墓に唾をかけろ

 おれの辿った暮らし、歴史は、絶望の歴史だ。いつ死ぬかわからないし、参考にはならないだろうけど誰かに読んでもらえば嬉しい。
 おれが産まれたのは神楽坂で、お袋は何処の馬の骨ともわからない男と複数の関係を持っていたから、兄の父親は銀行員でおれの父親は判然としないという。母方の祖父は職業軍人だったから、娘たちは反発もあったのか、PXの米兵と付き合ってパンパンと揶揄されたりしたらしい。祖父によるとおれの父親は朝鮮やくざだという。期待されぬ誕生だったから祖父はおれには冷たかった。
 おれの最初の記憶は、母とその若い情夫の性行為の場面だ。二段ベッドの下、おれの寝ている真下で、母が稀に帰宅するとそれは行われた。入眠してもベッドが揺れ熟睡は出来ず、夢のなかで目が覚めてもディテールに差異がありまだ夢のなかであり、目を覚ませずに夢に閉塞される恐怖から眠らずに夜も徘徊していた。幼稚園には入らなかったので不憫に思ったのか叔母に文字を覚える教材をあてがわれた。お袋の情夫が読み捨てて行く漫画本には漢字にルビがふってあったから直ぐに漢字が読めるようになった。叔母から落語の本を買ってもらい夢中で覚えて、親類が集まると「黄金餅」や「粗忽長屋」など演じて小遣いをもらったり、自販機の下を漁って小銭を手にして糊口を凌いだ。
小学校に上がっても給食を食べに登校した‥食事を終えると帰ってしまうので、教師は母に電話をかけても、家に寄りつかない母と連絡は取れず教師も匙を投げた。(つづく)

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