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「片思いの育児」を照らした一筋の光 ―障害児ママに寄り添うやっちんさんの活動を追う―

私は知的障害を持つ二人の自閉症の子どもを育てています。
自閉症には「他人の感情に気付きにくい」という特徴があります。

「大好きなのに伝わっている感触がない」
「気持ちが通じ合っている実感が持てない」

成長した今では、見つめあい「かわいいね」と言いあったりもするようになりました。
しかし、そこに至るまでには長い「片思いの育児」の日々がありました。


やっちんさんとの出会い

2年前のある日、私はあるポストを読んで心を大きく揺さ振られました。
そのポストがこちらです。

表彰状 多動症の子供を育てたママへ。

貴方は度重なる子供の多動にも関わらず、子供の腕を強く掴んで離さず、子供を交通事故に合わせることなく、子供が死ぬことなく、よくここまで無事に子供を育ててきました。

スーパーで母親の後ろを静かに歩く他の親子を見ては、羨ましさに涙をした日々が、あなたの育児の歴史にはありました。
一瞬でも目を離せない子供の前ですべてを捨てたくなる日々が貴方にはありました。私はそれをずっと遠くから見ていました。

〜(中略)〜

必死に子供の背中だけを追いかけてきた親の姿は、貴方だけの愛情の印。
子供が生きてきたのは貴方のおかげです。
死ななかったのも貴方のおかげです。

忘れないでください。自信を持ってください。貴方が救った命がそこにあることを忘れないでください。

いつもお疲れ様。貴方のことを思うXの1ユーザーやっちんより。

やっちん(@yayopon314)/ X

読んだ瞬間、幼い我が子の姿がフラッシュバックしました。

絵本を読んでも、笑いかけても、私のことなんかまるで目に入らないまま駆け出していく子どもたち。
惨めな気持ちでひたすら追いかける私。
「私の存在が許されていない」子どもたちだけの世界。

じわりじわりと深くなっていく心の傷。

やっちんさんの言葉に照らされて、私は改めてその傷の存在に気が付きました。
そして、その傷そのものが「愛の証」だと言ってもらえた気がしたのです。

プロフィールを辿ってみると、やっちんさんは、知的障害のある自閉症の息子さんを育てているようです。
私はその場でやっちんさんをフォローしました。

その後、私は約2年間にわたってやっちんさんのポストを追い、いつしか障害児ママに寄り添うポストを続けるやっちんさんの背景を知りたくなりました。

今回は思いが叶ってインタビューをさせていただく機会を得たため、その内容をお伝えします。

まるでロシアンルーレット「睡眠障害」の恐ろしさ

―――小さいころの育児はとても大変だったと伺っています。特に心に残っているのはどんなことですか?

多動と睡眠障害に悩まされ、1歳半で立ち上がって以来「命を保つこと」だけで大変でした。

仕事に差し障ると困るので、主人には私からお願いして別の部屋で寝てもらっていたんです。
そのため、起こしてしまわないよう夜中に息子を連れてドライブに行くこともよくありました。

一睡もできていない状態で運転したこともあります。

睡眠不足で正常な考えができなくなるなか、息子に手をかけてしまうのではないかと恐怖を感じたことすらありました。

睡眠時間には波がありましたが、8時半ごろに寝て夜中の2時ごろに起きるのはしょっちゅうでした。

一度起きたらもう寝ることはありません。
波があることが逆に怖かった。

ロシアンルーレットの「球がどこに入っているかがわからない」そんな恐ろしさに、常にさらされていました。

周りの人から「昼寝させすぎ」「もっと疲れさせないと」「お母さんの不安が子供にうつってる」などいろんなことを言われたのを覚えています。

まるで「あなたのかかわり方が悪いせいだ」と言われているように感じました。

―――大変な時期を乗りこえてきたのですね。睡眠障害はどれくらい続いたのでしょうか?

自閉症の診断が下りたのが2歳11か月で、3歳11か月で服薬を開始しました。

それによってある程度まとまって寝てくれるようになり、親子共々生活が安定しました。
本当に助かりました。

――苦しかったころのことを振り返って、いまどのように思いますか?

