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ふしきの【フレンチ料理×新日本酒ペアリングイベント】体験記(2019/10/5)

日本酒ペアリングの先駆け「ふしきの」から【フレンチ料理×新日本酒ペアリングイベント】と題された案内があったのは開催3日前。
フレンチの小坂シェフが「ふしきの」に加入し、フレンチスタイルのバー営業が始まっていたが、当日はフレンチのコースに日本酒を合わせていただけるという。しかも、ただ日本酒を供するのではなく、ノンアルコールのペアリングドリンクを開発するノウハウを活用して一手間加えた、新しい日本酒、「新日本酒」を体験できるとのこと。ワクワクする!

まずは結論。5皿と5種(結果的にはもう少し)の料理とお酒のマリアージュを存分に堪能でき、「ふしきの」という店の、唯一無二の日本酒道を探求するチャレンジングな心意気に大感動!ご店主の宮下さんの緻密な日本酒理論と繊細なセンスが小坂シェフのフランス料理と出会い、食中酒としての日本酒の新たな可能性を体感する、素晴らしい時間だった。

以下に各ペアリングの詳細を記す。

1.
料理:〆サバ、巨峰、ポロ葱、根セロリのピューレ

酒:純米にごり酒天隠、無窮天隠カストリ焼酎、炭酸水、ぶどうのシロップ

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フレンチでいきなり〆サバという変化球。とはいえ、根セロリのピューレが全体を見事にまとめてしっかりとフレンチのひと皿になっている。
これに合わせて供されたのは、なんとにごり酒とカストリ焼酎を合わせた一杯。にごり酒の土台の上に焼酎の骨格を感じ、そこにぶどうシロップの甘みがうっすらと感じられて心地良い。日本酒ともカクテルとも言い難い、日本酒を再構築したような、不思議な世界観のドリンク。食前酒的な位置づけだろうか。
ひと皿めから期待が高まる組み合わせ。


2.
料理:パテ・アンクルート(鴨肉、フォワグラ、ピスタチオ)
酒:純米吟醸旭日、旭日純米酒ひやおろし、アーモンド

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小坂シェフのスペシャリテ、パテ・アンクルート。バターの香りがしっかりする生地に包まれた鴨肉とフォワグラのパテ。ピスタチオとシェリーのゼリーも良いアクセント。これに一体どんな日本酒?と思っていたけれど、宮下さんが調合してくれたのは、なんとブレンドした日本酒を、砕いたアーモンドと一緒に熱燗にしたもの!アーモンドの香ばしさがバター風味の生地やピスタチオと相性抜群で、熱燗の温度がフォワグラや鴨肉の脂を程よくなめらかに溶かしてくれて心地良い。それにしても、日本酒にアーモンド!
小坂シェフのパテ・アンクルートは何度かいただいたことがあったけれども、今日のそれはひときわこうばしく美味しく感じた。


3.
料理:バターナッツかぼちゃのポタージュスープ、フォワグラ添え ローストナッツを散らして
酒:純米無濾過生酒 長珍、クミン

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秋らしいバターナッツのポタージュ。なめらかで程よい甘さと軽さが秀逸。…しかし、普通に考えたらポタージュに日本酒はちょっと…、と思うが、なんと、こちらに合わせるのはクミンを浸した新聞長珍!長珍のどっしりしたボディだからこそ、クミンの個性に負けていない。日本酒の個性を理論としてしっかり理解している宮下さんならではの足し算。もちろんクミンとかぼちゃの相性は言うまでもない。この手法(日本酒+ハーブやスパイス)はいろいろ応用ができそうだけれども、理論と直感、両方がないときっとこの完成度には至らない。


4.
料理:焼き舞茸、ローストチキン、栗 醤油麹
酒:旭興貴醸酒「百」十三回仕込み 千、無濾過生酒 旭興

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舞茸がいっぱいで栗がゴロゴロ!秋の森を感じる組み合わせ。そこに醤油麹というのが日本人的にはホッとする味わい。さて、これにはどんなお酒…?
貴醸酒の「千」はほぼ入手困難な貴重なお酒。これをなんとブレンドしてしまうというオソロシイ贅沢。まずはブレンド前に「千」をそのまま一口いただく。なんとも芳醇な甘さで個性的でうっとりする美味しさ。…が、しかし、正直これを食中酒とするのは難しいかな…、とも思う。ところが、これを旭興で割ったところ、なんとも良い按配で、キノコ(舞茸)の旨味、栗のホクホクした甘みとちょうど合う!
宮下さん曰く、ブレンドは同じ酒造の酒同士でしか行わないのだそう。同じ水で仕込まれているからこそ、無理なく混ざり合えるのだろう。


