うたそら参加まとめ(2021年)

千原こはぎさんの短歌誌「うたそら」、1号から5号まで参加させていただきました。何か新しいことをはじめてみたいというタイミングでちょうど創刊していただき、隔月で8首・過去作OKというのも気楽に挑戦できて大変ありがたかったです。
ここに自作をまとめておこうと思います。


秘密のおはなしアワード

この星の副音声が聞きたくて月をくるくる裏向きにする

切り分ける前の記憶がちょっとだけあると語った苺のケーキ

教科書のザビエルたちの間では落書きされてないやつはザコ

かゆいところはないですか はい でも少し 恥ずかしい過去は少しある

四色に分かれたピザの境界を通過するのに賄賂を渡す

持ち主のところに戻りたくないと泣き声のする落とし物箱

セキュリティ面からすれば黒鍵に住みたいですとピアノに頼む

ロックダウンしていますから外出はしないでください鬼もだめです

(「うたそら」1号)

もともとは星座を結ぶ線だった糸を使って話す雲たち

(「うたそら」1号 テーマ詠「空」)


ドリーム・カムズ・ドリームズ

ネットワークがつながりません管理者が不正な夢を見ていませんか

炙られるときに和風の夢を見せられて醤油はますます和風

糖質を減らしたパンを食べた日の夢では飛べる可能性大

吸入の薬を使う夢を見て白い風船たち舞い上がる

ホームランボールは落ちてくるまでのあいだ静かな夢を見ている

CDが眠ったときに弾く曲は回ったときと全くちがう

早退の夢を見ている昼休み 帰ればいいんじゃないかからだも

保護ガラスフィルムは割れるまでずっとスマートフォンになる夢のなか

(「うたそら」2号)

悠々と小径をすすめ木々はみな青信号の葉を揺らすから

(「うたそら」2号 テーマ詠「緑」)


からくりホリデー

からくりの館もきょうは休館日なのでからくりたち街へ出る

白黒の小鳥の群れが通過します 白線の内側にも来ます

からくりは感染しないはずだけどヒトに合わせてマスクもつける

くせのあるコーヒーばかり飲んでいる くせ毛をずっと気にしてるのに

64種類の味から8つまで選べるピザができると予言

体内のクリーニングに膨大なサラダを買ってサラダと過ごす

月食に生まれ変われば食べられるときを待っては戻るよろこび

マンションの詰め替え用の人間をストックしておくアパートに住む

(「うたそら」3号)

ゲームでも死ぬのはいやでゲームでも別れはこわい旅立ちません

(「うたそら」3号 テーマ詠「遊」)


さよならサマーさよなら

女子のリュックのハートチャームに書いてある言葉はSECOM ここは東京

ロボットにさよならを言うロボットは「さようなら」ってきれいに返す

台風が各地に強い雨風を ぼくにはこわい招待状を

帽子には皮しかなくてむけばむくほど遠くなる夏のはじまり

家にいるのに避暑地のほうが来てしまう お盆にそっと春物を出す

頼みごとしすぎたせいで神さまの食べるカレーはずっとレトルト

冷たい缶が濡れていくとき「水だけを出す技」と言う 地味すぎる技

有名なつけ麺屋並みの行列をミスドがつくる ここは郊外

(「うたそら」4号)

学習の機会がなくていつまでもむくのが下手すぎるゆでたまご

(「うたそら」4号 テーマ詠「学」)


くださいのビュー

「パスワードは別送します」だが俺にパスは一生回ってこない

図書館のゲートをくぐれば声量が落ちるかたまに裏声になる

キャンディでお釣りが済んでいたころに札束として渡す付箋紙

残額はアプリでわかる献立もあなたと会える残り時間も

「加熱後はここを持つ」から抜け出して切り口を持つ勇気まだない

美容師に相談をする「文章のくせもパーマでごまかせますか」

毎月のように自分のオールタイムベストを作ってないと死ぬ歳

定時より5分も早く着いたバスうれしからんや袋ください

(「うたそら」5号)

ハーゲンダッツのごほうびが許可となる痛みの基準を日々甘くする

(「うたそら」5号 テーマ詠「食」)


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