19年の沈殿


アイドリングの震えが強いこのバスの風邪が早めに治りますよう

せめて夢の中ではマイルを貯めようと思うが意外なほどに飛ばない

奥の人が停車ボタンを押すことでおまえの発射をスタンバイする

右は暗闇、左は光、なーんだ 京成線が切り裂くふたり

いいですと言った女がそのままのキャベツを持って歩く駅ビル

駅ナカと言っているけど明らかに外 店主には見えているんだ

お客様、ホームにガムは吐かないで ガムテープはそもそも噛まないで

権利的にかなえられない夢もときにあるのだそうだ 舞浜通過

体力の限界ですが大丈夫オートチャージの設定なので

雨が降りそうで降らない自転車が不機嫌になるリンリリンリン

暗がりでよく見えないが車から呼ばれている気がするが帰ろう

掃除機はかけたんだからお魚は焼いたんだから乗せてよバスに


F1の新品タイヤは光ってて黒くて甘くてザッハトルテで

チョコレートまだあるよねと言ったのに包装のごみだけよ母さん

口内の嵐の末にぴかぴかになった歯をまた襲う珈琲

チョコモナカジャンボ、去年の鬱憤を晴らすサクサク、サクサクな出来

かわいくて冷たい風がぼくたちの胸にアイスの実を植えてゆく

大丈夫、2日つづけてひとつずつケーキを食べればいいだけだから

わたくしは時に無慈悲にイタリアンサラダをかつお節とポン酢で

アメリカンドッグの中のソーセージだけを抜かずに棒だけを抜く

フリースローが入らない日は怖い自由 パスタも3本目から食べる

カルボナーラは友だちだから怖くない トマトソースは血の色 きらい

どんぶりにごはんが盛ってあるように見えるがあれは無印のシャツ

絹よりも木綿のほうが高級な世界はみんななめらか嫌い

タピオカ行列が切断されたあと別のタピオカ行列通過

混ぜ方が足りないようで下腹部に沈殿している君のたましい


シェーバーの中にたまったひげまでも春を迎えて花びらになる

手のひらにペンが刺さったときのキズ専用の消しゴムをください

すそ直しするのがいやで足首を伸ばし続けて大きくなった

さび抜きのボディソープは寒くならなくていいよね大人向けです

分身の術がせっかく使えても同じところで同じことする

右も左もよくわからなくなりながら台上の胃とファイナルラップ

明日もし雨が降ってもそんなにはあなたを溶かしたりはしません

何枚も切手を舌に貼り付ける ポストに入るために痩せたし

地に足がつかないきみがつらそうでガムを踏ませてあげたのですが


口元の煙の五線吹き消して空に歌えばボーイソプラノ

神様にジャンプさせられ音が鳴る人は短歌をカツアゲされる

漢字が読めないせいで眠りが来ないからふりがな欄をつくりはじめる

先生は教師というよりチューバーで「はい、というわけでね」の演習

あの人の出勤簿だけ出動簿になっているためひとりヒーロー


三万円くらい貯まるとなにか買いたくなる気持ちはよくわかります

噂だけ毎回あるね極小のiPhoneこびとさんみたいだね

誤って買った場合に返品がしやすいわたしたちの欲望

かごを横向きにするのか縦なのか教えてほしいスーパーのレジ

「エコバッグ」とビニール袋に書いてある ぼくらは何者にでもなれるよ

年齢のタイムセールで買い取った年が届いた日が誕生日


マイナンバー通知カードを通知するカードを通知するカードです


台風で家にいるのが暇なのでカラーボックスいくつもつくる

ディーラーがトランプを切るぼくはまずこたつのテーブルを裏返す

ジョーカーとエースクイーンキングあとJ Jだけがおぼえられない

においとは記憶そのもの君が置いたピンクのカーディガンからのもの

クリーニングに出せば落ちるか落ちないか賭けてみようか初恋の跡

歯ブラシのかたさの「ふつう」-目薬の清涼感の「ふつう」間の距離

単3の絶縁にしか使わなくなったセロハンテープそれでも

空っぽのカラーボックス並んでる引っ越しのあとただ眠る夜


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