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自分の町を去らなければならないということ 映画「ベルファスト」

「ベルファスト」、第94回アカデミー賞で脚本賞受賞しましたね、おめでとうございます✨

今行われている戦争と重なる部分があるようにも感じられる作品。今、戦争の映像で見て心が傷ついたり、何もできない不甲斐なさや説明できない罪悪感を感じている優しいあなたには、胸が苦しくなる作品かもしれない。

おそらくほとんどの日本人には分かりづらく実感がない。命の危険があるほど生まれ育った町で迫害を受けて住んでいる町を、国を去るしかないということ。

映画「ベルファスト」は北アイルランド ベルファストで育った俳優・監督であるケネス・ブラナーさんの自伝的作品。ストーリーは、住んでいる人たちみんなが顔馴染みでカトリックの人もプロテスタントの人も平和に暮らしていたところに、1969年突然プロテスタントの暴徒たちがカトリックの人たちの家に火をつけたり、窓を割ったり、暴力を振るったりして攻撃を始めた。

主人公のバディの家族はプロテスタントで、バディはきちんと教会に通い牧師さんのいうことをノートに書き留めておくような素直な少年。好きな子が学校にいて、その子の成績はいつもトップ。成績順に席が決まる学校では隣の席にならないと仲良くなるチャンスがない。祖父の言う通り、数学のテストの数字を1か7かわからないように書いたりしてやっとトップになったと思ったら、その子は3番。いつもお隣さんにはなれずにいた。
バディは素直すぎて、仲の良い友人にそそのかされて万引きに手を貸してしまったりもする。

家族はというと、父親はロンドンまで出稼ぎに行き、隔週で帰ってくる。返しても返しても税金の督促で決して裕福ではない生活。泣きながらもそれでも強い母親は、父親不在の中たくましくバディとその兄を育てている。そんな中、プロテスタントの暴徒のメンバーがバディの父親に、仲間になってカトリックの人たちを攻撃するよう言って来る。仲間になるか、敵になるかどちらかだと。仲間にならないなら家族の無事は保証できないと。
家族と共にロンドンに移りたい父と、生まれた時からいるベルファストを離れたくない母。ベルファストは母とバディと兄にとっては全てなのだ。

そして、自分達も裕福ではないのに「おじいちゃんのお金はおばあちゃんのもの」とバディにこっそりお菓子代としてお小遣いを渡す明るい祖母。
「今でもときめいてるよ」と恥ずかしげもなく祖母に話す祖父。
明るくお茶目なバディの祖父と祖母のやり取り、バディとのやりとりがクスッと笑わせてくれる。

街の入り口にバリケードがあっても、イギリスから軍が派遣されてもベルファストでは攻撃がまた起こる。素直すぎてまた仲の良い友人にそそのかされたバディは、知らないうちにあるスーパーを攻撃した暴徒たちの集団に巻き込まれてしまう。

この攻撃と家族の絆の一連とラストまでのシーンは目を離さずに見てほしい。
多分、この映画を見ている途中で戦争のことを思い出す人はたくさんいるはず。心がざわざわしたり、キューッと苦しくなったりするけれど、それはわたしたちはこれからどうするのか、もう向き合う時が来ているということ。

生まれ育った町にずっと住んでいることが幸せとは限らない、過剰な地域コミュニティが苦手な人たちもいる。好きで出ていく人はいいけれど、残りたくても残れない人にとっては守られたホームから出ていくことは不安でしかない。

以前、私が海外で出会った、シリア、パキスタン、イランの友人たちは、次の仕事を選ぶときに自分の国ではない場所ばかりに向けて就活していた。当時の私には理由が分からなかった。帰れないということがどういうことなのか。

今なら、わかる。

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