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ピティナ「特級」セミファイナルをYouTubeで視聴した感想♪(後編)

(トップ画像提供:ピティナ)

さて、前回の山田 ありあさん、小野田 有紗さん、三井 柚乃さんに続いて、今回は午後の部で演奏された嘉屋 翔太さん、鈴木 愛美さん、小野寺 拓真さん、神原 雅治さんの演奏についての感想です。


4.嘉屋 翔太 さん(東京音楽大学大学院1年)

・ハイドン/ピアノソナタ 変ホ長調 Hob.XVI:52
・メンデルスゾーン/無言歌集 より ト短調 Op.53-3
・メンデルスゾーン/無言歌集 より 変ロ長調 Op.85-6
・リスト/忘れられたワルツ 第1番 S.215/1
・ブラームス/ピアノソナタ第1番 ハ長調 Op.1
・片山柊/内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)

第47 回ピティナ・ピアノコンペティション 特級セミファイナル プログラム

セミファイナルではこれまでにも増して曲に入り込み、楽しそうに弾かれていた嘉屋さん。一次予選でも弾かれていたハイドンのピアノソナタは、第一楽章では鳥の鳴き声のようにも感じられる高い音が聴こえてきて、明るく爽やかなステージの幕開けとなりました。

続く『内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano』は、三井さんに続いて暗譜で演奏。大変力強く、高音部と低音部から中間の音域に音が集まってくるところは、まさに稲妻が走ってくるような様子が再現されていたように感じます。リストとメンデルスゾーンの2曲はそれぞれの曲想を華麗に弾きわけられ、最後のブラームスは希望に満ちた曲調をエネルギッシュに弾ききり、堂々としめくくられました。

ファイナルに進まれる嘉屋さんは、次回梅田俊明さんの指揮で日本フィルハーモニー交響楽団とともに『サン・サーンス/ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 Op.22』を演奏される予定です。演奏後のインタビューでは、ファイナルではオーケストラと一緒に振り幅の広い演奏を届けたいとおっしゃっていましたよ。

5.鈴木 愛美 さん(東京音楽大学4年)

・ハイドン/ソナタ ト長調 Hob.XVI:6
・シューベルト/ピアノソナタ第18番 ト長調 D.894 「幻想」
・シマノフスキ/メトープ Op.29 より 第3曲「ナウシカー」
・片山柊/内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)

第47 回ピティナ・ピアノコンペティション 特級セミファイナル プログラム

鈴木さんは邦人新曲課題の『内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano』を一番初めに演奏されました。この曲では鈴木さんの奏でる音の強弱やニュアンスのコントラストのすばらしさに魅了されました。続いて明るく上品な印象のハイドン。そして事前インタビューで今回のメインと言っていおられたシューベルトへと続きます。

シューベルトの「幻想」では、曲に没入していらっしゃる様子から鈴木さんの思い入れの深さが伝わってきました。弾き終わってからもしばらく同じ姿勢のまま余韻を感じておられたのがとても印象的です。シマノフスキではグッと現代的な響きで、シューベルトとはがらりと違った世界観を表現し聴き手の心を掴んでおられました。

ファイナルに進まれる鈴木さん。次回は『ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58』をオーケストラとともに演奏してくださいます。

6.小野寺 拓真 さん(札幌開成中等教育学校6年)

・ベートーヴェン/ピアノソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2 「テンペスト」 第1楽章
・ショパン/ボレロ ハ長調 Op.19
・ショパン/ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61 「幻想ポロネーズ」
・リスト/コンソレーション第4番 変ニ長調 S.172-4
・ワーグナー=リスト/歌劇「タンホイザー」 序曲 S.442
・片山柊/内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)

第47 回ピティナ・ピアノコンペティション 特級セミファイナル プログラム

最年少のコンテスタントとしてセミファイナルの舞台に立たれた高校生ピアニストの小野寺さん。冒頭は一音一音を大切にした色彩豊かな「テンペスト」を披露されました。続く『内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano』は暗譜で、緊張感のある張り詰めた音色を奏でられていました。

続いてショパンの華やかな「ボレロ」と哀愁漂う「幻想ポロネーズ」を演奏され、その後はゆったりとした優しい響きのリスト。最後は「タンホイザー」でしめくくられました。「タンホイザー」はどうしても弾きたかったとおっしゃっていただけあり、特にノッていらっしゃるのが伝わってきます。小野寺さんの演奏を聴いていると「ピアノが好き」という気持ちがダイレクトに伝わってきて、こちらまで楽しくなってくる……そんな魅力をお持ちの方だと感じました。

7.神原 雅治 さん(名古屋音楽大学3年)

・ベートーヴェン/ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
・シューマン/クライスレリアーナ Op.16
・片山柊/内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)

第47 回ピティナ・ピアノコンペティション 特級セミファイナル プログラム

神原さんは小野田さんと同じく、邦人新曲課題のほかに大曲を二つというプログラム構成。やはり『内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)』を冒頭に持ってこられていました。一つの音の出し方に考えを深めていらっしゃる様子からは、神原さんのひたむきに音楽に向かう姿勢が伝わってきます。

個性豊かな四つの楽章で成り立つベートーヴェンは、多彩な演奏表現にワクワクしました。また、最後のシューマンでは緊張感のある出だしに初っ端から引き込まれます。神原さんの情熱的な一面が発揮されていたように感じられました。その後も優しく抒情的に、切なく急き立てられるように、さまざまな曲調が次々に展開され、私自身すっかり感情移入して聴き入ってしまいました。

ファイナルに進まれる神原さん。次回は『ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18』をオーケストラとともに演奏してくださいます。

全体を通しての感想

今回セミファイナルを視聴させていただいておもしろいと思ったことの一つが、『内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano(邦人新曲課題)』という曲を7名のファイナリストがそれぞれどのように弾きこなすのかという点です。

ただ私自身もこの曲を聴くのが初めてだったため、何度も聴くうちに理解が深まっていくようなところもありました。この曲に対する私の個人的な感想なのですが、混沌としてある種暴力的ともいえるこの世界に対峙し、それでも何かを探し続けるような、まるで何かと闘っているかのような曲に感じられました。

そんな厳しさを秘めているようにも思えるこの曲を、7名のピアニストがそれぞれ自分なりに咀嚼し、個性を生かして演奏していらっしゃる様子を今回拝見して、私自身コンテスタントの皆さんから生きる力のような、新鮮なエネルギーのようなものをもらえたように思えます。

それからこれは単なる私の妄想ですが、最後に神原さんが弾かれたクライスレリアーナを聴いているとコンテスタントの皆さん、まるでピアノに恋しているかのように真摯に音楽と向き合い、そして思い思いに自分の求める音楽を追い続けていらっしゃる皆さんが連想されて、胸がギュッと苦しくなってしまいました。私が「もうすぐセミファイナルが終わってしまう」というさみしい気持ちで聴いていたからだと思います……。

演奏後のインタビューでは、嘉屋さんが「一時間は弾き手からしても長い。ステージは熱いので意識がもうろうとしてくることもある。」とおっしゃっていました。ほかの皆さんも何名か疲れたという方がいらっしゃいましたが、皆さま本当にお疲れさまです。心のこもった素敵な演奏を聴かせてくださったこと、とても感謝しております。ありがとうございました。

(撮影:石田宗一郎)

☆次回はいよいよファイナル!!8月21日(月)の16時半から、サントリーホール 大ホールにて開催されます。 ※15時45分開場

嘉屋 翔太さん、神原 雅治さん、鈴木 愛美さん、三井 柚乃さん、ファイナルでの演奏楽しみにしております♪


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