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【文学】 手のひらサイズの短編小説と、現代短歌集と。

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掌説(しょうせつ)。ショートショートよりも短い世界最小の小説統一フォーマットを作りました。基本、400字ちょっとで完結。スマホ1〜2画面ぶんの長さ。ヘミングウェイが作った?と言わ…
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2022年4月の記事一覧

【1分で読める小説】 その8 試合前の瞑想

6オンスの赤のグローブをつけ終わると、俺はいつものようにロッカールームのベンチに横になった。試合をイメージし、集中力を高めるための瞑想に入るのだ。俺は八度目の防衛に臨むミドル級の絶対王者であり、相手はランキング12位の無名選手。だが油断は禁物だ。 ———左ジャブと見せかけて左フック。奴のガードの後ろをガツンと通す。怯んだ隙に、俺は右ボディを放つ。奴もジャブの連打で反撃。俺がフェイントで距離をつめた瞬間、奴の高速ワンツーが火を吹く。今だっ。0.5秒差でかわし、渾身の右ボディ

【1分で読める小説】 その7 99階の男

「ここは世界で最も高級なマンションの最上階です」不動産屋はそう言って愛想笑いをした。「ふざけんな。このタワーは100階建て。なんで99階が最上階なんだよ。俺はどうしても世界一の部屋に住みたいんだ」「ご安心ください。100階にお部屋はございませんよ」 マンハッタンのど真ん中、ついに俺は世界一の部屋を手に入れたのだ。この夢を実現するために奨学金をもらいながらMBAをとり、IT事業を起こし、がむしゃらに働いた。窓の外には銀河のような煌めきがどこまでも広がっている。この地上の全てが