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意味なんて無いけど涙が出る夜に食べる音楽

1.料理

煮込み料理も出来合いのものも刺身も、全部一曲で作ってしまうのが何ともクリープハイプらしい。アルバムタイトルが並んだのを見て、この曲と一番最後の曲がきっと繋がるんだと確信し、一言一句噛み締めながら聴いた。サビの「そばにいてくれたら それで腹が膨れる 眠くなってすぐに 二人で横になった」が今までのクリープハイプの楽曲の歌詞でも1、2を争うくらい好きな「幸せな二人」の表現です。不安や迷いがありながたも、最後も結局二人で横になっているので、この二人はこの先もずっと幸せでいるんだ、と信じたい。


2.ポリコ

久しぶりに会った友達に「最近どう?」と尋ねられた。どう?ってなんだろう、何を答えればいいんだろう。仕事?恋愛?会ったばかりで何を話すのが正解?自分のことを棚に上げておきながら、自分もよくこの質問はしてしまうと思う。お互いに困ることがわかっていて思わず切り出してしまう。本当は悩んでいることだったりを話したいし聞きたいのに、結局時間が足りないまま、相手の核心に触れられないまま帰ってしまう。相手の汚れに気付いていながらそれを指摘して拭いてあげることはできない。それをなんとかするにはきっと自分の汚れを自ら示して、お互いに掃除するしか無いんだと思った。隣で息してくれてるだけで十分なんだけども、それでも私はあなたの汚いところも知ってみたいし見てみたい。次はお互いにスッキリして帰れたらいいな。


3.二人の間

お笑い芸人のラジオが好きだ。板の上では声を張り上げ、周りを蹴散らすような掛け合いをしていても、ラジオの中だとぼそぼそと他愛もない話をしている。漫才とは違ったリズムの会話。しかしその二人にしか出せない間合いが芸人の数だけあると思う。「違う違う は え 何が」という相槌さえメロディに乗っているのがとても心地いい。メロディがぎっちり詰まっているわけでない、ぶつ切りにしたベースラインやパーカッション的な音が絶妙な間を生み出していて、この曲だけが持つ間合いを感じられる。ラジオは顔が見えないから、映像より間が空いた瞬間がよく分かる。私は「ちょうどいいそのうまい空気」を味わいたくてラジオを聴いているのかもしれないと思った。


4.四季

タイトルに「四」が入るから四曲目なのかなと思ったり。今年の春から社会人になり、学生時代からずっと憧れ続けた職種に就くことができ、誠心誠意働いていた。しかし自分の不甲斐なさや力不足を感じ、毎日自分が情けなく、心を痛める日々が続いた。参っているときに配信されたのがこの曲。歌い出し最初の2行に首がもげるほど共感して、四季の情景が思い浮かぶアレンジに胸が躍った。私はクリープハイプは夏の終わり(の夕焼け)が似合うバンドだと思っているので、「この季節になるとなぜかいつも無性に聴きたくなるバンド」という歌詞にもまた共感の嵐。その時点で本格的な夏を迎えるのが少し楽しみになった。そして秋になり正解を見出してきて、冬の歌詞が来る。「その時なんか急に無性に生きてて良かったと思って 意味なんてないけど涙が出た」という歌詞。その歌詞を初めて聴いた時、本当に涙が溢れた。この曲が私を優しく包み込んでくれたと思った。本当に辛いけど、毎日生き耐えて、冬を迎える頃には心の痛みも癒えているかもしれないと思った。冬を迎えた今、忙しいなりに仕事にも慣れ、少しずつ自分を許し始めることができています。この1年を乗り越えられたのは四季のおかげです。春が来たらまたクリープハイプに会える。そうして先の季節に楽しみを作って生きていきます。


5.愛す

歌無しのインストで聴いたらクリープハイプの曲とは思えないくらい今までにないアレンジ。尾崎さんの歌詞と声が乗ると紛れもなくクリープハイプの曲になる。愛すと書いてぶすと読ませる曲なので、言葉遊びはいつもに増して多く感じる。「君がいいな そばがいいな〜蕎麦の中の月見てる」の部分が2人の関係性を表しながらも「そば」と「きみ」(月)を掛けているのが私の好きな言葉遊びパートです。「肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい」とあるが、私はリュックのカバンをねじらせるという癖があり、昔の恋人にはよく直していただいていた。この部分を聴くとそのことを、肩に触れた指の感触まで思い出してしまうことがあるが、彼はもう忘れてしまったのだろうか。


