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第3話|永久に買いたいから売る|会社員/(古物商)|安藤健人

高校の同級生だった安藤くんは、呉服の製造問屋で営業の仕事をしている。そういえば、1月に骨董市に出展して楽しかったと言っていた。いつのまにか古物商の免許を取っていたのだった。

「もの」が生きてるみたいに感じられる、消費されないものと趣味の話。

2020.05.02 ⇆埼玉

−今どうですか?

リモートワークで出張もなくて休みの日も多いから、ボーナスタイムみたい。なかなかこんな時間があることないね。だからとても意欲が湧いてきて、本とか読めるようになってきた。遅くまで本読んでていいとか、受験生のときを思い出すよ。

ただ会社のことは心配ではある、具体的な経営状況はわからないが。

−営業の仕事でリモートワークってどうやるの?

基本的には資料の作成と整理。営業は仕事の受注口だから普段は電話対応の時間が長いけど、電話かかってこないから事務作業がすごく捗る。あと受ける仕事じゃなくて、仕事をつくることを考えないといけない。取引先もみんなお店閉じてるから、営業としての新しい仕事は発生してなくて。

−業界的にも大変そう。

こんな状況だから皆リスクとらなくなると思うんだよ。買取りじゃない委託での商品のやりとりがまた増えると思う。てことはこれまで以上に商品取引の利益率を上げないと成り立たなくなるから、良いものづくりをしていかないと。

−営業とデザイン室が連携するようになって、良いものづくりができるようになって、毎年利益率が上がり続けてるって言ってたよね。古い商習慣の業界でそれは凄いことだよね。

今日はいつのまにか始めてた古物商のことを教えて欲しくて。

まだ1回骨董市に出ただけだから全然、古物商とはいえないよ。フリマ出店者みたいなもん。だけど、一回出たのはすっごい楽しかった。

骨董屋さんて好きで買ってる人が始めるのが多いらしいんだよ。好きなものを好きな人に販売するってことがいかに楽しいか!

おもしろいのは、買ってく人が色々教えてくれるんだよね。

たとえば、何も書いてない木の表札を売り物として置いてて。ただの木の塊、裏側に小さい穴が開けてあるくらいの木片。それを若い木工作家さんが、「表札って雨にさらされるところにずっと掛けておくものだから、変形しないように密度が高い、柾目の、良い木材を使ってる」って教えてくれた。

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ああたしかに、表札だからかあって。僕が買った時はただの木片売ってておもしろいなあって買ったんだけど、ちゃんと見る人がみればそう見える。自分が売ってるものについて、自分より詳しい人がゴロゴロいる。ただ教えてくれる人はだいたいそれを買っていくから、わかったところで誰にも話せない。

−笑。問いが解けたら品が消えるんだ。魔術的だね。売ってるものの値段はいくらくらいなの?

2〜3千円くらいがほとんど。今回は買った値段で売ることをした。

−儲けなくていいの?

今回はね。でも買った値段で売れるって、すごいことなんだよ。業者としての仕入れ価格じゃなくて消費者として買ったものなんだから。それを一定期間楽しんでまた売れるんだから、洋服とか本じゃあり得ないでしょう。

−たしかに買った時の値段で売れるものってなかなかないかも。

ただ百円でも利益とったほうがいいとは言われた。あんまり安く売ると他の業者さんにも迷惑かかっちゃう。実は一点ものでも相場感てあるから、次からは利益をとろうと思う。

あとおもしろかったのが、バチみたいな皮を棒に縫い付けてある道具。東京の骨董市で買ったんだけど、その時は店の人も何かわかんなかったから、僕もわかってなかった。それを午前中に来たおじさんが「噺家が話す時に使うやつ」って教えてくれた。机を叩くときに使う、張り扇(はりおうぎ)って言うんだって。ハリセンの原型なのかな。それだけはその人が買ってくれなかったからみんなに話せた。笑。5回くらい説明して、夕方に買ってくれた人がいたな。

−すごくおもしろそうだね。そもそもは、なんでやろうと思ったの?

永久に買い続けたいから、売らないとってなった。置き場所には限りがあるけど、なかには100年経ってるものもあるから、捨てられない。だったら売ろうって。古道具売るのに必要な免許はとったよ。申請してから手続きにかかる時間は1〜2ヶ月くらい、費用は1万9千円。

いずれは仕入れてやるのも考えているけど、仕事にするのはすごく難しそう。どうやってみんな生活しているのかよくわからない。仕入れが命なんだろうけど…

今回やってみて、買ってくれた人の大半が業者さんだった。半分以上が知ってる人だったな。

−え、それって商品が業者のあいだをグルグルしてるだけなんじゃ…

いやそんなこともないみたいだよ。外国人で満員になる骨董市もあるし。ただ俺が好きなものは業者さんが好きなものなんだよな。用途不明でただ質感がいいじゃあ、器探しに来た人からしたら意味がわからない。外国人ウケもしない。

−用途不明で質感がいいものが安藤くんの店の特徴なんだ

骨董市の主催者には、趣味で買ってる人じゃないとこういうクオリティにならないって褒められて嬉しかったけど。

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別の仕事も持ってないと、好きじゃない物も扱わないといけなくなるから、トラックの運転手やりながらやってる人もいたり、店があったら買い物することへの奥さんへの言い訳が立つって人もいたり。家の一部を店にしてて土曜日だけ開けてるとか。

一方では専業が格好いい、「あの人副業でしょ」みたいな感じもあったり。

−たしかに色々ありそう。やりながらどこかに転がっていくんだろうね。

本業の収入もいつどうなるかわからないってのがある。そのリスクを考えて副業しないとてのもあったんだが…これ以外にもいくつかやってみたいけどね。

フェラーリに乗りたいとか一ミリも思わないんだよな…ぽつんとした古びた小屋が格好いいと思ってしまう。そういうとこなのかもしれんな…

家はヴィンテージマンションみたいなところに住みたいけど、通勤に都合いい地域にはなさそう。

−「ヴィンテージ」ってつくれないもんね

フランス旅行したときに、コルヴィジェが建てた「ユニテ・ダビタシオン」ていう高層マンションの先駆けみたいなのがあった。

土地が狭くなるから建物高くして、マンション内に薬局とか保育園とかあって。今まだ普通に買えるし住めるんだよ。ああいうのに住みたい…

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