自閉症などの診断は3歳ごろに出ることが多いのです。
だからもう少し小さい年齢の子を対象として、診断のあるなしにかかわらず、夜間の預け先が充実してほしいと思います。

恐怖と混乱のどん底にいた当時は、支援を受けるために泣きながら役場に訴えたこともあります。
本気で訴えないと伝わらないから。
ポーカーフェイスのお母さんは支援につながりにくい現状があります。

だけど本当は、お母さんが必死になって泣きながら訴えないと支援につながれないようなシステムではなく、感情を出すのが苦手なお母さんも自然に支援につながれるシステムになってほしいと願っています。

「悪を背負う」それが誰かの救いになる

―――育児の悩みについてポストすると「大変だとわかっていたはずなのになんで生んだんだ」というコメントがつくことがありますね。Xで長く活動されてきて、やっちんさんもそういう経験はされましたか?

炎上したり、いわゆるクソリプ・クソバイスと呼ばれるもの(主旨の読めていない非相互のアカウントから来るコメント)が来たりということはありました。
特に息子が2~3歳のころが多かったかな。

そのなかでも、いま思い返せば「自分の持っている最高のカードを渡してくれたんだろうな」と感じられるものはあります。

しかし、何かアドバイスをもらったとしても、余裕がないときには「自分の至らなさを責められている」と感じて傷ついてしまうんですね。

あとは「そんなことは言って欲しくない」というようなコメントで、自分の母親に対する怒りや悲しみを、代理としての私にぶつけてくる方もいます。

そういう場合はなるべくお互いの目に触れないように、私の方からブロックすることが多いです。

その方もつらい思いを吐き出す場所が必要なのでしょうが、その方のリプライが他の障害児ママの目に触れることは避けたいので。

不用意に傷つけ合うことのないように、ある程度の住み分けは必要なのかなと感じています。

―――やっちんさんのポストには「悪を背負う」という表現がときどき出てきます。やっちんさんの強い信念が感じられる、非常に印象的な言葉です。この言葉に込めるやっちんさんの思いについて教えてください。

嫌われてもいいから苦しい気持ち、苦しかった気持ちを本音でポストしています。

ギリギリの状態にいるママが「私だけじゃない」と思ってくれて、その日1日をなんとか乗り切る原動力になれるのなら、それでよいと思っているので。

「間違ったことを言ってるかもしれない」「自分のポストのせいで障害児ママに対してネガティブなイメージが付いてしまうかもしれない」そう思うこともあります。
実際にそう言われたこともあります。

でも、それを背負ってでもポストしていきたい。
恐怖と混乱のなかで苦しんでいるママを助けたいと強く思っているし、それがあの頃の自分を救うことにもつながっているからです。

やっちんさんからのエール

―――リプライを見ているとたくさんの障害児ママがやっちんさんのポストで勇気づけられていることが伝わってきます。特にこちらのポストは人気がありますね。

これは何も書いていない通知表をイトーヨーカドーで買ってきて書きました。はじめは自分に向けて書いたんです。

その後、夏休みを必死に乗り越えているフォロワーさんに向けて書こうと思い立ち、それを公開したらとても喜んでもらえました。

私自身、気に入っているポストの一つです。

―――最後に頑張っているママへ一言いただけますか?

