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螢川   宮本 輝

思春期の男女の周りに大量の蛍が飛び交う光景は、今ある生とやがて迎える死の二つの匂いをはらんでおり、美しく艶やかに、しかし静かに生臭く流れていく。
私も小学校の低学年の夏、蜻蛉の大群と蛍の大群を体験している。手を広げて回せば蛍が衣服に静かに止まり緑色に音なく点滅を繰り返した。あるものは網の中に収まり、緑の花火のように風に舞い上がった。
その時、私はぞっとしたのだった。子供の直感である。偶然かもしれないが、その年の夏から秋にかけては、水難事故が相次いだ。本編のストーリー設定、あらすじも昭和設定で、生育環境的にも私の生い立ちに被った。そういう記憶を蘇らせてくれた一冊でもある。
あまりに美しいものには、相反する何かが常に存在している。光と影の関係のように。そのころから、そう感じるようになった。
中学生以上に勧めたい一冊である。
 

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