「演奏が上手くなるには?」と聞かれたら

このnote「Chiei’s Report」では不定期で少数ながら、いろいろ長い文章を書いてきました。ライブ告知&レポート&たまに日常ネタのブログや、鮮度&瞬間風速が命のSNSとは別に、自分の考えてきたことを書けるときに文章化しておきたいという気持ちがありました。

今回はこれまで多くの方からライブやレッスンの際に聞かれた質問に1つお答えしたいと思います。ちなみに最もよく聞かれる「智詠さんのギターは普通のギターよりも小ぶりなんですか?」という質問にはすでに回答済みです。繰り返しになりますが、私の身体(または頭)の大きさによってそう見えます。ギタリストの方はジャンル問わずシュッとした方が多いので…


表題の質問について


話を戻して…2番目に多い質問は、まさに表題の通り「どうやったら上手くなりますか?」というものです。これはギターに限らず、音楽やスポーツなど全ての表現、スキル全般に関わる切実なことだと思います。私自身も常に問い続けているテーマでもあります。

セオリーとしての答えはおそらく

①とにかく練習して経験を積むこと
②好きなことに取り組むこと
③いい仲間や環境にめぐり合うこと


になるでしょうか。そしてこれらはたぶん前提というか、必須条件かもしれません。時間や運、「ある程度のご縁&資金」もセットです。身も蓋もない答えと言えば答えですが、楽器に40年近く触れてきて、約25年間プロの現場で活動してきた私の実感でもあります。

ただこの質問に対する答えとして、今回あげたかったのは、これら3つにも関連するかもしれませんが、

④他の人のいいパフォーマンスや作品を観ること 聴くこと

それもギターや音楽だけでなく、他の表現も含めたすべてのパフォーマンスです。これはある意味、もっとも大事なことかもしれないと考えています。さらに最初の3つの条件とシンクロすることで高いモチベーションにもつながり、上達への近道になるのではないか、と思っています。

例えば音楽の場合は「名演」と言われる映像や録音にたくさん触れること、自分が心から好きになったと思える演奏を「テープが擦り切れるほど(←古い)」繰り返し観たり聴いたりすること、その上で、できるだけ「生演奏」を観に行くことです。

ただ「いいパフォーマンス」というのがクセ者で、絶対的な基準はありません。歴史上の人物なのか、いま人気のアーティストなのか、たまたま目に入ってきた動画なのか、どんな「名演」がいつ自分の心にヒットするかはみんな異なります。自分が好きになったもの、自分にとっての「名演」と他の人の好きなものとの「ズレ」に悩むことも多いかもしれません(経験者)。

しかし少なくとも、その道の専門家として現在活動している方のほとんどは、きっと大切にしている「聴きまくった」「観まくった」「読みまくった」音源や映像、書物があるはずです。その方たちにとって憧れの演奏家の公演があれば、多少無理をしてでもかけつけるでしょう。

「アーティスト」として自分の作品を生み出し、世に問い続けている人にも、「プレーヤー」として楽曲を奏で伝える、または「アーティスト」の表現をアシストしている人にも、「好きな演奏(家)は?」とたずねたら、きっと1~2分では収まらない答えが出てくるかもしれません。

ちなみに上達の手段として

⑤「コンクール」などの賞レースに挑戦する

というのも定番です。1つのイベントに向けて全力で取り組むのは将来の大きな糧になります…かくいう私はほとんど知らない世界ですが…確実に言えるのは、コンクール当日には長期間の準備の末の本気のぶつかりあいが行われる、ということです。ヒリヒリする空間ですがものすごい高揚感のある舞台。お互いに観て聴いて感じて高め合う重要な機会だと思います。私も20代のころ1度だけ出たことがあり、忘れられない貴重な経験となりました。

いつでも聴ける<わざわざ聴きに行く


さて、私自身の環境としては、ありがたいことに自分の生まれ育った家に中南米音楽に関する資料が膨大にありました。その影響を受けて自分も好きで演奏をはじめたというのはとても恵まれたことでした。子どものころには南米のアーティストの来日公演に連れていってもらい、こうして楽器を演奏するきっかけにもなっています。好きなことであれば長時間の練習も比較的苦にならずに続けられますし、もしつらくなったら楽しくできる方法を探す、またはこれまでやってきたのとは別の演奏や音楽を聴いてみるのも、ひとつの方法かもしれません。

現在は「端末」と「ネット環境」さえあれば無料、または「サブスク(サブスクリプション=定額)」で多くの音楽やパフォーマンスを無限に視聴できます。子ども時代からこの環境を得られていたらと思うと、それはそれで正直うらやましいです。

ただ一方で、自分でお金を出して買ったCD、わざわざ観に行った公演にはまた別の価値があります。不思議なことにお金を出した分、より得られるものが多くあるような気がします。一概にはいえませんが、ライブを観ることや買ったCD(レコード)を繰り返し聴くことは、同じ時間練習する以上の意味があるかもしれません。

もし招待していただいた時には必ず「差し入れ」を買って持っていきますし、CDをいただいた場合も、自分のCDと交換、もしくはそれに相当するお礼をなるべく欠かさないようにしています。

実際に2023年はご縁のある方のライブをたくさん観ることができました。そして帰った後自分の練習をしてみたら、気のせいか前より良い音に感じられていたり、指がスムーズに動いたりしていました。

無意識のうちにイメージトレーニングをしていたかもしれませんが、ライブを聴く環境の記憶、そこで演者の方がどう舞台を進めていたか、お客さんがどう過ごしていたか、スタッフの方の応対など、いろいろ体験することで、きっと自分の活動にも反映させることができる、とあらためて確信した瞬間でした。

しばらく弾けないときはまず聴いて観て楽しもう


昔、新聞記事でギタリストの窪田晴男さんが、「正月休みですっかり身体がなまって『自分はミュージシャンなんだろうか』とまでいった状態から取り戻すのに、まず一番好きだったアーティストの曲をかけてショックを受けて初心にかえる」というようなことを書かれていました。その通りやってみたら、鏡餅のように膨らんでカピカピになっていた手指が、みるみる解凍されていくのを感じました。

年末年始など、しばらく弾いていない時期でも、膨大にある音楽番組を観て学ぶチャンスがたくさんあります。もし音楽を聴くのさえしんどかったら、しばらく音から離れてみるのもいいと思います。そしてそろそろ弾きたい、弾かなくちゃという気分になった時、最初に好きになったアーティストを聴いてガツンとやられる、というのは大きな気づきでした。

コツとして補足すると、そんな時はなるべく自分から「遠い」存在の演奏などのパフォーマンスから観たり聴いたりするのがおすすめです。もしうまくいっていないときに、例えば自分と同世代でがんばっている人の動画などをいきなり観ると、卑屈になったり逆に変なマウント意識が生まれたり、メンタルがさらにやられる可能性がありますので、コンディションが回復してちゃんと相手をリスペクトできるようになってからで大丈夫です。

ブランクがあるとモチベーションを維持するのも大変ですが、ぜひ一度試してみてください。そしてぜひ、晴れて全国を駆け巡っているアーティスト&プレイヤーのライブにもぜひ直接触れてみてください。私もその一員でいられるように励みたいと思います。2024年もよろしくお願いします!

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