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勝手に和訳シリーズ②ランボー

 私が文学者の卵として最も影響を受け、今なお愛してやまない異端の詩人、アルチュール・ランボー(1854-1891)がわずか18歳にして書いた後期韻文詩から特に好きなもの。ランボーは16歳から20歳になるまでの間に仏文学だけでなく、世界中の詩の伝統をひっくり返した後、残りの生涯で二度と筆を取らなかった奇才です。私が古代ギリシャから近世フランス文学にいたる文学史を研究することに決めたのも、ひとえに彼のおかげ?です。

一文目に現れる« retrouver »という動詞は、「無くしていたものを再び見つける」というニュアンスを持ちますが、すなわち、ここで彼は「永遠」という時間的に途切れのない、普遍的に思える存在を既に見失っていたことが暗示され、いきなり不穏な矛盾を孕んだ出だしです。韻律はおおよそ保たれていますが、ところどころにやがて訪れる詩的調性の崩壊の兆しが顔を覗かせています。具体的な解釈は長くなるので省きますが、未来への絶望と近代文明への不信感、そして、自らに巣食う底しれない倦怠と退廃への信仰を美しく捉えた象徴主義文学の傑作です。

フランス語原文につづき、和訳。

 « L’Eternité » Arthur Rimbaud

Elle est retrouvée.
Quoi ? – L’Eternité.
C’est la mer allée
Avec le soleil.

Ame sentinelle,
Murmurons l’aveu
De la nuit si nulle
Et du jour en feu.

Des humains suffrages,
Des communs élans
Là tu te dégages
Et voles selon.

Puisque de vous seules,
Braises de satin,
Le Devoir s’exhale
Sans qu’on dise : enfin.

Là pas d’espérance,
Nul orietur.
Science avec patience,
Le supplice est sûr.

Elle est retrouvée.
Quoi ? – L’Eternité.
C’est la mer allée
Avec le soleil.

『永遠』

あれが見つかった。
何がさ?ー「永遠」だよ。
それは沈みゆく太陽と共に
行ってしまった海のことさ。

見張り番の魂よ
あれほどに虚しい夜と
火花となって燃える昼のことを
僕はそっと打ち明けよう。

人々のうなずく様も 誰もに共通する衝動からも
ほらゆく、お前は身を振りほどき
気の向くままに飛んでゆく。
なぜって、繻子の艶やかな燠さ。
義務の炎は、ひとえにお前たちから立ち昇り、
「ついに」などとは言わないのだから。

そこには未来への希望などないさ。
何かがやってくることもない。
忍耐強く学問したって、苦しみだけが確実さ。

あれが見つかったよ。
何が?一「永遠」さ。
それは入り陽と共に行ってしまった
海のことだ。

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