茅ヶ崎の守り神
彼に最初に会ったのは約20年前。転勤で実家のある茅ヶ崎に戻って来た時でした。
「それって島忠にあるんじゃない?」
親父は当然のようにそう言いましたが、10年ぶりに茅ヶ崎に帰って来た私には「島忠」が何かさえ分かりませんでした。
私の高校時代80年代の茅ヶ崎の何でも売ってる店と言えば「ダイクマ」。ダイナミックダイクマは、用もないのに毎日通った私たちの聖地でした。しかし私の知らない間に茅ヶ崎ナンバーワンショップの座は島忠に取られていました。
2本の道が遮断機の前で合流する場所が、駐車場への入り口になっていました。ただでさえストレスのたまる踏切遮断機の渋滞に重ねて、合流による割り込みや多くの自転車が行き交う危険な場所です。
そこにランチ休憩を終えたばかりの警備員が颯爽と現れました。
日焼けした真っ黒な顔と白色の手袋が印象的で、まるで警備員の服を着た黒人ダンサー。彼は、帽子をキュッと被り直すとヒップホップを聞いてるかのように軽やかなステップで歩行者と車を誘導し始めました。
私がウインカーをつけると
「おっと!うちに入りたいんだね」
「了解!オレがいれてやるからちょっとそこで待ってて!」こちらに手のひらを向けて小さく頷くと彼は、左右から来る歩行者と自転車をさばいてから
「よし今だ!来い来い」手をぐるぐる回しながらピタッと駐車場を指差しました。
「大丈夫だから、入って来い。」もう片方の手で直進する車を止めながらアイコンタクトとボディランゲージだけで私を誘導してくれました。
数年前、体を悪くして半年ほど彼の姿が見えず、小学校の父兄会で話題になったことがありました。そう!皆彼を知っていたのです。
あれから数十年経ち、帽子の横からはまっ白なモミアゲがはみ出し、もうキレのあるステップを見ることはできませんが、今も私たちを安全に誘導してくれる茅ヶ崎の守り神であることに変わりはありません。