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第一学園高校 ワンゲル部

このお話は、BBBのMVの世界を描いた作品に繋がる未来又はパラレルワールドを描いたお話です。

あくまで、お話上の設定であり、実際の彼らとは関係がありません。また、実在する高校がモデルではありません。

ご理解頂ける方のみ、お読みください。


第一章:始まりの朝

誠(まこと)は夢の中にいた

アメリカでの音楽活動はなんとか軌道にのってきた

忙しい日々の中、思い出すのは日本に残してきた仲間の事だ

もう一度、一緒に音楽ができればいいのに

胸に痛みを感じる

でも、前に進まないとならない
立ち止まってはいられないんだ…


「誠ー!遅刻するわよ!」

ハッとなって飛び起きる
目覚まし時計をいつの間にか止めてしまっていたらしい

「ヤバい!もうこんな時間!?」

誠は大慌てで準備して、家を飛び出した

(無遅刻、無欠席の記録がー!!変な夢のせいだ!)
焦る誠の前に車が停まった

「誠?珍しいじゃん?乗ってく?」

車から顔を出したのは潤(じゅん)だった。

「潤!うわー、助かった!女神様ー!」
「は?何で女神なんだよ?!もういい、置いてく」
「嘘です!神様、仏様、生徒会長様ー!」

結局、潤が折れた

誠は、本来、真面目で頭が良いが、仲間の前でだけふざける事がある
子供の頃、アメリカで暮らした経験があり、バスケットボール観戦が趣味で英語が得意だ

潤は、高身長のハンサムボーイで性格はおっとり、ふわっとしてそうで、実は頑固で漢気があり、男女問わず人気がある。そのため、担ぎ上げられて現生徒会長だ。実家が金持ちで運転手付きの車で送り迎えされている

「朝寝坊なんて珍しいな、夜ふかしでもしてたの?」
「いや、何か変な夢を見ちゃって…思い出せないんだけど、切ない気持ちになった気がする」
「へー、誠にもそういう恋愛経験あるんだ」
「いや、そっちじゃなくて」

その時、潤のスマホが鳴った

「あぁ、さっきはごめん。えー、その日は予定入ってるなー、また今度埋め合わせするよ。悪い、またね」

「人気者は大変だね」
「別に何もしてないのにな?今は恋愛に興味無いって、どうしたらわかってもらえるんだろ」

潤と誠が話こんでると、信号待ちで停まった車の横をすごいスピードで走り去る人物がいた

「あれ、礼音(れおん)じゃない?」
「あいつは走った方が早い。無視しよう」

(相変わらず礼音には塩対応だな)

潤と礼音は幼馴染で仲がいいが、水と火くらいタイプが正反対で傍から見てると相容れないように見える

でも、言葉に出さない所で信頼しあっていて、礼音は潤の補佐的な役割をする事が多い。現副会長を務めているのも、潤を助けるためだと誠は知っている

(よくわかんないけど、礼音の事になると、いつも素直じゃないんだよな)

誠は、2人の関係性を不思議に感じていた


学校に到着した礼音が階段を駆け上がって行くと、上から降りてきた生徒がバランスを崩して抱えていたプリント類をぶちまける寸前の所に出くわした

空中で素早くプリント類をキャッチして、唖然としている持ち主に戻し肩をポンっと叩く

「大丈夫か?気をつけろよ」

自分の教室の扉をガラっと開けて、いつも通り大声で挨拶した

「おはよー!!」

静かな教室が急に賑やかになる
礼音は太陽のように明るいオーラを放っているのだ

教室には朝から机に突っ伏している隆介(りゅうすけ)がいた

「おい、朝から何寝てんだよ!」
「うーん、勉強して早くアメリカでみんなの役に立ちたいから…あ、礼音くん?おはよう」
「何寝ぼけてんだよ(笑)今日は放課後に部活の会合あるから、忘れるなよ」

