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てぬ歩き#1

三鷹市に三鷹市芸術文化センターという場所がある。ここの星のホールという劇場はよく演劇の公演がおこなわれていて、質の高い演目を見ることができる。演劇に造詣が深い企画スタッフがいるのがポイントで、まあ、ここでやる作品なら間違いないだろうなという信頼がある。
毎年3組くらい、いま勢いのある若手劇団を選出する三鷹ネクストセレクションという企画があり、育成にも貢献している。以前、若手劇団の公演を(なぜか)貪るように見ていた私にとっては微笑ましい。なんとも応援したくなる場所でもある。

この日は、劇団普通の『風景』という作品を観劇。この劇団(今は一人ユニットだろうか)は、結構前から知っている。ただ、新宿の眼科画廊や池袋の空洞とか、アートスペースのようなところで見たことのほうが多かった。
話の筋を追うというより、言葉の持つ引力、扱いかた、そこに生まれる空気感を肌で感じるような作品(……と言って伝わるだろうか)。文学的とかアート的とか言われてしまうかもしれない。人によってはわかりにくいと思うわれてしまうかも。
私自身、カロリーの使う作品をつくるな、というのがはじめの感想。台詞を聞き逃さないように、じっと耳をそばだてて、ひとつひとつの演技から掬いとれるものを見逃さないようにしないといけない(というか、そうしないと勿体ない気がして)。それで、観劇後はちょっと疲労感が強かった。快いものの、終演後にはぐったり。いちばん覚えているのは、カフカの「変身」を上演したものだろうか。とても幽玄な暗闇が印象深かった。
劇団普通が絶賛されるようになったのはコロナ禍の最中。私は、「質は高いが一般ウケはしないんじゃないか」と思っていたフシがあったので、正直驚いた。とある劇作家が好評を寄せていたのも原因かもしれない。コロナ禍での作品だったので、初演を見逃したのは悔やまれたが、再演で見ることができた。私が知っていたそれまでのモチーフとはちょっと変わって、作家の出身の茨木弁で家族の群像をモチーフにした物語、自身の体験を描いているということだった。
テーマが身近になって、わかりやすくなったと同時に、いままで作りこんでいた空気感が、より心地よくなっていた。なるほど、これは素敵。評価もついてくるわけだ。以前から知っていた劇団がステージを上げていくさまは、なんだか嬉しく思う。

演劇の没入感が好きだ。ここが舞台で、自分は客席にいる。目の前の演目がどんなドキュメンタリーを扱っていたとしても、それはフィクションで、現実ではない。視界の端に、前の席、隣と席の人影が覗く。でも、集中しているうちに自分が空気に、透明になったような気がして、ただ舞台上の時間の流れに身を委ねる。自分の存在が限りなくちいさくなっていく――自己肯定感とかいう言葉の真逆だろうか、客観の意識だけの存在。幽体離脱? 身体の重さを昇華していくようで心地いい。

面白い舞台のあとは、よく電車を乗り間違える。波のように押し寄せる、感情と、考察と……客席から続いているふわふわした感覚。あ、この列車、新宿行きだった。
さすがに何度かやらかしていると対処も考えつくもので、まあ、ともあれ根本的には落ち着くだけなのだが、確認をひたすらするよう念じつづける。もう年寄りのよう。
三鷹駅はバスが充実している。
星のホール近くの八幡前のバス停から、すぐに駅までたどり着く。本数も多い。だけど、星のホールからは徒歩で駅まで歩くのがいい。歩いて15分くらい。ふわふわした感覚を落ち着けるには丁度いい距離。舞台から受け取った高揚感を、酔いを覚ますように歩く。演劇の余韻を味わいながら、何店かお店をの覗き、ご飯でも食べて帰ろうか。三鷹には趣のある雑貨屋も多い。実はこれも三鷹での観劇の楽しみ。
信号を渡り中央の通り。マンションの2階にインテリア、雑貨、隣に絵本屋が入っているビルは雑貨屋のデパートみたいだ。いつも眺めているだけで楽しい。キュッと財布の紐の締める。あくまでながめるだけ。見つけるたび欲しい物を買っていたら……とても財産が足りない。三鷹に身ぐるみ剥がされてしまう。反対側の細いほうの保育園の横の道を抜けて……餃子はいつも美味しそう。雰囲気のいい「四歩」や懐かしい文房具をモチーフにした雑貨をおいている「山田文具店」はマストで立ち寄るコース。この日、久しぶりに来た店の向かい反対側に古道具屋ができていた。

ということで、この古道具屋で出逢った手ぬぐい。三重の熊野市のデザイン事務所のもので、この柄のほかに、熊野をモチーフにした柄も置いていた。熊野大社へいったことがあるが、そういえば手ぬぐいは買わなかったか。めはり寿司が美味しかった。


制作は三重の熊野市にあるデザイン事務所salt graphicさん

この記事は、当アカウントが運営しているTwitter「毎度、手ぬぐい」(https://twitter.com/washclothNeco)に投稿しているの紹介文の増補版として作成しました。手ぬぐいの詳細、商品の情報とは少し内容が離れますが、「いつ、どんなときに出会ったか」の備忘録として書き記しておきます。

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