ツキノワの音楽語りvol.2「That's Life」
観なきゃと思いながらも
あまりにネガティヴそうで気が重く、なかなか観られなかった「ジョーカー」をやっと観た。
素晴らしい映画だった。
悲しみ、怒り、苦しみ、孤独、痛み、混乱
感じれは感じるほど「笑い」でそれを吐き出す方法しか持たないアーサーの笑いの辛さは最後確かに変化していた。
最初は(どれだけどん底に突き落とされるんだろう、、)とオドオドしながら観ていたけど
途中から、そう、
殺人を犯したアーサーが虚像の英雄となったのに力を得て自らの母親を殺したあたりから、
これは救済のストーリーなんだと理解してどんどん引き込まれていった。
笑いの変化の演出は、やはりそうしていたんだなとこの記事を読んで思った。
「ジョーカー」を観なきゃとずっと思ってたのはクラリネットのAdmsさんの影響だ。
Admsさんは才気溢れるクラリネット奏者で、
その溢れるエネルギーでビッグバンドを2つも持ち、運営している。
そのうち1つはなんとクラリネットだけで編成されたビッグバンドだ。
そんな事思い付いて実現してるの、世界でこの人だけだろう。
私達は次の金管のビッグバンド(と言うと「普通のビッグバンドのことね」と笑われるのだけど、クラリネットビッグバンドと分けて表現するとどうしてもこういう言い方になってしまう)のライブの選曲をしていたのだ。
駅前のお酒も飲めるコーヒー屋だった。
「ツキノワさん、次のライブでは何を歌いたいですか?
That's Lifeなんかどうだろう?」
そうAdmsさんが提案してくれた時、私はその曲の記憶がかなり曖昧だった。
たしか、、、シナトラ?
ノリのいい曲だったような、、
うろ覚えのくせに「あ、いいですね」なんて言いながらすぐにApple Musicで探して再生した。
オルガンで始まるイントロ。
ああ〜なんかそうだ聞いた事あるな、こういう曲だっけ。うわけっこうゴリゴリしたノリだな私こんなの出せるのかな大変そうだな、、
スマホを耳に当ててぐるぐる考えながら聞いてる私の前で
「僕、That's Lifeが好きなんだよね。
ツキノワさんは『ジョーカー』観た?あの映画のテーマにもなってるんだけど。
あの中で描かれてたジョーカーの孤独がね、良かった。
最後の方のシーンで流れるのがThat's Lifeなんだよ。」
ジョーカーは確か2年前に公開された映画で当時はその救いのなさ、暗さが話題になって
「初デートで観に行ってひどい目にあった」なんてツイートがバズったりしてて
ポスターで見るジョーカーのメイクも悲劇しか予兆してないかんじするし
ビビりの私はすっかり観る気をなくしていた。
ー救いのない映画をわざわざ観たいと思うほど健康じゃないよー
そう思っていた。
ひとしきりジョーカーの感想を話した後Admsさんは、
「まあ良かったらツキノワさんも観てみるといいさ。じゃあThat's Lifeはやりましょう、オルガンはないけど。」
と言ってグラスを干し
「タクさんならピアノでも絶対ばっちりですね、楽しみ。」
答えながら私は
大変な旅が始まるなあと思っていた。
ジャズというより、ロック、ロッカバラードか。
確かにビッグバンドでやったらめちゃくちゃカッコいいけど、スウィング中心に歌ってきてる私には新境地なんだよな。
近づいていくのに時間がかかるだろうなあ。
でも、自分1人ではきっと選ばない曲を提案してもらってトライできる機会は大切だ。
この時は、ロックな曲調とシナトラが敢えていなたく荒く歌う表現ばかり気にして歌詞の内容をよく聞いてなかった。
Admsさんが古いジャズ映画以外の映画の話をしたのは初めてだったのでそれに気を取られていたのかもしれない。
「ジョーカー」のテーマになってるってことはあまり明るい内容ではないのかもという予感はあったけど。
That's life
作詞:Dean Kay/Kelly Gordon
作曲:Dean Kay/Kelly Gordon
That's life
That's what all the people say
You're riding high in April, shot down in May
But I know I'm gonna change that tune
When I'm back on top, back on top in June.
