちょっとした、おやつ。なんとなくの、息抜き。取り立てることのない、2700円の、テキーラサンセット。
すいませーん。おかわり。」
デイトレードかなんかで、優雅に高級リゾートホテル暮らしができるくらい稼いでるお姉さんが、プライベートビーチの寝椅子でカクテルを手に夕暮れの海をながめる……ベタの塊のような光景。(一緒に観た友人が、どこにもないのにビーチパラソルが見えるようだったと言っていた。たしかに。)
❖「アンビリーバブル!二杯目ということは、2700円×2で5400円です。大学の近くの磯丸水産なら、もう食べまくりの飲みまくりで、お腹パンパンのべろんべろんです。ちっちゃなグラスにちょっとしか入ってないし、ほとんど氷だし、こんなのに5400円払う金銭感覚、どうなっちゃってんでしょう!金持ちって宇宙人ですかぁ!?」
そして、大学生活最後の夏休み、前半アルバイトで後半遊ぶと決めてきているリゾートバイトの大学生。役者の全身から発せられる、こういう子いるよな~という存在感がすごかったです。〈この夏、俺、金持ち観察します。リゾートバイトは、社会科見学です!〉みたいな軽薄な(?)感じとか。
◇「はい、これどうぞ。」
❖「え?」
◇「チップよーー。」
❖「ありがとうございます!」
というやりとりが、流れを整える感じにはさまれます。
◇「お兄さんは、夕暮れ好き?」
❖「夕暮れですか?ん~。好きですね。なんか、胸が、きゅ~っと、する、感じが、好きっすね」
◇「わ~、ベストアンサー!」
という、なんかいい感じのやりとりの直後にもはさまる。
そして中盤、ビーチに台風がせまってきているシーン。
◇「お兄さんの寝泊まりしてる部屋は、海見える?」
❖「従業員の部屋は一階の裏側なんで全然見えません」
◇「あたしの部屋からはよく見えるよ。」
❖「このホテル、オーシャンビューが売りですからね。」
◇「怖いくらいよく見えるんだから。」
❖「いーなー。」
◇「夜とかもう漆黒の闇だよ。台風怖いな。」
❖「確かに。」
きたきた、と思いました。これはあれだ、羽衣を観まくってるからわかる。部屋に行っちゃう流れだ。ね、羽衣だもん! しかし……
❖「あ、もしかして、おかわりじゃないですか?」
◇「正解。」
❖「かしこまりました。少々お待ちください。」
◇「あ、待って。はい、これどうぞ。」
❖「え?」
◇「チップよーー。」
❖「ありがとうございます!」
「え?」はこっちの台詞であった。おかわりのタイミングもそうだけど、お互いの空気感をなんとなくつかんできてるんだろうなとは思いつつ、そういう流れにはならないんですね……。
その後、チンピラ(演:キムユス)にからまれたところをお姉さんに助けられたバイトくん、お礼に(〈と言っても、俺、ラーメンぐらいし、ご馳走できないけど……〉)2人で花火大会に行き、帰り道にバイト期間が間もなく終わることを告げます。
❖「本当に、ありがとうございました。」
◇「こちらこそ、ありがとうございました。」
◇「あっ、UFO!?」
❖「えっ!?」
(◇、空を見上げた❖の頰にキスする)
◇「Boys be ambitious!!」
❖「はい!!」
ここで2人が動きを止めて、はけていた全員がわちゃわちゃ急いでいる感じを存分に出しながら舞台に戻ってくるのを見て脱力させられたあと、鯉和さんがぼーいず びー あんびしゃーす!と言いながら広げていた両手を、すっと指揮するように振り上げ、全員の息継ぎ(の音)がばっちり入って「いかにもやってます」感でラスサビに突入するのが好きでした。
サンセットには
忘れたやさしさ
心の奥に
じんわり蘇る
サンセットには
まだ見たことない
人生になんて
怯えたりしない しない しない
◎ビニールプールポイント:客席側に並べた青色のプールが海になってる。
カーナンパ
メイン:平井寛人(高橋義和の代役)
日が暮れそうな暗い海で、たったひとり釣りをしている。日髙さんのギターの生音をバックにして歌いだす。
あれれれ ちょっと様子変
体が なんか様子変
うーん まいったー
病院行かなきゃ
うーん まいっか
パス パス
体が、心が、頭が、調子をくずしていく、この取り合わせはあれだ………
古びて 油差しても
やっぱちょっとずつ動かなくなってく
頭 体 心