隆介は1年生だったが、非常に優秀なため、特別に上級生のクラスの授業にも参加を許されていた。

第一学園高校は、この辺りでは珍しく、単位制の総合高校で自由な校風が売りの学校なのだ

隆介は学業成績が優秀な上、空手の演武でも優勝経験があり、芯が通ったしっかり者だ。面倒見の良い礼音の事を兄のように慕っている


放課後、瞬(しゅん)が会合場所に向かってると、いがみ合ってる将太(しょうた)と陸基(りくき)に出会った

「俺が先に歩いてただろ!」
「あ?!お前が俺の前に勝手に出て来たんだろ!」

(またつまんない事で突っかかてんなー)

将太と陸基は根が似過ぎていて、行動がシンクロしてしまう事があるのだ

(うまく共鳴させればうまく行くってのに)

瞬は、初めて会った時の事を思い出した

あの時は、ダンス部とバスケットボール部のどっちが体育館を使うかで揉めていた

アメリカから引っ越してきて転校初日だった瞬は、何故かいがみ合ってる2人が気になって声をかけていた

「ねー、取り込み中らしいけど、校長室まで案内してくんない?」
「はぁ?見ての通り、取り込み中だ!他で聞けよ!」
「この学校の生徒は困ってる転校生にそんな冷たい態度取るんだー?」
「あ?いや、別にそういうわけじゃ…」
「ならいいじゃん、行こうぜ」
「おい、待てって、まだ話は…」

結局、瞬の強引さに根負けした2人は校長室まで案内し、その後も校内を一緒に回るハメになって、いつの間にか意気投合したのだった

将太はダンス部の元部長で中学部から負け無し、運動部の助っ人に入っても優勝してしまう程、運動神経抜群の男で、最近、もっと面白い事を探したくなり、引退届けを出したばかりだった

一方、陸基はバスケットボール部のエースだったが、部員の一部が起こした不祥事の責任を代わりにとって退部した所だった

(全く…成長しないなー)

口論する2人の間に割って入る

「何やってんだ、早く行くぞ」

2人の肩に腕を回して引きずるように連れて行った


第二章:ワンゲル部

会合場所には、既に潤、礼音、誠、隆介が来ていた

「遅いぞ!(礼音)」
「また、こいつらがいがみ合ってたんだよ(瞬)」
「お前、年下のくせに!(陸基)」
「年は関係ねーだろ(瞬)」
「はいはい、そこまで。今日は決めたい事があるから(礼音)」
「決めたい事?(誠)」
「もうすぐ文化祭だろ?俺達、ワンゲル部も何かしたいなーと思ってさ(礼音)」

得意な事も趣味や境遇も全く違う7人だったが、一緒にいると何故か気が合った

部活として登録すれば一緒にいる場所や活動費も補助されるというので、名目上、ワンダーフォーゲル部として活動している。通称はワンゲル部

本当は山に登るような事はしていないが、普段から体を鍛える事を趣味にしている面子も多いので、ワンダーフォーゲル部という事にした

潤や礼音のような生徒会の役員が部活をするケースはあまり無いが、オブザーバーという事で教員達を納得させた。将太と陸基のお目付け役という意味合いもある

大人達の思惑を逆手に取って、実際の所は自由に、好きなように活動していた、というより集まる名目が欲しかっただけなのだ

「文化祭かー!(将太)」
「何か青春っぽい事したいよね!(隆介)」
「モノマネ大会とかは?先生のモノマネをして当てるみたいな?(礼音)」
「それは無い!(潤)」
「ちぇー(礼音)」
「じゃあ、バンドとかは?(誠)」
「バンド!?(陸基、瞬)」
「それだ!!(将太)」