I said that's life
And as funny as it may seem
Some people get their kicks
Stomping on a dream
But I don't let it, let it get me down
Cause this fine old world, it keeps spinnin' around
I've been a puppet, a pauper, a pirate, a poet
A pawn and a king
I've been up and down and over and out
And I know one thing
Each time I find myself
Flat on my face
I pick myself up and get
Back in the race
That's life
I tell you, I can't deny it
I thought of quitting, baby
But my heart just ain't gonna buy it
And if I didn't think it was worth one single try
I'd jump right on a big bird and then I'd fly
I've been a puppet, a pauper, a pirate, a poet
A pawn and a king
I've been up and down and over and out
And I know one thing
Each time I find myself layin'
Flat on my face
I just pick myself up and get
Back in the race
That's life
That's life and I can't deny it
Many times I thought of cutting out but my heart won't buy it
But if there's nothing shaking come this here July
I'm gonna roll myself up
In a big ball and die
My, my
4月に舞い上がったと思ったら
5月には撃ち落とされる
でも6月にまた頂点に舞い戻ったら
流れを変えられるさ
それが人生、そんなもんだよ
なぜか自分で自分の夢を踏みつけてる奴もいるけど
私はそんなことしない
だってこの古き良き世界ってやつは回転し続けてるんだから
操り人形や 貧乏人や 海賊や 詩人や 歩兵や
王まで
あらゆる役まわりをして
色んな気持ちを味わって来たよ
マジもう無理って思うたび
自分で自分の首を引っ掴んでレースに戻してきた
全てやめたいって何度も思ったけど心が許さなかった
それに価値が無いって感じてたら
でっかい鳥に飛び乗ってとっくに飛び去ってたよ
そんなもんだよ人生
そう思ってる、否定はできない
でももしこの7月に
この心が動くようなことが何も起こらないなら
くしゃくしゃに丸まって死んでやる
ご覧の通り重たい内容の歌で、
実はかなり追い詰められた果ての投げやりな気持ち、皮肉が詰まっていると思います。
曲調からは最後の
「現状が変わることが何も起こらないなら死んでやる」
という部分が想像できなくて最初は何度も聞き返しました。
オリジナルはマリオン・モンゴメリー、
後にO.C smithのバージョンを街なかで聞いて即カバーを決めたというシナトラを始めほとんどの人がこの歌詞で歌っていますが、
最後のショッキングな部分を変えて歌っている人もいて、例えば
ジェームス・ブラウン
「何も起こらないなら、誰かを殺してやる」 (さらに強烈です)
ヴァン・モリソン
「何も起こらないなら、バイバイ」
(dieをbyeに変えてやわらかくしてるけど意味は同じでしょうね)
アメリカの「SMASH」というミュージカルドラマの中では2人の女性が歌うのですが、
メロディも編曲も変えて
「私は今がある事を神に感謝する」
と歌っています。
私がビッグバンド「Swing Made Orchestra」でこの曲を歌ったのは2022年。
コンサートをできるようになったとはいえ、
油断するとまた緊急事態宣言も出かねないようなコロナ禍でした。
オリジナル歌詞のままで歌うのは
(自分にとっても聞いてくれる人にとっても諸刃の剣過ぎる、、)と思い
「何も起こらないなら、自分をもっと愛して
この人生を祝福する。だって人生そんなもんでしょ。」
“But if there's nothing shaking come this here July
I'm gonna love myself more
and celebrate my life.
That's Life!”
とさせてもらい、今もそう歌っています。
「SMASH」の解釈に近いです。
歌詞を変えて歌う訳だし、ちゃんとリーダーとメンバーに伝えねばと思い一生懸命伝えたのですがどうにも中途半端で、皆さんを「ぽかん」とさせてしまった事を恥ずかしく思い出します。
自分の中でも落とし込めきれてない事を人に伝えるなんて無理だったよな、、。
実際ぜんぜん歌いきれず、
「もうこの曲を歌わせてもらえることはないだろうな」と落ち込んでいたのですが
その後クラリネットビッグバンド「Black Pied Pipers」で2度、歌う機会を頂き
同バンドの15周年コンサートでも歌う事を予定しています。
歌うたびに解釈が深くなっているのを感じていて、本番を踏めることがどれだけ学ばせてくれるかを実感しています。
最後の歌詞は、変えたまま歌っています。
自分がこの曲を歌うならばこの展開と解釈でなければ難しいと今や思っています。
実感を込められること、時代に合うこと。
母国語じゃない、
発音のつたない英語で歌うとはいえ
歌えるかどうかの第一の壁はまず言葉の前にあるんだよなと思います。
諦めることも肝心だけど、諦めないことも肝心だ。。
2022年は結局「ジョーカー」は観ずに本番を迎えたんですが、
昨晩ふと心の準備ができて視聴し(いま2024年よ!)そこに想像していなかった救済を感じたことでさらにこの曲に近づいた気がしました。
「ジョーカー」は本当に良かった。
もう一度観ます。