「落ち込んでもいいよ。」これに尽きます。
自分は一旦どん底まで落ちて、そこから這い上がりたいタイプ。

無理して前向きにならなくてもいい。
つらい自分も認めてあげてほしい。
そう思っています。

取材を終えて

障害のある子を生むと、愛するがゆえに将来を悲観してしまう保護者はたくさんいます。

我が子の障害を受け止めるには、自分の価値観を根底から覆し、再びイチから築き上げなければなりません。
それには、大きな混乱と痛みが伴います。

「みんなのようにしなければ」
「人に迷惑をかけないようにしなければ」
「いい大学を出ていい職場を見つけなければ」

たくさんの「しなければ」に囲まれて育った私たちが、「できないと幸せになれない」という考えを手放して、我が子なりの新しい「幸せのかたち」を見つけ出す。

「大丈夫!うちの子もきっと幸せになれる!」と思えるようになるまでは、私自身、とても長い時間がかかりました。

そんな混乱の中で幼い我が子に必死に向き合い、奮闘する障害児ママ。
そんなママに寄り添うやっちんさんの活動は、私には非常に尊いものに感じられます。

一体何人のママが、いや、何人の親子がやっちんさんのポストに救われてきたのだろう……。

今回は、私も微力ながらその活動に貢献できないだろうかと考え、この記事を公開させていただきました。

やっちんさんは最近、「混乱のただなかにいるママの大変さ」「愛しているけど一緒に時間を過ごすのが困難な状況」これらについて、我が子の悪口に聞こえないような言葉で発信するべく、心を砕いているともおっしゃっていました。

育児が始まってから、自分がADHDであることに気づき、服薬を開始されたというやっちんさん。

ここ最近で私が一番感動したポストを紹介して、この記事の締めくくりとさせてください。

親愛なる自閉症の息子くんへ。

君のママはADHD。特性は飽きっぽくて、冒険大好き。
君のママは開拓者。一か所には留まらない。ずっと変わり続ける旅人。人も物も家も。

だけど、冒険大好き私は、自閉症の君を産んだ。小さな君は私の元に来てしまった。
新しい事が大好きなママが産んだのは、どんな変化も怖がる頑固な君だった。
変わり続けたい私が、何一つ変われない君を産んだ。
相性は最悪。だけど、ママには君の苦しみが分かる。今までママもたくさん社会で苦労した。

ママは一番の君の味方になる!ママは君に合わせることを誓った。
どんな変化も君に寄り添おうと。

変化大好き、気まぐれ行動なママが君に合わせるのは本当に大変だった。
自分を押し殺して、君の恐怖に寄り添った。
そんな日々を暮らす内、頑固な君にすべて合わせるママになってきた。
そんな日々を送ってるうちにママも変化が怖くなった。たぶん怖がりの君以上に。
何か生活の一部を変えるだけでも安定剤のデパスを飲んで、不安感を取らないと先に進めない。小さくて臆病者なママがそこにいた。

『ねえ、あのころの勇敢な旅人だったママ。何も怖がらずにすべてに突入してた開拓者のママ。』

ふとあの頃の気持ちを取り戻したくなった。一瞬でも変化を恐れない私に戻りたくなった。

ねえ。怖がりの君。君とママは違うはず。どんなに共感したって、それぞれ一人の人間。
ママはこれから君への依存から離れて、ゆっくり私の個性を取り戻していきたい。
あの頃のママに戻りたい。それは、きっと君の個性を認めることに繋がるから。

今のママは怖がってばかり。
もう少し君から距離を取って、修羅場を怖がらずに突進していくママを目指そう。
いつまでも怖がれない。いつまでも殻に閉じこもれない。

ママと君。それぞれ違う未来に飛び出そう。君はママじゃない。ママは君じゃないから。

やっちん(@yayopon314)/ X

息子さんを一人の人間として尊重するやっちんさんの姿勢や、困難を乗り越えて自分らしく生きていくことへの決意が伝わってきます。

明るい未来に向かって踏み出すやっちんさんを、これからも応援し続けたいと思います。

最後に、今回紹介した子どもたちの様子はあくまで一例です。
一口に「自閉症」といっても、知的障害がある子もいればない子もいます。
多動や睡眠障害についても、ある子もいればない子もいます。

お忙しいなか今回の記事に協力してくださったやっちんさんに、深くお礼申し上げます。


★やっちんさんのポストコレクション★

ここからはおまけですが、私のお気に入りのポストを紹介させてください。

〈表彰状シリーズ〉
冒頭で紹介した「多動症の子供を育てたママへ。」のほか、次のようなポストもあります。

その他どのポストにも、やっちんさんの共感と寄り添いがあふれています。

ご自身の葛藤や、息子さんの成長の軌跡もポストしていらっしゃいます。

やっちんさんのポストに心動かされた方は、ぜひやっちんさんをフォローしてみてくださいね。

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