やよいちゃんのこと 流産、死産のきもち11 娘のために買ってあげたかったもの

 最近、よく思い出すことがある。



 やよいちゃんを失って、退院した日。

 その時に歩いたショッピングモールららぽーとの風景だ。



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 病院に迎えに来てくれた夫くんと、退院したその足で東急ハンズにハンカチを買いに行った。

 もう、明日の朝には、焼き場で最後のお別れをすることに決まっていた。

 さようならをする前に、やよいちゃんにプレゼントをあげたい。

 小さな女の子が喜びそうな、お店でいちばん可愛いハンカチを買おう。そして「ふかおやよい」と刺繍しなくちゃ、と思った。



 だって、やよいちゃんは小さすぎるから、もしかしたら自分のお名前を上手に言えないかもしれない。

 天国についたら、「わたし、やよいだよ」って、みんなにハンカチを見せてあげて。そうしたら、がんばったね、とお母さんのおじいちゃんたちが迎えてくれるはずだから。



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 どうぶつの模様の、ピンク色のハンカチを買った。

 「ふかお やよい」と、私が緑色の糸で刺繍をした。

 母として、やよいちゃんのための最初で最後のプレゼント。



 そういう、かなしい買い物。

 まだ心も体も沈みきっている状況で、ららぽーとを夫くんと歩いた。



 その時、すごく強く思ったのだ。

 「もっと、もっと」と。



 この小さなハンカチだけじゃなくて、きれいな色のお洋服も、音が鳴る楽しいおもちゃも、美しい色の絵本も、ふわふわなおいしいものも、ららぽーとには小さな女の子が喜びそうなものがいっぱい、いっぱい売っていた。



 やよいちゃん、生まれてきてほしかったよ。

 おかあさんは、あなたにこの世のすてきなものを、あなたにあげたかった。

 この世の中は、こんなにいっぱいすてきなものがあるということ、今この瞬間まで、おかあさんは知らなかったよ。



 なにもかも、全部、買ってあげたい。

 わたしの娘に、この世の中のきれいなものを、ぜんぶ。



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 そのときの気持ちを、なぜかよく思い出す。

 どうしようもなくかなしいのに、世界がキラキラと輝いて見えた不思議な時間。



 失ったこと、それにまつわるいろいろなことは、言い表せないくらいかなしかった。

 でも、今になって思い出すのは、やよいちゃんといた時の温かい気持ちと、きらきらした風景のことなのだった。



 これで、いいよね、やよいちゃん。

 きらきらとした気持ちを、ずっと覚えているよ。

 あなたには小さなハンカチしか買ってあげられなかったけど、あなたが母にくれたキラキラした思い出は、ぜんぶ持って、いっしょうけんめい生きていくよ。 

 

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