ずりずり引き摺って生きてる
(「茜色水路」)
でもこの曲では、あたりはもう真っ暗に近い。
「都会に住んでたころは、よくカーナンパした……
ネオンを反射するサイドミラーみたいに、ピッカピカに輝いてるマイメモリー……」
記憶にすがりながら釣りをしている、あまりにも孤独な感じ。最後のシーンでは大物を釣り上げたようだけど、辺りは真っ暗、その後の安否も不明な感じで後味がめちゃくちゃ悪い……。
◎ビニールプールポイント:日髙さんがおさまってギター弾いてる。
姉妹の島のお終いの歌
メイン:《姉》深井順子
《妹》新部聖子
夜になって潮が満ちたときだけふたつに分かれる姉妹の島の姉妹のたましい〈アネネ島〉と〈イモモ島〉の会話。内容はあるようでないようで、そのうち島から抜け出していろいろなものに乗り移っていきます。
夜に 夜に なったら
おなかが おなかが へったよ
心の 中も ちょっぴり
なにかが 足りなく なったよ
だけど そばに 誰かいりゃ
おかしい 楽しい 夜ご飯
そのさなか、レストランで食事している姉妹のシーンがはさまります。このシーン、2人の会話だけで完璧に成立しているので、一部を引用するのも気が引ける感じ……とにかく完璧なんです……。姉妹の島たちのじゃれあうようなトーンの会話とのコントラストもあいまって胸に沁みました。
その後、ふたたび島の本体に戻ってきて、名前を呼びあう2人。
夜に 夜に なったら
暗く 暗く なったよ
心の 中も ちょっぴり
暗く 暗く なったよ
だけど そばに 誰かいりゃ
おかしい 楽しい 夜になる
◎ビニールプールポイント:となりのプールどうしでふざけ合っている。
検品ラインくだり
メイン:《リーダー》田島冴香
《松本さん》松本由花
「検品ライン」と「ライン下り」……説明するまでもない曲名の言葉遊びを愛せてしまうかどうかで乗りきれるかどうかが左右されるのかもしれません。言うまでもなくぼくは好きです。大好きです。
(ビニールプールの?)検品ラインの深夜バイト。理屈っぽくこだわりの強い《松本さん》の言動に辟易しながらも、仕事をこなしつつ相手をしているバイトリーダー。ある時点で限界を迎えて叱り飛ばすんですけど、《松本さん》がほぼノーダメージでそのまま自分の意見を言い返しはじめるところが嚙み合ってなさの最大値を叩き出してる感じでうっすらこわい瞬間でした。とはいえ全体としては小競り合いという感じで、殺伐としてしまうほどではない(と思いたい……)のですが。
誰かが 誰かと会って
誰かが 誰か嫌って
誰かが 誰かを愛し
誰かが生まれ
検品ラインくだり
いいこと何処かにないかな? 悪いことないとこ何処かな?
歌詞もちょっとこわくて、モノの欠陥を探す検品の話題と、人が人と出会うみたいな話題が並べられると、検品的な視点で他人のことを見てしまっているという面が見えてくるんですよね……。曲調はわくわくする感じだしビニールプールを存分に使ったダンスもかわいいんだけど不安になってくる感じが絶妙でした。
ちなみにいちばん好きだった《松本さん》の叫びはこちら。
「冷血!鬼畜!おまえの正体を暴いてやる!!」
◎ビニールプールポイント:劇中でビニールプールを(たぶん)ビニールプールとして扱っている唯一のシーン。ラインを流れるプールのみなさんの振り付けがかわいかった。袖から出てきて「プールになる」動きが特に。最後は全員プールごといなくなる。
midnight darling
メイン:《日髙さん》日髙啓介
《りっちゃん》岩田里都(シラカン)【客演】
恋人同士の《日髙さん》と《りっちゃん》。2人がゴクゴクと音を立てて水を飲むところからはじまります。2人はほぼ絶え間なく踊りつづけていて、規則性はありながら実際の台詞に合わせた身振りとぴったり符号させてあるわけではない不思議ないくつかの一連の動きが印象的です。バレエのような箇所があったり、コンテンポラリーダンスっぽくもあったり。
❖「中高年にとって、クーラーのない熱帯夜のセックスは、命がけだ。」
◇「あたし買おうか、クーラー?」
❖「年下のお嬢さんに、クーラー買わせちゃいけない」
◇「別にいーのに」
❖「クーラーないから、俺は命がけだった。命がけで君を抱いた」
◇「日髙さん、お疲れ様です。」(お疲れ様で~す!)
