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母との再会

母が亡くなった…。母が亡くなった…。

なんだかよくわからない。もう高齢だからこういう日が来るのを漠然と考えたりしたことはあった。けど、姉から聞かされた言葉はあまりにも現実味を帯びていない、どこか遠くの世界の話のようだった。

すぐに支度して実家に戻らなければ。そう思ったが、いったん待機しておくように、との姉からの指示だった。母は自宅の浴室でひっそりと一人で亡くなっていたのだ。かけつけた救急隊員から、検視の必要があると告げられたらしい。

検視?なんかテレビドラマでは聞いたことがある。ニュースでもよく言ってるな。
「え、そんな大ごとな話?」
いまいちピンと来ていなかったが、病院で死亡したとき以外(厳密にはもっとちゃんとした決まりごとがあるのだが)、医師の死亡診断書をもらうために検視をしなければならないそうだ。

後から姉に訊いた話では、制服組の警察官2名、刑事さん2名、鑑識の方やその他にも何名かの関係者が続々と家に入ってきたという。そして刑事さんの送り迎えで、いつもお世話になっていたかかりつけ医の先生も間もなくして到着。結果的には、事件性は認められず、無事死亡診断書は作成されることとなった。

そんなバタバタがあったので、ひとまず自宅にいろ、と命じられたオレはそのままおとなしく待機していた。次に姉から連絡があったのは最初の電話から約3時間後の9時12分だった。

とりあえず帰る準備だ。何日ぐらい滞在するかはっきりとはわからないが、それなりにいろんなものが必要になる。なにせ実家には何十年と住んでいないので、自分の身の回りの生活用品などはほとんどおいてない。あれがいる、これがいる、と考えながら鞄に詰め込み、最後に礼服をクローゼットから取り出す。前に着たのはいつだっけ?相当遡らないといけない。まぁ、その頃より痩せてはいるので、入らないことはないだろう。が、念のために着てみることにした。

ウエストは問題なし。それにしても…。暑い。オールシーズン用みたいな感じのものを買った記憶があるのだが、上着の生地はバッチリ冬対応になっている。そんなことを言っていても仕方がないので、それを持って実家へと向かうことにした。

実家までは電車を乗り継いで約1時間。同じ県内なのでさほど不便ではない。が、朝から何も食べてなかったし、帰ってもいつ食べれるかわからないので、途中の乗り換え駅でご飯を食べ、すでにちょっとしんどかったので確実に座れる鈍行に乗り、且つそれが裏目に出て乗り継ぎがおそろしく悪くなったため、結局実家に辿り着いたのは12時半を回っていた。

家の前まで来ると、見知らぬ車が止まっていた。それは、すぐにわかった。葬儀屋さんの車だ。家の中に入る。姉と葬儀屋さんが話をしている。父も同席しているが、あまり理解はしていない様子だ。挨拶を済ませて、母の遺体がある1階の和室へ行く。父に促されて、顔に掛けられた白い布を取る。紛れもなくお母ちゃんだ。ずいぶん年を取っておばあちゃんになってしまったけど。いつもオレを見守ってくれていたお母ちゃんだ。苦しんだ様子はなく、ほんとうに安らかに眠っていた。

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