数日後、7人は音楽室に集まって、バンド演奏に使う楽器を選ぶ事にした

「やっぱさ、バンドの花形といったらこれっしょ!」陸基がドラムをリズミカルに叩く。最後にシンバルをバーン!と打ち鳴らして得意気な顔だ

「さっすが!似合ってる!陸基はドラムで決まりだな!」礼音が満面の笑顔で拍手すると、陸基が慌てて言葉を濁し始めた

「え?!あー、いや、そうだ!ベース!将太とか似合いそうじゃん!」

「え?俺?俺より誠の方が似合うんじゃね?」

「ベースかー、アコースティックギターしか触った事ないけど…確か潤もギター弾けたよね?」

「まー、昔ちょっとやった事はあるけど、それより、俺はやるならボーカルやりたいんだけど」

「ボーカル?!潤がボーカルやったら、女の子がみんな潤目当てで来ちゃうだろ?」

「なんだよ、礼音、反対するってのか?そういうお前は何やりたいんだよ?」

「え?俺?俺は、生徒会の仕事もあるし…って、瞬?!」

いつの間にか、瞬がスタンドマイクを手にしている

「ボーカルったら、一番の花形だろ?俺しかいないっしょ」

「はぁー?何でお前なんだよ?だったら俺がやるよ!」将太と陸基が詰め寄る

「俺、楽器は自信無いから見てるだけでいい気がしてきた…」隆介がぼそっとつぶやく

「ダメだ!みんなでやらなきゃ!」
「7人でやる事に意味があんだろ!」
大声を上げたのは、誠と瞬だった

滅多に熱くなる事の無い誠と瞬の剣幕に他の5人は面食らった

誠と瞬も、お互いに驚いて顔を見合わせた

「誠と瞬の言う通りだ…それに、みんな、自分のやりたい事を遠慮せずに言った方がいいと思う」

最初に静寂を破ったのは潤だ。弦楽器のような潤の声は人を落ち着かせる力がある

「俺は、ダンスならやってみたいかも…」隆介がおずおずと言った

礼音の顔に笑顔が戻る
「そうだな、みんなでやる事が一番大事だよな…俺もボーカルとダンスやってみたい」

「もし、楽器やる奴がいないなら、ボイパならできるぞ」と将太が提案すると

「ボイパなら俺だってできるし、何ならラップもできるし!」と陸基が対抗する

「あ?!ラップくらい、俺だってできるっての!」

こうして、ワンゲル部のバンドは楽器無しと決まった


第三章:帰り道

誠と瞬は一緒に帰っていた

「いつも落ち着いてる誠が大きい声出すなんて、珍しいよな」

「そういう瞬こそ、いつもクールだろ」

「んー、この学校に転校してきて、みんなに会って、やっと見つけたって気がしてたから…全員で何かしたかった」

「わかる!瞬がやって来て、ピースが揃ったって気がしたんだ…瞬のおかげでワンゲル部はできたと思うから、本当に感謝してる」

「あれ?どっかで聞いたことあるセリフのような…」

「え?!うわ、恥ず!忘れて!」

「あ、いやそういうんじゃなくて…(誰かに言われた?いや、言った?気が…)」


潤も珍しく歩いて礼音と一緒に帰っていた

高校生になってから、お互いに忙しい事もあり、2人だけで帰る事はほとんど無かった

「潤と歩いて帰るなんて、久しぶりだな」

「うん…
礼音、お前は俺やみんなの事を優先して、自分のしたい事を言わないとこあるけど…
今回はちゃんと俺も生徒会の仕事やるから、礼音は礼音のやりたい事やって欲しい」

