見出し画像

審査員がバカなんだ 元放送部顧問の独り言#1

え。どうしちゃったの?
湊かなえさん!
ってほど、戸惑ってしまう。

私は初めて湊かなえさんの本を読んだのは、『告白』だ。
『夜行観覧車』やその他にも本は読んだことがある。

プールにインクをたっぷんたっぷんに流し込んだ中に頭からどぷんと浸かって行くような。
でも、インクに粘度はあんまりないから、息ができないほど顔にまとわりつかない。
私が湊かなえさんの本を読んだ印象はこんな感じ。

心地よさからはちょっと遠い。
でも、面白くて面白くて。
あぁ、明日も朝早いんだから、もう寝なきゃいけないのに!
なのに、手がページをめくることを止められない。
そして、目も離せない。
あー、だから明日、朝! 早いんだってば!

あ、じゃあ、いち早く読み切ってしまおう。
と、夜更かしをして、読み終わったとしてもその心地よさからは遠い、その話についてぐるぐる考えてしまうから、やっぱり寝られない。
そんなお話を書く作家さんだとばかり思っていた。

ところがどっこい。
この『ブロードキャスト』は爽やかだ。

どーしちゃったの?
まるで中高生の放送コンテスト、朗読部門の課題図書のように爽やかだ。
ま、放送部の話をきちんと書いているお話に出会ったことがなかったので、嬉しいことこの上ないが。
でも、若干の湊かなえさんの二重人格性、いや多重人格性を疑ってしまう。
そのくらい、いつも読んでいたお話とは違う。

このお話は高校生の主人公圭祐が縁もゆかりもない放送部に入って放送コンテストに出場するお話だ。
よく取材されている。
全国大会に行っても、東京に部員全員が行けるわけではないとか。
地方あるあるがふんだんに入っているお話だ。

元顧問をやっていた身としては、お話の中の高校生たちがちょっと優秀すぎて私が出会ってきた高校生とはちょっと違う。
モデルとなった学校はどこだろう?
兵庫県のあの学校とか。
福島県のあの学校とか。
栃木県?
青森県?
うーん。あ、北海道のあの高校ってこともありうるな。
なんて考える。

かれこれ私は副顧問的な状態も含めて10年近く顧問をやっていた。
その他の運動部の顧問もやっていたが、顧問をやっていると必然的に審判などの役割がまわってくる。
できてもできなくても。
もちろん、放送コンテストだって審査員をしょっぱなからやることになる。

朗読、アナウンスができてもできなくても。
番組(作品)を作ったことがあってもなくても。
指導したことがあってもなくても。

最初はめちゃくちゃだ。
それでも、長いことやっていると審査のコツというものを掴んでくる。

ここからは、私が体験した話だ。
私が東京都に勤めることになって、高校に配属していたら、今も教員をやっていただろう。
高校生が作る放送コンテストの作品が好きだから。
でも、配属されたのは、中学校だった。
もちろん、放送委員会はあっても放送部はない。
だから、放送委員会の中から有志を集めて放送コンテストに出場することにした。
最初は朗読とアナウンス部門だけで。

私が勤めた学校では、放送コンテストに出場していた経験がなかったようだ。
だから、最初は書類作りだ。
めんどくさいやつ。
そして、なんとかエントリー。
最初の年に1人、強者がいた。

うまい。
とにかくうまい。
ちょっとこんな感じで読んでみて。
そう言うと、すぐにやってみる。

そんなうまい人なもんだから、全国大会までいけた。
びっくりだ。
何人かは都予選の決勝までいけるかも? っとは思っていたものの。
そして、その子の朗読はCDにも収録された。

すっごい子に会っちゃったな。

そんな状態だ。
次の年はなんの因果もないが、英語演劇部から出場した。
演劇を作るから、発声や体づくりもやるし。
なんと言っても、参加費は部から出場しないと出ない。
だから。

2年目はうーん。なんとも。
3年目は私が1年生の時、担任をしていた学年だったから、番組を作ろうともちかけるとやりたいという生徒が結構いた。
ラジオ番組とテレビ番組部門で出場。
今まで高校生の作品をめちゃくちゃ見てきたため、番組の構成から一緒にやっていった。
大変だったと思う。
中学生にこんな、ちょっと難しめのこと、要求していいのか?
高校生を相手にしていた時ならそう思う。

なんで中学生ってあんなに強者だらけなんだ?

