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幽霊は見えてしまうと急に怖い

見えない方がいいものはこの世にたくさんある。


この、わたしを押し潰そうとしている何かは、おそらくわたしが自分で拾ってきた物たちだ。
目に見えないおかげで想像しどうにか取り払おうとしているが、
これが目に見えてしまったら、おそらく生を諦めるだろう。
迫り来る壁を乗り越えようとする人は、
落ちてくる鉄球を避けようとする人は、
たぶん現実には物凄く少ない。
わたしはもちろんそこから外れた大多数の1人だ。
まあ、わたしに乗っかるものはそれ程の殺傷力はないのかもしれないが。


諦めるのは悪いことではないし、
諦めたくないと思えるなにかに出会えるのも素晴らしいこと。

でもその間には必ず地獄が存在する。
右と左で体を引っ張り合われ、千切れないようにと保った意識の中で見るものこそが地獄。
地獄には、マグマも血の海も剣山もあって、
人によってそれがどんな様子なのかは違うだろう。

わたしが時々迷い込む地獄は、
ひたすらにだだっ広くて何もない1メートルくらい先までがボンヤリと見える程度に薄暗いシンとした空間で、なんの希望も気力も湧きようがない。

いつからとも気づかぬうちに見える距離は長くなり、いつからとも気づかぬうちにまた辺りは暗くなっていく。どの瞬間に足を踏み入れて、どの瞬間に抜け出せたのかはわからない。
はじめてそれに気がついたのがいつの話かなんて覚えてもいない。
そもそも、どのくらいの明るさを、どのくらいの音の少なさを、どのくらいの景色の無さを地獄と呼ぶか。人によって違うし、日によっても違う。

形も色も音もないその地獄は、
目に見えないから抜け出してこられたんだろうか。
目に見えたなら掻い潜れるんじゃないだろうか。
でも目に見えてしまったら……

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