5.
料理:ローストビーフ、紫にんじんのグラッセ
酒:純吟無ろ過生酒 佐久乃花、蕎麦焼酎佐久乃花、ローズウォーター

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今回、すべてのペアリングに驚きと感動があったけれども、料理との相性も含めて一番の驚きはこのひと皿。なにせ、日本酒にローズウォーター!そして、ローストビーフ!すべてが口の中でひとつになることがまったく想像できない組み合わせ。ところが、口に含めば、ビーフの脂身すら、ローズの香りで高貴な味わいに…。紫にんじんのグラッセの優しい甘みにも合うし、料理の味わいがより一層高まる。これぞ、料理とお酒の幸福なマリアージュ。
佐久乃花はくっきりと吟醸香のたつタイプ。このフローラルな香りのベースがあるからこそ、ローズの香りが違和感なく酒と料理に馴染む。そして、それだけだとふわっと輪郭がぼけてしまいそうなところを、蕎麦焼酎がキリっとまとめている。つまり、宮下さんの中にはしっかりと味の設計図があるのだろうと確信した。
美しいバラ色のローストビーフに、ローズの香りのお酒。なんて多幸感溢れる組み合わせなんだろう。
どうでも良い感想だけれども、このペアリング、結婚式に出したら喜ばれるだろうな…などと勝手に想像。


★おまけ
ブルーチーズ、ドライイチジク
酒:ダルマ正宗、玉露 & Akayane クラフトスピリッツ生姜のリモンチェロ

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以上で予定されたコースは終了だったが、あまりに参加者がペロリペロリと平らげるものだから、コースの進みが早く、おまけの延長戦。
ダルマ正宗のしっかりした味わいがありつつ、後味がスッとする。何がブレンドされているか当ててみてください、と言われたものの、まったく想像がつかない。友人は昆布ダシのような旨味の印象を強く感じたそうだが、私はむしろ後味のスッキリ感の印象が強かった。なんと正体は玉露!確かに、旨味もスッキリ感もある。

そして、最後の最後に、と出していただいた和製リモンチェロ。Akayaneの「クラフトスピリッツ生姜」がベース。レモンと生姜の相性の良さもあり、安定の美味しさ。強めのアルコール度数でスッキリ!


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 ブレンドされたり、ひと手間加えられた日本酒は、しかし、カクテルとも異なるものだった。言葉にするのは難しいのだが、あえて例えるならば、カクテルはいろいろな素材(ウォッカやジン、リキュール、オリーブ、ライムなど)を絵の具だとすると、それらを用いてひとつの絵を描いているようなイメージ。一方、今晩味わった”新日本酒”は、いろいろな素材(日本酒や焼酎、アーモンドやローズウォーターなど)が絵の具だとしたら、それらを混ぜ合わせてひとつの新しい色を作りだすようなイメージだった。
 今日の「新日本酒」はどれも、それ単独で飲んでも美味しいのだろうけれども、やはり料理あってのものだった。そもそも宮下さんは、小坂シェフの料理をもとに、合うお酒をイメージして作り上げたそうなので、おそらく料理の数だけ、新しい「新日本酒」が生まれるはずだ。料理に寄り添って変容する日本酒の食中酒としてのポテンシャルの高さと、日本酒を知り尽くしているからこその変幻自在な調合。宮下さんはまるで日本酒を再構築しているかのよう。これは、「ふしきの」でしかできない唯一無二の食体験。
 「ふしきの」の店名の由来は、千利休が使用していた、「不思議」や禅語の「不識」に通じる言葉で、現代の言葉に訳せば、思い掛けないもの、今までにないものといった意味だそう。今夜はまさに「ふしきの」の名にふさわしい酒宴だった。

<了>




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