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「ちーかまん」の作り方。

「ちーかまんって言います!よろしくお願いします!」

僕が色んな関係者に挨拶するときに使う台詞である。

「なんでちーかまんなの?」これは
必ずと言っていいほど理由を聞かれるので
この辺で説明しておきます。

17歳の冬に同級生の紹介で
地元拠点にしてsoundをしてる
アッチ君という人に出会った。
年齢は忘れてしまったが30代後半の大男だった。
当時の僕からすれば遥かに年上で
レゲエに関する色々な事を教えてくれた。
「Riddimは〜」とか「パトワ語で〜」とか
丁寧な口調ですごく優しかったのを覚えてる。
色んなMix cdやDVDを貸してくれた。
その度、「しっかり研究しろよ。」と一言。
そのおかげでもっともっとレゲエが知りたくなった。
今思えば本当に感謝している。
そこからアッチ君のsoundにDeeJayとして加入し
「零式(ゼロシキ)」という名前で活動し
アッチ君が主催しているダンスにて歌い始める。

高校も中退して、バイトもあまりしていなかった
ガキの自分は有り余るほど時間があり
色んな事を学ぶ時間がすごくあったのだ。
アパートで一人暮らしているアッチ君の家に
泊まり込んでは語り合い、歌詞などを作っていた。

当然アッチ君は仕事をしており
次の日は朝から出勤なので
いつも自分に家の鍵を渡して

「帰るときはちゃんと鍵閉めて
鍵はいつもの傘立ての傘の中に隠しといてくれ」

そう言い残し仕事場に出て行く。

毎日が夏休み状態の自分は
昼過ぎにむくりと起き上がり

だらだらしていつも鍵閉めて
アパートを後にするのだが
その日は昨日の夜から何も食べておらず
ものすごく腹が減っていた。
当然ニートキッズの僕は所持金が無いので
コンビニで昼飯を買う事すらできない。

ここで運命を変える行動を起こす。

他人の家の冷蔵庫を勝手に開けてしまうのだ。

ものすごくいけない事だとわかっている。
だが罪悪感より空腹が勝ってしまった。

冷蔵庫を開けてみると
中は缶ビールとおそらく
おつまみにする予定だった
「チーズかまぼこ」しかなかった。

おもむろにチーズかまぼこを手に取った。
基本的にチーズもかまぼこもそんな好きではない。
しかし何度も言うが空腹だったので
三本入りのチーズかまぼこを開け

「一本ならいいか…」と

結局、三本食べてしまった。

満たされた僕は鍵を閉め
何事もなく家路についた。

その次の日の夜にアッチ君から電話があった。

「ちょっと家に来い。話がある。」

チーズかまぼこの件だ。絶対そうだと確信した。

急いで原付にまたがりアッチ君宅に向かい
玄関のドアを開けるなりそのまま土下座をし
真剣に謝った。親しき中にも礼儀あり
色々教えてくれた恩人に対して
失礼な事してしまった事をこの時に痛感した。

「えぇよ。」アッチ君は笑った。

顔上げた僕は「怒ってないの?」という顔をした。

アッチ君は
「そのかわり。これからお前は「ちーかまん」や。」
笑いながら言っていたが目はマジだった。

「ちーかまん?」僕は訊き返すと

「そう。ビーニマンやペータマンみたいやん。
んでお前はチーズかまぼこ食べたからちーかまん。ガイダンス」

僕は正直最後の「ガイダンス」と言ったアッチ君のドヤ顔にイラッとしたが
どうせすぐ変わるだろうと思い「わかりました。」と承諾した。

その日から僕は「ちーかまん」になったのだ。


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