❖「りっちゃん、最高に素敵だったよ。」
◇「どうも。」(どうも~)
楽しげな雰囲気から2人が好きあっている様子はうかがえるのですが、《日髙さん》はもう10年以上「死にたい」気持ちと付き合っていて、あっけらかんとした《りっちゃん》のおかげでぎりぎりバランスを保っているような感じもありました。
❖「俺なんてさ、こんな安アパートで、お金ないし、クーラーもないし、未来は暗いし……」(クーラいし……)
◇「はは。」
❖「友達もそんないないでしょ。もう、死にたいが友達だよ」
◇「ちょっとー。」
❖「恋人かもしれない。」
◇「恋人はあたしでしょ!」
❖「りっちゃんは神様。」(か・み・さ・ま!)
◇「なにそれ。」(な・に・そ・れ!)
《日髙さん》は、「死にたい」との付き合い方として、死にたいの「に」を「似」に、ちょっとだけ変えることで、
❖「死にたいんだけど、死に限りなく近い、死に似てる状態になりたいってことに、しちゃうの。」
という謎のアイデアを示して、《りっちゃん》に〈一緒に死のうって言ったら、死んでくれる?〉と問います。答えが〈あたしが? 日髙さんと? なんでよ?〉だったから安心していたら、さらに……
❖「ん、夢。俺の夢。」
◇「なんのこっちゃ。」
❖「りっちゃん、25でしょ。俺、50でしょ。昔からずーっと思ってたの、自分の半分の歳の女性と、一緒に死にたいって。」
◇「最低ー!」
❖「最低だけど、これ、すっごい難しいことなんだよ。だって来年になったら俺51、りっちゃん26、半分じゃなくなっちゃう。」
◇「そうだけど。」
❖「現世では、もう今年しかチャンスない、ラストチャンス!」
◇「でも、日髙さんにとって、死にたいは、死に似たいだから……」
❖「そう。りっちゃんと一緒に、死似たい!」
◇「え~どうやって?」
《りっちゃん》の「え~どうやって?(えぇ……どうやって?)」がすごくて。《日髙さん》の言いだした素っ頓狂な願望に、戸惑いながら、それでも付き合ってあげようという切り返しがわかる声色がよく効いてました。
ていうか《日髙さん》50歳だったの?!という驚きもありました。元気じゃん!……それだけ歳が離れていたらお互いすれ違いやもどかしさも少なくはないんだろうな、というひりひりした感じがしてきます。
そして《日髙さん》のレクチャーがはじまります。なにもかもイメージのうえで進行していく、思考実験みたいな感じが面白いんですよね。
❖「簡単、簡単。まず横になって、手を繫ぎまーす……」
◇「うん。」
❖「それから、右目が鼻、左目が口だと思って……」
◇「え、難しくない?」
❖「イメージだから、集中して……」
◇「はい。」
この「心中ごっこ」のシーン、《日髙さん》も《りっちゃん》も終始ちょっと楽しそうなのが伝わってくるのがよい……。そして2人は眠るのですが、たぶん熱帯夜だからか、変な夢?のシーンがはさまります。
❖「ネエ、モシ、イッショニシノウッテイッタラ シンデクレル?」
◇「アタシガ? ヒダカサント? ナンデヨ?」
さっきも見たようなやりとりが、今度はロボット(200歳と100歳)、樹木(2000歳と1000歳)、星(2000000000歳と1000000000歳)の《日髙さん》と《りっちゃん》によって(3度!)繰り返されるんですが、結末だけは違って、
◇「ドウヤッテ イッショニシヌノ?」
《りっちゃん》が問いかけると、《日髙さん》が(ロボット、樹木、星の)死に方を告げ、《りっちゃん》がうなずいて、ごっこ遊びではない心中が果たされているんです。そして夢が終わって……
もうちょっとだけ すごく眠いけど 触れ合ってよう
ねえさっきまでずっと 抱き合った(◇あなたは何処)(❖あなたは何処)
影も形もない……
メロウなギターの前奏が、そのままこのCメロのメロディだったことに気付いた瞬間はすごく気持ちよくなってしまいました。糸井さんの曲の構成って実は(?)堅実ですよね。だから安心して歌詞としっかり取り組める……。
最後の場面、みなさんどう思われましたか。夢の中では心中が果たされたけど実際には……というシーンなんですが、《日髙さん》が生きてるのか死んでるのかで全然ちがう結末が見えてきますよね……。
◇ Oh! oh! oh! darling 人生、今の調子はどう?病気してない?