礼音は意外な潤の言葉に驚き、足を止めて潤を見上げた
照れくさそうな潤と目が合って、礼音の顔に太陽のような笑顔が広がる

「潤は優しいな!」
「バカ!お前のそういうとこ、ニガテだ…」

顔をぷいっと背ける潤の顔には隠せない微笑が浮かんでいた


隆介は、将太と陸基と一緒だった

「隆介は空手の演武で鍛えてるから、ダンスもすぐに上達しそうだな」

「将太くんが教えてくれるなら心強いな!実はボイパにも興味があるんだけど」

「お!いいじゃん、俺ら3人でダンスもボイパもぶちかましてやろうぜ!」

「陸基は調子が良過ぎるんだよ!ダンスするならボイパだけだと物足りなくなんねーか?」

「あー、それなら家にDJ用の古い機材があったかも…」

「よし!そいつでいこう!」

どんな曲をやりたいか、練習はどうするか、演出や照明は?と3人の話は尽きなかった


第四章:伝説のボーイズバンド

文化祭当日、ワンゲル部の出し物は「バンド」として登録されていた

楽器があろうが無かろうが、バンドはバンドだろ

という、陸基の意見に従った
後から訂正するのは面倒なのだ

軽音楽部など本格的な演奏をする団体は後夜祭でやる事になっていた

ワンゲル部のような普段あまり発表の場が無い部活や同好会が出し物をする演目の一つなので、特に期待されていないはずだった

しかし、潤や礼音、将太達、目立つ生徒が集まってバンドをするらしいという噂で予想以上に人が集まっていた

「よし、みんな、緊張する必要はない!いつも通り、楽しもうぜ!」礼音が喝を入れる

「っしゃ!!」

幕が開くと、楽器が無い事に気付いた観客がざわつき始めた

そこに隆介と将太のボイパに合わせて、陸基がラップで観客を煽る

DJ用の機材とスピーカーで音楽を爆音で流し、演劇部の協力でカラフルな照明で会場中を照らす

どこからか調達してきたミラーボールも加わって、ダンス会場さながらの様子だ

盛り上がったところで、残りのメンバーも登場した

潤と誠が歌い、瞬と礼音がダンスでぶちかます

「みんな、踊れーーー!!」

観客もつられて踊り出し、完全にクラブかディスコのようだ

講堂の外にまで観客が溢れて、大歓声と熱気が渦巻いていた


公演終了後、7人は完全燃焼し過ぎて倒れこんでいた

「あーーー!楽しかったー!」陸基が大の字になりながら叫んだ

「まさに青春だった」惚けたような顔の隆介がつぶやいた

「礼音くん、泣きそうな顔してたよね」将太が礼音を振り向くと、まさに目を赤くした礼音がいた

「だってさ、こんなん無理じゃん…俺、生きてて良かった…」礼音は完全に号泣していた

誰も笑う人間はいなかった
みんなの目にも涙が浮かんでる

「お前らに出会えて良かったー!!」と瞬が叫ぶと誠が瞬に抱きついた

「卒業してもやりたいことが見つかった…」
涙を浮かべながら、潤が静かに覚悟が決まった顔で言った

「俺も、このままで終わらせたくないよ!路上ライブとかでもいいから、みんなで一緒に音楽をやりたい」
誠も強い意志がこもる眼差しで6人を見た

「そうだよ!卒業とか待つ必要ないじゃん」
将太が半泣きしながら言った

「それって、俺も混ぜてくれるの?」隆介が不安そうな顔を向けた

「当たり前だろ!仲間じゃん!年下とか関係ない」

「待たなくていいんだ…早く追いつきたいって思ってたけど、もう置いていかれる心配しなくていいんだね」

しゃくり上げる隆介の背中を礼音が優しくさすり続ける

みんなが集まって肩を抱き合った

様々な想いや不安が全て報われたような日だった

誰が何と言おうと
夢物語だと笑われようと

この日は、これから生まれる伝説の一歩目になるのだと信じて疑わなかった


エピローグ

余韻に浸るのも束の間、文化祭は後夜祭へと突入し、それぞれのクラスの手伝い等が待っていた

中でも、礼音と潤は生徒会役員として最後まで仕事と片付けがあり、遅くまで残っていた

「もうダメだ…一歩も動けない」
最後の最後に潤が音を上げた

校門まで迎えが来てくれる予定だが、そこまでも歩けないと駄々をこねた

「全く、しょうがないなー、おんぶしてやるよ」
礼音がしゃがんで背中を向ける

「え!?いいの?いける?」
「潤は細いから、ぎりなんとかなるだろ」

恐る恐る礼音の背に体を預けて首に腕を回す

よろけそうになりながら、なんとか潤をおぶって礼音が立ち上がった

「ご、ごめん、重いだろ」
「大丈夫だよ、これくらい!
・・・それより、言っておきたい事があって…
俺はみんなの事が大好きだけど、
背中を預けられるのは潤だけだと思ってる
だから、これからもずっと傍にいて欲しい」

顔は見えなかったが、礼音の耳は赤くなっていた

潤は、言葉にならない感情ごと礼音の大きな背中をギュっと抱き締めて、耳元で囁いた

「あぁ、一生ついてく…
でも、俺、ワガママだから、覚悟しといてね」

「そう言われると、考え直そうかな…」

「もう遅い!約束しただろ!」

「ハハハ、わかったよ、約束する」

校門では、5人が差し入れを持って待ち構えている事を2人はまだ知らなかった

END

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