6.しょうもな

KATYちゃんの存在を知ったのは今から3年ほど前。Twitterでタバコを片手にこちらを睨みつける写真に惹かれ、SNSをフォローし活動を追いかけるようになった。奇抜でギラギラした見た目の華やかさに反して傷つきやすい面もあり、紡ぐ言葉や想いは優しく儚い面もあり、そのギャップにもさらに惹かれていった。そんな中この曲のMVにKATYちゃんが抜擢された。そこで初めてクリープハイプの曲に出てくる女の子とKATYちゃんのイメージがぴったりとハマることに気づいた。「今は世間じゃなくてお前にあんたにてめーに用がある」と言いながらも最後は「神様どうかこんな言葉が世間様にいつか届きますように」と願う。KATYちゃんの存在も、クリープハイプの曲も、もっともっと世間様に届いてくれ。


7.一生に一度愛してるよ

タイトルだけ見たら「一生のお願い」の後日談かな?と思ったのが最初の印象。再生するとメロディがなんだかぶよぶよしてる。昔のボーカロイドみたいなメロディ。このぶよぶよ感が心地いい。歌い出し「初期はもっと勢いがあったし尖っていたのに」で、あ、これはクリープハイプのことを歌ってるのか、と理解。そのあと恋人とバンドを対比させて歌っているのか…と気づき感嘆した。歌詞のところどころに散りばめられている過去の影。「(出会ったあの日は)103です」をカオナシさんの声で言われたときは思わずウワァと小さく声が漏れた。初恋の人を思い出すかのようにクリープハイプを好きになった頃を思い出し胸がギュッとなる。出会った頃からずっとドキドキさせていてくれてありがとう。


8.ニガツノナミダ

「鬼」「破花」などダークな一面のあるタイアップ曲が好き。しかし「残りの余生を楽しむ」方向でクリープハイプらしいタイアップ曲を作るなんて…。実際にCMで使用された最初の30秒から既に“らしさ”は全開。ギターのフレーズが心地よい。この曲にも「ナミダ」が入っているけれど、「やけ泣き」という言葉はこの歌詞で初めて聴いた。けど歌い出しの2行の歌詞で情景描写が痛いほどわかるのでずっと使っていたかのようにしっくりくる言葉。45秒から始まるドロドロした部分はキケンナアソビのメロディも彷彿とさせる。ラストのサビの歌詞は尾崎さんの葛藤を歌っているようで、メロディは歌い出しと同じなのに全く違う印象を感じる。ただのバレンタイン曲、携帯会社のCM曲に終わらせないところが、好き。


9.ナイトオンザプラネット

夜、寝る前に急に怖くなることがある。今日見た聞いたあれやこれを思い出したりとか、明日来てほしくないなとか、寝坊したらどうしようとか。考え始めると止まらなくなり、ついつい悪い方へ物事を考えてしまい涙が出てしまう。寝る前に考え事をすると良く無いとか聞くけど、それで考えるの辞められたら苦労しないんだよ。考えたくないと思うほど頭の中を支配するのはその事ばかりで…。そんな時にこの曲のことを思い出すようになった。実際に聴いてしまうと頭が完全に覚醒してしまうので、自分の頭の中で再生する。自分で自分に無言で歌って聴かせるイメージ。夜にしがみつき朝を迎えるのが怖い自分へ、朝起きたらそのわだかまりを溶かせているように。するとライブでこの曲のパフォーマンスを見た時の記憶が蘇ってくる。リズムに合わせてステージの上の4人を照らす光。優しい声と音。その記憶を噛み締める。いつのまにか夜を引きずらなくなり、眠りにつくことができる。お守りのような曲。

一番上の写真は、まだ夜と言える時間に起き、朝を待ったときのもの。


10.しらす

このチンドン感、鈴のシャンシャン感、子ども番組で流れていてもおかしくないような童謡感がたまらない。「しらすのお目目は天の川」って…あの小さな生き物から宇宙を感じるカオナシさんの頭の中、本当にどうなってるんだろう。ずっとその感性のままでお爺さんになってほしいです。そして「お腹空かせて」「美味しいごはん」「食べて眠れるありがたさ」など、食にまつわる歌詞が多いことで、よりこの料理から始まるアルバムとの親和性を増している気がする。曲の最後は尾崎さんの甥っ子たちのコーラスが入る。ラジオで音源を送るコーナーなどでたまに子どもの声を投稿する人がいるが、それほんとにたまんなく可愛いんですよね。何の繋がりのない見ず知らずの声でも、子どもの声は無条件でかわいい。いつか私に子どもができたら、この歌を歌って聴かせてあげたい。


