阿部詩選手の金メダル獲得を支えた本――『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
忘れもしない高校三年生の2月18日に左肩の関節唇を損傷しました。その年の8月の世界選手権辺りで右肩も同じ症状に見舞われて、肩の不安を感じない日はなかったですね。
亜脱臼みたいな感じでどう力を入れても、テーピングをしても、肩が緩い状態でした。組み手で相手に引っ張られたり技をかけられたりした時に、踏ん張りが利かなくて耐えられない。
肩が抜けると2~3日くらい痛みが続いて練習できないんです。指先まで痺れるほどの激痛で寝られない日もありました。オリンピック前の1~2年はずっとその繰り返しでしたね。
年々悪くなっていく中で、自分の肩に向かって、「何とか東京オリンピックまでは持ち堪えて。試合の日だけはお願い」としょっちゅう語り掛けていました。
そんなわけで両肩はボロボロですし、初めてオリンピックの舞台に立つ中で、何が正しいのかも分からない状況のまま日々過ごしていた時、小嶋新太監督が1冊の本をプレゼントしてくれたんです。
それが致知出版社さんから刊行されている『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』でした。
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』をいただいてからは、タイトルの通り1日1話ずつ、稽古とトレーニングの合間や寝る前などに読み進めていきました。つい気になって数頁先まで読むこともあったくらい結構読み込んでいたんです。すごく読みやすくて、しかも内容が深い、素晴らしい本だと思います。
どの話もよかったですが、一番心に響いたのは、5月26日に掲載されている山下泰裕先生の「人の痛みが分かる本当のチャンピオンになれ」という記事でした。
山下先生が代表監督を務めた2000年のシドニーオリンピックを振り返って、誤審により決勝で敗れてしまった篠原信一さんの言葉を紹介されています。「自分が弱かったから負けた」「審判に不満はない」と。
本にはこう書かれています。
「本当に自分に力があったら、残り時間は十分にあったし、あの後で勝てたはずだ。本当の力が自分になかったから、それを取り戻せなかっただけで、そういう意味で自分に絶対的な強さがなかった」「審判が間違えるような、そんな試合をした自分に責任がある。誰が見ても納得するような柔道をしなければいけなかったんだ」
この記事を読んで、オリンピックは何が起こるか分からない舞台であり、審判に任せた柔道をしてはいけない、誤審も何もないほど圧倒的に強くなればいい、自分の柔道を信じて闘おうと覚悟が決まりましたね。