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ステイシーくん、撫でさせてくれる

 回し車をカラカラ爆走するステイシーくんを見て、ホッとした朝以降、私はお世話係に徹すると心に決めていた。

 飼育本や先達の飼育ブログにはこう書かれている。
「お迎えから1週間くらいは、食事を上げたり汚れたところをきれいにしたりなどの簡単なお世話だけにして、無理に触らないようにしましょう」

 ケージを開ける前に、常にそれを自分に言い聞かせて3日後だろうか。
 ステイシーくんは自分から私の手に寄ってくるようになり、ふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。
 手の甲をふんふんする毛玉を見て「うおお~可愛い、触りたい、触りたい、もっふもふや~」という気持ちが込み上げてこない者がいるだろうか、いや、いない。

 でも、待て。冷静になれ、私。
 さあ、冷静になるために「自分が見知らぬ巨人に囚われてから3日後」の妄想をするんだ。
(どうでもいいが、妄想の中の巨人は、「進撃の巨人」に出てくる巨人になっていた。敵意のない、ニコニコ笑顔のあの巨人を想像すると不気味だった)

「違う、これは「この巨人はボクに害を加える気はないようでちね。ちょっと様子を伺ってみまちゅかね」という「ちょっと警戒を緩める」程度のことだ。これで調子に乗って撫でくり回してみろ。「な、なにちゅるでちゅか、やっぱり取って食う気でちゅか」と怯えさせかねない」と自分に言い聞かせて、必死でこらえた。

 ただ、黙々とお世話するのもなんなので、「ステイシーくん、ご飯ですよー」「ちょっと汚れたからキレイキレイしますよー」という声掛けだけはしていた。
「この巨人、あなたに害は加えません。心を込めてお世話いたします。あなたのことが大好きです」
 そういう気持ちを含ませながら声掛けをした。

 そんなこんなで一週間が過ぎ、私がケージに手を入れてご飯をあげたりお掃除したり、というルーティンにステイシーくんも慣れた様子を見せるようになった。
 ちょっと手にまとわりついてきたり、固まることなくケージを歩き回ったりし始めている。
「そろそろいいかな」と思った私は、おそるおそる、ぎこちなくステイシーくんの顎の下付近を触ってみた。
 そう。
 いわゆる「カイカイ」にチャレンジしたのだ。

 ・・・・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・。

 ステイシーくんは特に嫌そうにはせず、といって「片手を上げて「カイカイしてもいいよん」モード」になることもなく、無言で私のなでなでを受けてくれた。

 ・・・・・・ええっと、これは撫で続けてもいいのかな?わ、分からない・・・・・・。
 気持ちいい様子ではない。
「撫でたいようなので、撫でてもいいでちよ」
 そんな表情だ。
 ・・・・・・とりあえず、少しずつ撫でる時間を増やしていこう。焦らない焦らない。本日はこれまで。
 
 それでも私は、少しでもステイシーくんを撫でられたことに感激していた。小さくてちょっとでも力を込めたら壊れそうな、でもふわふわした触り心地に、ぽわ~んとあたたかな気持ちが溢れてくる。
 あんなに小さいのに、こんなでかい巨人を信じようとしてくれるんだなあ。
 野生の危機感はどこいった、と思わないでもないけれど。

 ありがとね。
 がんばるね。
 もっと仲良くなれると嬉しいな。
 
 巨人はにへへ、とケージの前で一人笑った。

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