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ステイシーくん、おうちに来る

 さて、ステイシーくんを乗せて車で走ること約50分。ようやく家に着いた。
 あんまりかまわない方がいいかな、と思って道中は見ないように見ないように、と意識しまくりだったキャリーケース(&おねえさんが薦めた重ーい砂その他)を両手両脇に抱えながら、ゆっくりドアを開ける。

 ガラスケージの中でぽやんと佇んでいるリクガメのアンクくんに、小さな、でもウキウキした声で「ただいま。弟が来たよ」と言いながら、隣の部屋に入ってキャリーケースをそっと床に置いた。

 さあ。ステイシーくん、おまたせ。おうちに入ろうか。

 アクリルケージの扉を開けて、そおっとそおっとキャリーケースの蓋を開けながら中を覗き込むと……

 バビュン!

 擬音で表現するならそんな感じで毛玉が動いた。
 は、速い!
 え、どこに行ったの?まさか、逃げた!?いやいや、確かにケージの中に入って行ったはず……。

 焦りながらキョロキョロケージの中を探すと、灰色毛玉が隅っこでまんまるに縮こまっていた。

 ケージに入ってくれた、という安堵とともに罪悪感が胸に押し寄せてきた。

 ごめんね。怖かったんだね。

 私が、もしも見知らぬ巨人にゆらゆら揺れながら連れてこられて、知らない部屋に入らされたら、そりゃこうするよな。

 毛玉、もといステイシーくんは微動だにしない。大丈夫かな、大丈夫かな。

 私は完全にオロオロしながら、それでもそっとケージの扉を閉めた。そっとしとこう、そっと。

 ケージからゆっくり離れたが、それでも気になって気になって、ケージの方を見てしまう。

 もう薄暗くなっていたので、買ってきた「デグーセレクションプロ」というペレットを、お店のおじさんの教えどおりに二粒皿に入れ、「開けるよ〜」と声を掛けながら私はケージに皿を入れた。

 バビュン!

 ……え。
 またしてもステイシーくんはめちゃくちゃ速いスピードで隅っこから動いたかと思うと、また隅っこに戻っていた。
 カリカリカリカリ。
 うん?と見ると隅っこで背を向けながら、ペレットを齧っている。皿を見るとペレットは一つ減っていた。

 よかった。ご飯食べてる。

 食欲があれば、とりあえず大丈夫。
 私は安心しながら隅っこのカリカリ音を立てる毛玉を眺めた。

 今日からよろしくね、ステイシーくん。

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