そう思うほど飲み込みが早い子ばかりだった。

でも、進まない。
中学生はほとんどの子が完璧を求めるから。

別に中途半端な内容でもいいからとりあえず、終わらせて。
そこからブラッシュアップさせればいいのに。
そう言ってみるものの。
でも、進まない。

もう、無理かな?
棄権しないといけないかも。そんな時期に来ています。
そんな風に伝えたら、動き出した。

大会前日まで作品を編集できるわけではない。
台本作りがあるため、遅くともその2,3日前には作品が出来上がっていないといけない。

なんとか。
なんとか出来上がる。
それにしても、生徒たちはすごい。
あっという間に私が貸したPCで、なおかつ初めて使うAdobeの premiereproを使いこなした。
もちろん、タイトルやテロップなどもつけて。

大会の結果はなんとか3位に入り、全国大会に出場。

いやー、私は強者たちを全国大会というステップに行かせるために、中学校に配属されたのかも?
そのくらい恵まれた人たちに出会えた。

そんなこともあり、その年の高校生の方の放送コンテストの全国大会準々決勝の審査員の話もまわってきた。

え。
私、そんなすごいとこ、行っていいのかな?

でも、都合が悪くて行ける人がいないみたいだし。
なんと言っても、全国から集まる準々決勝の作品を見てみたい!
そして、見に行った。
いや、審査をしに行った。

『ブロードキャスト』の中にこんなセリフがある。
「審査員がバカなんだ」
そう。私はバカでした。

テレビドキュメントの準々決勝の審査をさせていただいたが、その中にその年の最優秀になる作品が入っていた。
とても良くできた、とても良い作品だった。
ただ、「高校生と放送」にそぐわないのではないか? っと考えたのだ。

全国大会の作品になってくると、プロ顔負けだよね、という作品がかなり出てくる。
ものすごい作品も多い。
その反対になる作品もあるが。

そうなってくると、「高校生」ということがキーワードになってくる。

これ、高校生じゃないよね?
高校生じゃなくてもいいよね。

それがその作品の減点の対象になってしまう。
一般の大人でも作れてしまう。
そんな作品だと上の、そのまた上のところまではいけない。

そんな基準をいつのまにか自分で作ってしまっていた。
だから、その最優秀賞に選ばれた作品の中で一番低い点数をつけたのは、たぶん私だ。

へんな足かせを勝手に作ってしまう。
ああ、私はおバカだわ。
そんな風に思っていた。

だから、『ブロードキャスト』を読んでものすごくドンピシャで射抜かれた気分になった。

ちなみに、本の中のように審査員は全ての人が冷たい講評をするわけではない。
アドバイス的なものが多い。
画面の構図や技術的なアドバイスをされていることがあったら、その作品の構成力が甘いということだ。
良い作品はそんなことがどうでもよくなるから。

ちなみに湊かなえさんの『ブロードキャスト』は今年3月に話の続きとなる『ドキュメント』が発売になるらしい。
圭祐と正也、久米さんがどんなドキュメント作品を作るのか。
楽しみで仕方がない。

ちなみに『ブロードキャスト』は今、高校生で、放送コンテストに出場しようと思っている人はぜひ読んで参考にしてほしい本である。
そのくらい、きちんと放送コンテストについて書いてくれているお話である。

よろしければ、サポートお願いします。写真、動画などの交通費や機器代金にさせていただきます!