裸祭り

２月某日
その日だけは毎年、社内をふんどし姿の男性社員が
ゾロゾロと歩きまわり
女性陣は私服に慣れないエプロンを付けて温かい食べ物をせっせと運んだ

新卒で勤めた会社での出来事です

”裸祭り”

それは
会社のあった愛知県稲沢市国府宮という土地に伝わるもので
尾張一円からサラシの褌に白タビ姿の数千人の裸男が揉み合いになり集まるお祭りのこと

このお祭りに
全社をあげて参加するというのが
当時の会社の社長命令だった

入社前からもちろん噂には聞いていた

ただ、まず驚いたのは
新入社員で入り
年を明けた１月

総務部から届いた１通の全社メール

開くと
「裸祭り担当表」
なるものが書かれていて
全社員の名前と役割が明記されていた

なんじゃこりゃ…

こんな正式文章、正式社内通知で、お祭りの担当がくるとは….

しかもその頃から、総務部は毎日毎日裸祭りの準備で忙しそうだった

「こ、これは...変な会社に入った...」
(いや、それはもうずいぶん前に気づいてましたが）

その会社は
当時は（今は分かりませんが）休みもほとんどなく
特に営業さんは夜遅くまで仕事に追われていた

私も多分に漏れず、吐きそうなほど働いた
もはや吐いていたと思う

ただ、２月のそのお祭りの日だけは
全員が業務をストップし
お祭りに参加することが義務付けられていた

だーーーいぶ体育会系の香り

もちろん進んで参加する人はあまりいない
さらに、お祭りが開催されるのは
毎年２月

極寒の中の裸…
風邪引くし...www

それでもみんな泣く泣く参加した

なぜかって？
だって社長自らふんどしを巻いて出るんだから

特に幹部なんかは断れるわけがない

若手社員だって
昔の”部活動”のような拷問的で強制的な
ふんどしの強要に
ものすごく抵抗を示す人が多かった（もちろん楽しそうな人もいたけど）

そんな裸祭りが近づいてきた頃
たまたま会社の近くで社長とお会いした
グループ総勢で何百人もいる会社

なかなか社長と話すことはおろか、会うことすらあまりない

でも、せっかくなので聞いてみた

「なんで裸祭りに出るんですか？」

すると、社長は嬉しそうにニコニコしながらこう言った

「この会社は社長（←自身のこと）がこの土地で創業してからずっと、地域の人たちに助けられて今まで成長してきたからなぁ。地域のお祭りくらい参加して、盛り上げてやって、恩返しせんとなぁ」

・・・胸が熱くなった

そう
社長はそう言う人だった

どんなに疲れていたも、どんなに会社が大変なときも、どんなに前日に遠方にいても、
大事な行事や大事なポイントには絶対に”自ら”参加した

そして、その姿を見て、お客様や、取引業者さんや、地域の人たち、何より、社員たちはみんな社長に魅了され、心を掴まれて行った

会社説明会とか、HP上では
ものすごく良いことを言う会社はいっぱいある

嘘ではないのかも知れない

でも、地域への貢献や、人への恩返し
そして、何より”人の心を掴む”って
こう言うことなんだなって、幾度となく社長から教わった気がする

「よし！お酒持ってこい！寒でなぁ飲まんとやっとれんわなぁ笑笑笑」
（だいぶ名古屋弁です）

毎年社長はそうやってワハハハと笑った

そして、最初は嫌そうだったふんどし姿の男性社員の先頭に立ち

「行くぞお前らーーー」と出陣して行った

会社の業務は、死ぬほど大変だった
私も、後にも先にもあれほど過酷だったことはない
みんなが疲弊しながら、もがきながら、働いていた

でも、それでも、あの会社で頑張れた理由

その一つは、紛れもなく社長に心を掴まれていたからだ

私の仕事のあり方、働くってどんことなのか、人と共に、地域と共に成長するってどんなことなのか….
そんな私のビジネス上の基礎は、社長はじめ、この会社で培われた

コロナで全国的にお祭りは中止傾向らしい

ただ、”人の役に立つ”、そして、”恩返しする”

その手段はお祭りだけではない

私は、私のやり方で、私の周りの方々を笑顔にしながら恩返して、共存していきたい

今日もきっとワハハハと笑っていることだろう

寒い日には胸が熱くなる、あのお祭りを思い出す

また、逢いに行きますね
それまでずっとお元気で

本日は「レミオロメンの”３月９日“でブログを描こうか、迷ったけど、なんか降りてこなかった。３月９日に描くことよりも、きちんと想いを乗せて描くことを私は大切にしたい。という言い訳をしてみた。でも、この季節の”３月９日”は、本当に心を鷲掴みにする。また改めて描こう。そう思います」

学び：昔から、「えぇーお祭り〜」とか言って当日一番はしゃぐタイプ←私

おしまいー

chihiro