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お中元儀礼と親離れ

「まったく、お中元が届いてるはずなのに連絡の一つも寄こさないなんて」

 母のセリフである。

 生真面目で八方美人な母らしく、夏のお中元は細心の注意を払って選んでいる。向こうから届いた際のお礼電話も、絶対に忘れない。
 だからこそ許せないのだろう。自分のルールに従わない人間が。

 本来、ものを贈るだけでお中元は成立するはずだ。お礼の電話を寄こさなければならないというルールは、後付けであろう。ウィキによると、お中元は江戸時代からあるものらしい。江戸時代に電話はない。

 儀礼に意味はないが効果はある。しかし、人一人に内面化された儀礼はもはや儀礼ではない。儀礼の成立要件の一つ、「二人以上で行う」を満たしていないからだ。二人以上で儀礼を行うには、それぞれの合意が必要である。

 彼女の儀礼は前提条件からして間違っているのだなあと、哀れみの視線を持つようになった。儀礼を学ぶ前では、「母が言うのだったら正しいのだろうな」と彼女を支持していたかもしれない。

 儀礼を学ぶこと、もっと言えば何かを学ぶことは親離れにも効くと実感したエピソードであった。

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