11.なんか出てきちゃってる

クリープハイプの曲は、初めて聴くときは必ず歌詞を見ながら聴くと決めている。聴いただけでは分からない、読みきれないところも全て知りたくなる。歌詞を読むことで自分の中に曲がすっと溶け込む感覚になる。しかしこの曲は、文字になっていない言葉が多すぎる。歪んだメロディの後ろから尾崎さんの声が聴こえてくる、けれど全てを聴き取ることはできない。メロディに意識が持っていかれ何かわだかまりを残したまま曲が終わってしまった。目の前で尾崎さんに自分の汚い部分を詰られ問い詰められた感覚。この曲に関しては、歌詞カード使って簡単に知ろうとしていた自分が恥ずかしくなった。怖いもの見たさでこれからもこの曲と向き合っていきたい。


12.キケンナアソビ

なんか出てきちゃってるに続き、見ちゃいけないものを見てしまった感覚。直接的な表現が出てくる訳ではないのに艶っぽく聞こえてしまうのはクリープハイプの十八番だろう。ピーと規制音が入る部分はライブでは音が入らず尾崎さんが歌うのだが、言い方がぶっきらぼうで、毎回この歌に出てくる男と尾崎さんを重ねて変に心拍数が上がっています。「火をつけて」「夕焼け小焼けで真っ赤に燃えて」という歌詞、突然プツッと終わるような最後がこの曲に通じてある不穏な空気をそのまま取り残すようで。嘘や隠し事を塗り重ねたような曲ですが、尾崎さんとカオナシさんの高音のハーモニーは美しく綺麗です。この曲にある数少ない純粋な部分。


13.モノマネ

男女のすれ違いもクリープハイプの十八番。過去曲「ボーイズENDガールズ」の2人のその後を描く歌詞だが、同じことが幸せであった2人の姿が「モノマネ」という言葉で集約されてしまうのが何とも苦しい。「全然似てない 今更泣いても〜」の部分で流れるギターのフレーズがこの気持ちにトドメを刺すぐらい胸がぎゅっと押し潰される。一緒にいることお揃いにすることが何よりも幸せだったのに、ある日を境に自分と同じものを持った存在を気持ち悪いと思ってしまう、幸せの形が歪なモノマネに見えてしまう。今までそんな恋愛ばかりをしてきました。世に言う蛙化現象。しかし気持ち悪いと思ってしまったあとでも、2人で過ごした日々の楽しかった記憶や瞬間は確かにあって。その全てを失うことや自分が人を拒絶してしまう情けなさが更に自分を追い詰めてしまう。こんな私でも、いつか誰かとどこにでもある毎日を続けていきたい。


14.幽霊失格

コロナ禍以降初めて行った現地のライブがクリープハイプの幽霊たちのライブだった。整理番号は1番。最前列の真ん中の席に座り、目の前で閉ざされている幕を見つめ開演を待った。今にも出てきそうな不穏なフレーズのと共に幕が開き、ステージが一気に明るくなると同時に演奏が始まった。半年以上行っていなかったライブハウスの音の大きさに率直に驚いた。演奏に合わせて楽器を揺らし演奏する幽霊たち。タイトルやライブのビジュアルからもっと不気味な曲を想像していたのだが、メロディと声があまりにも優しかった。今ライブハウスに足を運べていること、クリープハイプの新曲を聴けていることが幸せで、姿が見えなくても触れなくてもちゃんと伝えてくれていることに心震わされ涙が出た。たった1曲だけでも一生忘れられないライブになった。今でもこの曲を聴くと幽霊たちが演奏する姿が頭によぎる。


15.こんなに悲しいのに腹が鳴る

何か感想を綴るのが恥ずかしくなるくらい、ストレートなメロディと歌詞。腹が減ったままでは生きていけないし、生きるために腹を満たす。消えたくなる時もあるけれど結局は生きていきたいし、これからも一生クリープハイプの曲を聴いて生き続けたい。



締切に抱きしめられながら書いたのでなかなか荒削りかもしれません。自分の思いを口にするのは苦手ですが、書いたり消したりしながらなんとかここまで辿り着きました。何かこの文を読んで感じていただけるものがあったら嬉しいです。





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