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母から子へ受け継がれるカルマ③

その後母は松山で就職したり、
結核になって入院したりを経て、
20代半ばで父と結婚し長野に移住する。

しばらくしたら母の実家から
祖母が入院することになったと連絡が入ったことで、
看病のために母は帰省した。

祖母があまりにもお腹を痛がるので、
胆石じゃないかと疑い、
祖母の父が数年前に胆石で入院した病院へ
入院することになったそうだ。

駆けつけた時は、
ベッドに起き上がることもできなかったらしいが、
手術をしてからは、
ベッドに座り、
食事ができるまでに回復した祖母を見て、
すでに帰省してから20日にもなるため、
そろそろ長野に帰ると告げ、
母は愛媛を後にした。

それからしばらくしたある日、
また実家から
祖母が今度は別の病院へ入院することになったと連絡が来た。

その病院は母が以前結核で入院した病院だったそうで、
取り急ぎ容態を確かめるために、
その病院へ母は電話をかけた。

その頃まだ我が家には電話がなかったらしく、
近所にある父の勤務先の上司の家へ、
電話を借りに行ったんだそうだ。

電話をかけ、
娘であることを告げ、
母の容態はどうかと聞いたところ、
電話口の看護師に
「もうかなり病状が悪化しており、
聴診器で音を聞くとバリバリと音がするほどだ」
と言われた。

その時、祖母は末期の膵臓癌だった。
数ヶ月前に母が看病した際の手術は、
開腹してはみたものの、
もう手の施しようがないほど進行しており、
ただ閉じただけだったそうだ。

それを聞いてしまった母は
「かあちゃんが死んじゃう、
かあちゃんが死んじゃう・・・」
と呟きながら、
父の勤務先である養魚場のいけすの縁を、
ただぐるぐると混乱しながら回るしかなかった。

そしてまた母は愛媛に帰省する。
父はもう行かなくてもいいと言ったそうだが、
どうしても帰ると言って帰省した。

そして再会した母と祖母。
もうこれが最後になると思ったであろう母は、
少しでも長く祖母と一緒にいたいと思っていたに違いない。

それまで看病していた祖父は、
母が来たことで、
家のあれこれもあるからと看病を母に任せて帰って行った。

そこから2週間ほど、
病室に母は寝泊まりしながら、
祖母の看病をしたが、
ある時祖母が母に、
「とうちゃんを呼んでほしい」
と言った。

どんな風にその言葉を、
祖母が母に言ったのかまではわからないが、
母はその時、
どうしようもなく悲しくなり、
祖父に電話をかけながら、
電話口で言葉にならないくらいポロポロポロポロ泣いたそうだ。

そして祖父が病院に駆けつけて姿を見せた時祖母は、
「あぁ、ようやっと来てくれた」
と祖父に言った。

その光景を同じ病室で見るでもなく一緒にいた母は、
それまで借りてきたことなどなかった漫画を
娯楽室から借りてきて、
読み始めた。

もうどんな内容なのかは覚えていないどころか、
その時も頭に入っていたかはわからないと言っていたが、
突然、おかしくておかしくてたまらなくなり、
不謹慎だと思いながらも、
声を立てて大笑いしてしまったんだそうだ。

祖父には
何をやってるんだこいつは、
という顔で睨まれたが、
笑いを抑えることができなかったらしい。

私にこの話をしながら母は、
どう言うんだろうねぇ、と、
泣いてしまった自分、
笑ってしまった自分、
の心境を言葉にできずにいた。

母の顔は今にも泣きそうなのに、
どう言うんだろうと、
その時の状況しか説明できない母を見て、
この人はどれだけ自分の気持ちを押し殺してきたんだろう、
私はそう思った。

そして私は涙が止まらなかった。

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