❖ Oh! oh! oh! baby 君こそ、今の調子どう?
ところで、何度も繰り返されるこのかけあい、内容としては「How are you?」くらいのことしか言ってないのに、だからこそ言いあえること、言いあう相手がいることのありがたみをじわじわ感じます。「果物夜曲」「お金の話しが終わったら」「crazy love」「サロメvsヨカナーン」……。FUKAIPRODUCE羽衣の相聞ナンバーの系譜にまた素晴らしい曲が加わってしまいましたね。
◎ビニールプールポイント:あったものがなくなるとすっきり広々とする。シーンにプールの出番がないのもよくわかる。
夜中の虹
夜中の虹だ、このやろう! 暗いから全然見えやしねえよ
何語で悟ったって 何語で祈ったって
暗いから全然見えねえんだってば!!
この世の終わりかたは どんなもんか全然わからんが
もう ふしだらすぎて 赤い顔が 全然おさまんないよ
『甘え子ちゃん太郎』からのリバイバル。台詞のない、歌だけの曲。歌詞がとにかくよくて、全員で歌うラスサビの盛り上がりは全体のクライマックスといえるほどの迫力でした。音源が別録りなのを生かして、ラスサビの直前で全員が口パクをやめ、歌だけが大音量で響きわたるなか舞台上にただ存在している感じになっているひと時はしびれた……。
おそらく〈何語で…〉の文脈につながるマクラとして、四大文明とその言語の話題をわざわざ(?)持ち出してくる、超巨大な大風呂敷を広げる感じ、ああ糸井さんの作詞だなあと思って安心してしまいます。
雨のあとに出る虹は希望の象徴だったりしますが、〈夜中の虹〉は、見えないけれどたしかにある希望、あったとしても〈全然見えやしねえ〉希望、という(同じところを?)ぐるぐる回り続けるような魅力的なモチーフですね。
ところでこの曲、台詞もないし間奏も長すぎないし、サビも盛り上がるし、カラオケにぴったりだと思うんですが、いかがでしょうか(?)。
◎ビニールプールポイント:古代の労働?のシーンで重い物として扱われているのが意外性があってよかった。それが積み上げられたときの迫力。
レイワダンシングクラブ
メイン:キムユス
岡本陽介
浅川千絵
「朝が来た、かもしれないが、来てないかもしれない。オレには、わからん。何故なら、ここ、レイワダンシングクラブには、窓ないから。地下だから。」
う~まんさんせっと(夕暮れ)、カーナンパ(日没)、姉妹の島のお終いの歌(日没~夜)、検品ラインくだり(深夜)、midnight darling(夜中)、夜中の虹(夜中~朝)と、ゆるい時系列のように曲が並んでいた流れを裏切るように、時間からはみ出したような不思議空間が出現します。客が誰もいない「レイワ」ダンシングクラブ……これまで演劇のほうに引き寄せられていた心が、いまの世界の空気感のことを嫌でも思い出します。
閉鎖空間で繰り広げられる限りなくデフォルメされたようなセックスアンドバイオレンスのシーンはパラレルワールドというか、夜中の白昼夢?だったのかな、最後はダンスクラブが夜明けを迎えます。夜じゅう騒いだあとの気だるい感じが狭い空間に充満している感じが伝わってくるよいシーンでした。
◎ビニールプールポイント:積み上げたのをぶっ壊す気持ちよさ。
ラストシーン
「ハナレバナレノアダムトイブ」の2人のシーンの続き。前曲で朝を迎えたところからふたたび時間の流れのつながりが復活したようにも思いました。〈そっち、行っても、いーい!〉〈今、行くよー!〉と叫びあいながら、やっぱり声は届かないのに、それでもお互いを隔てる海へと一歩ずつ踏み出しながら、暗転。
