"fantasic pieces" セルフライナーノーツ
配信中の音楽作品に、バンドの相方がレビュー書いてくれました。
自分でも制作者視点で書いてみます。
音楽的に多少マニアックな話を含みます。
制作意図
子供の頃、「ドラゴンクエスト」が大好きだった。(3,5,6あたり) ゲームのみならず音楽にも心惹かれ、なけなしの小遣いでオーケストラ演奏によるサウンドトラックを買ったりしたものだ。
いわゆる「剣と魔法の世界」は、「異世界もの」としてエンタメ業界にうっすらと膾炙するようになったが、ブラウン管に映るドットで出来た原体験はひどく個人的で得難いものとして脳裏に刻まれている。
本作はそんなchickii少年のノスタルジーを、最も主要な5つの断片をピックアップして表現したものだ。
…実際は大人の事情による「選択と集中」ではあるのだが、「短い中にこだわりを詰め込む」ことを目指して形にした次第である。
1. celtic gig
オープニングテーマ。
頭の中に浮かんでいたメロディを膨らませながら作っていった。
主題をティンホイッスルが奏で、のちに他のケルト楽器(ハープ、アコーディオン、フィドル、バグパイプ)が合流する。
どっしり構えながらも小技を入れるベースに、手数の多いドラムは個人的趣味。
音階はファンタジックな響きを持つドリアンスケール。キーを半音上下させてムードに変化を与えた。
本曲の主題は後に続く曲にも音階を変えて引き継がれていく。すぎやまこういち氏がドラゴンクエストの音楽で用いたテクニックだ。
2. bustles
街の雑踏をイメージ。
RPGでいうところの始まりの街、なんとも言えない楽しさ。
ミクソリディアンスケールの力強さとわずかな哀愁で、人々の活力や息遣いを表現。
メインメロディを繰り返しつつ、ブレイクや短三度転調、リタルダンドで起伏を作る。
シロフォンやグロッケンが主旋律をなぞる軽快なオーケストラ編成。
3. mysterious art
意訳すると「不思議な技術」「謎の技」。ハリーポッターの世界のような、リアリティある魔法がモチーフ。
編成はクラシカルな木管楽器とラテンパーカッション、ウインドチャイムなど。
音階にはホールトーンやシンメトリックオーギュメントなど、およそ聴き慣れないものを使い、さらに不規則に切り替わる変拍子で不安定感に振り切った作り。
分かりにくいがメインメロディは1曲目の主題の変奏である。
4. struggles
いわゆる戦闘曲だが、ドラクエのような戦意を高揚させるタイプではなく、もがき苦しむような重さを表現した。
FFの植松伸夫氏、エヴァの鷺巣詩郎氏にインスパイアされている。
鐘やティンパニといったクラシカルな音に、ゴリゴリのシンセベースや高速ドラムを合わせ、要所要所で効果音的なシンセを入れ込む。
途中で入る静謐なフルートとチェンバロのアルペジオ、ここでも1曲目の主題の変奏が現れる。
音階は一貫してフリジアンスケール。近年ではその重力感と相性がいいジャンルであるEDMでよく使われている。
5. a myth
「…というお話だったとさ」
そんな物語の締めくくりのようなエンディングテーマ。
"myth"には神話、古伝のほか、作り話という意味もある。
壮大な冒険譚を暗示させる仕掛けとして、回想のシンボルであるオルゴールの音色を採用し、光と闇のように対照的な二つの音階を使用した。最も浮遊感のあるリディアンスケールと、最も暗いロクリアンスケール。奏でるのはやはり1曲目の主題の変奏である。
That's all, folks. (これでおしまい)
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