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カナヅチくんの挑戦

夏といえばプールっしょ!と思い市民プールに出向いたのが昨年の夏だった。カナヅチじゃなかった時期がないのでプールに行っても泳げないことは分かっているものの、このままカナヅチのままでいいのか、この先の人生をカナヅチとして暮らし、遺影にカナヅチが一本写ることになったとして、残された遺族はウケずに無事式を終えることができるのか、と己を奮い立たせてデパートのスポーツ用品売り場に一本足でケンケンしていった。

やる気こそあったものの、いざ泳いでみると持ち前のカナヅチっぷりを遺憾なく発揮し手足をバタつかせ、東映の最初くらい飛沫を上げ、むせたし、10mも進むことができなかった。

プールへの苦い思い出がよみがえり落ち込んだものの、せっかく銭コァをはたいてゴーグルを買ったし、「オラこんなオラ嫌だ」の炎を絶やすまいとYouTubeで「息継ぎ やり方」など人間のアマチュアみたいな検索をして、イメトレをし、何度かプールへ通ったもののやはり上手くいかず、結局まともに息継ぎもできないまま夏が過ぎてしまった。

一年経ち、先週、夏といえばプールっしょ!と思い、プールバッグを持って市民プールにケンケンしていった。

昨年の反省を踏まえ、とにかく息継ぎを冷静にやってみよう。ゴーグルで視界が暗くなる。一度深呼吸をしてから再び大きく息を吸い込み、思い切り壁を蹴る、左手で水をかき、5m、鼻から息を吐いて、耳を腕にくっつけ、頭を回転させ、口から空気を吸う、10m、繰り返し、早くもサライが流れ始める。15m。横のレーンには去年の自分が泳いでいる。その隣には夏休みにプール補習を受けることになった中学生の自分、さらにその先に犬かきしかできなかった小学生の自分がいる。みんな同じところを目指している。20m。対岸が近づくのがわかる。25m。



水泳のことなら何でも聞いてください。



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次は50m、と抑えきれない喜びで胸を弾ませながら、二本足で帰り道を歩く。


陽炎で行く先が楽しそうに揺れている。