カーテンコール
いつものようなカーテンコール、だけどリップシンク。深井さんが「ありがとうございました」の途中で急にリップシンクをやめて投げキッスしはじめるのがかわいかったです。それに続いて全員が投げキッス。こんなにたくさんの投げキッスを一度に見たのはじめてかもしれない。
・おわりに
今回はオムニバスということで、それぞれの曲がしっかり独立しているのが好きになった理由のひとつかなと思いました。とはいえ、なんとなく時系列の雰囲気はあるし、「水」「海」「樹木」「蛙」「お金」といったモチーフの繰り返しをはじめ、組み合わせや順序は注意深く定められているようで、結果すごく全体のバランスが良かったんだと思います。もちろんすべての曲の完成度が高いというのもあります。
終盤、「midnight darling」「夜中の虹」とぐいぐい盛り上がってクライマックスを迎えた……あとに「レイワダンシングクラブ」のヌルヌルした世界に叩き込まれる感じ、いちばん感情がたかぶって気持ちよくなった瞬間では終わらせてくれない感じ、これが羽衣の「妙」さの核になっているのかもしれないと思いました。それはそれとして「ハナレバナレノアダムトイブ」の、特にラストシーンの2人の姿は、全体に(もしかしたらいつもよりも濃く)孤独や断絶のイメージが満ちているなかに、わずかな希望がなくはないというくらいの塩梅を感じさせます。最後の台詞がお互いには聞こえていない〈好きー!〉だなんて……。
今回の新曲のなかで、特にこれは!と思ったのは「う~まんさんせっと」「姉妹の島のお終いの歌」「検品ラインくだり」です。
「う~まんさんせっと」は、バックコーラスの「楽しいな」「夏休み」という雰囲気もあいまって(これまでの羽衣だったら)バイトの大学生とどうこうなってもおかしくないと思わせる状況なんだけどそうはならないところが、主人公の孤独をより深く見せる感じがしました。でも、モノローグで語られるように必ずしも孤独=絶望ではなくて自分の意志はしっかり保っている感じ。それでいて大学生との関係もそれなりに楽しんでいる感じ。そんな主人公像がいままでの羽衣ワールドにはあまりなかったような気がします。バイトの大学生も、モノローグを含め言動にほとんど性欲があらわれない、羽衣にはめずらしいさっぱりしたキャラクターです(役者の雰囲気も)。
「姉妹の島のお終いの歌」は、これまで描かれてきたタテの家族関係(父と子、母と子、兄と幼い妹……)ではなく、比較的フラットにみえるヨコの家族関係が描かれているのが新鮮でした。
「検品ラインくだり」は、繰り返し描かれてきた労働の場面ですが(たとえば『よるべナイター』(再演)にあった性風俗店の裏方の光景のように)そこまで殺伐とするわけでもなく、こういうふわっとした空気感はもっと見てみたいなと思います。
この3曲にゆるく共通するのは、テーマが「恋愛や性愛に(強く)紐づけられた」「異性どうしの」関係性に依っていないということだとも言えます。もちろん「midnight darling」のような名曲(追記:これまでの路線とはいえ、2人の関係に援助交際とかヒモ関係みたいなお金の絡みがほとんど見えないようになっているのは自分の意志でしっかり好きあっている感じがしてなんだかうれしかったです)は今後も生まれることでしょうが、そうではない切り口から語られる作品にも期待してみたい。これまでの魅力はそのままに新たな境地も垣間見えた、そんな公演でした。