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〔鶴見線探訪〕A girl... 〔田辺新田可動橋〕

幻の可動橋

▶鶴見線の武蔵白石~浜川崎間に可動橋があるのをご存知だろうか。
▶正確には鶴見線本線ではなく川崎貨物駅方面につながる高架の連絡線上になる。
▶「田辺新田可動橋」。富士電機株式会社川崎工場の出入口に架かっている、現役の昇開橋である。

浜川崎方面を望む。Youtube上には開閉の様子が撮影された動画もある

▶武蔵白石方面へ下りてくる高架橋がちょうど富士電機川崎工場の出入り口にかかってしまい車両通行の支障となるため、このような昇開橋が設置されたと考えられる。
▶使用されるのは、川崎工場で製造された製品を船舶により出荷するため白石地区に輸送する時であるという。

10.川崎工場ゆかりの産業遺産について
年表形式での歴史のご紹介は以上にさせていただき、ここで川崎工場ゆかりの産業遺産のご紹介をさせていただきます。(…)その他に珍しいものとして、当社のものではありませんが鶴見線の武蔵白石駅と浜川崎駅の間に可動橋というのがあります。この線路自体は現在廃線ですが、川崎工場の田辺地区から白石地区に製品を移動し船で出荷するものについてはこの可動橋で線路を上げてその下を通過して製品を移動させます。今でも大型製品を出荷するときには使用しています。使用するのはもちろん真夜中の鶴見線が走っていないときです。

「企業の歴史と産業遺産⑧-富士電機システムズ」
小形 秀夫(富士電機システムズ川崎工場総務部長)
平成 20 年 11 月 6 日(木) いさご会館 4 階第77 会議室

▶以下は本橋梁のスペックである。

『可動橋一覧と近代橋梁の利活用』―「土木史研究」第22号/2002年5月

田辺新田と富士電機

▶「田辺新田」は武蔵国橘樹郡小田村の名主・田辺佐五右衛門により天保年間に開発された海浜新田に由来する*。
* 「かわさき区の宝物シート」より
▶1923年(大12)に富士電機製造株式会社が取得、1925年(大14)に川崎工場が完成した。

田辺新田。この場所にはかつて扇島海水浴場へ向かう最寄りの「海水浴前駅」があった。

高架線について

▶田辺新田可動橋が属する高架線は、塩浜操(川崎貨物ターミナル)から浜川崎駅ヤードの上空をスルーし、武蔵白石付近で本線に合流、安善駅へ到達する貨物別線である。
▶田辺新田可動橋は前掲資料によると1972年(昭47)9月竣工。上の写真にある竹の下架道橋は1971年(昭46)1月に完成している*。
* 現地空頭標より
▶線路自体の供用は1975年(昭50)2月*¹。1975年3月改正の時刻表に上下10往復の記載がある*²とのことである。

*¹ 日本国有鉄道施設局『鉄道線路開業一覧表』より
懐かしい駅の風景~線路配線図とともに<http://senrohaisenzu.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-eb8c.html>

高架線の敷設のわけは

▶今後基幹ヤードとして発展が見込まれる塩浜操から対鶴見線方面の輸送について、既に取扱う貨車の容量が限界に達していた浜川崎駅を経由しないルートを確保するためである。

鶴見線からの発生貨車は白石駅から連絡線により塩浜操に流れることになり、浜川崎操にかからなくなる。また塩浜操が今後鶴見線の基地ヤードとなるので塩浜操を大巾に改良することにより、現在の安善駅の負担もともに軽減することが出来る。

「東海道線鶴見・塩浜操間線増工事誌」1976日本国有鉄道東京第二工事局

エ.武蔵白石駅・浜川崎駅間
新設する貨物線は単線高架橋で武蔵白石駅・浜川崎駅間は現貨物線に電車線を移設しその跡に貨物線を新設する。武蔵白石駅より10‰で上り鶴見線・浜川崎操の北部をおのおの立体交差し、下り本線と同こう配になり塩浜操と結ぶ。
これに伴い武蔵白石駅・浜川崎駅間は貨物列車を主として空車回送と電車の併用運転を行うことになる。

前掲図書

昇開橋のゆくえ

前後の線路は剥がされている

▶現在は廃線状態(1986年ごろからと見られる)であるこの高架連絡線だが、今後活用される可能性がある。

▶東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)に東海道貨物支線貨客併用化の計画が記載されている。

(1)国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト
東海道貨物支線貨客併用化(品川・東京テレポート~浜川崎~桜木町)及び川崎アプローチ線の新設(浜川崎~川崎新町~川崎)・東海道貨物支線の貨客併用化を図るとともに、一部区間については路線の新設を行う。
・川崎アプローチ線については 浜川崎から川崎新町までは南武線の改良川崎新町から川崎までは路線の新設を行う。

東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)平成28年4月20日交通政策審議会
東海道貨物支線貨客併用化整備検討協議会資料から引用
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/11285/panhulet202404.pdf

▶いつか昇開橋を車窓から眺める日が来るのかもしれない。

参考資料


・「人もモノも運ぶ新しい鉄道に夢を乗せて -東海道貨物支線の貨客併用化を検討しています」東海道貨物支線貨客併用化整備検討協議会https://www.pref.kanagawa.jp/documents/11285/panhulet202404.pdf

・かわさき区の宝物シート宝物 No. 23-4田辺新田https://www.city.kawasaki.jp/kawasaki/cmsfiles/contents/0000025/25729/23-4.pdf

・東京圏における今後の都市鉄道のあり方についてhttps://www.mlit.go.jp/common/001138591.pdf

・「浜川崎の高架橋」懐かしい駅の風景~線路配線図とともに
http://senrohaisenzu.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-eb8c.html

・「東海道線鶴見・塩浜操間線増工事誌」1976日本国有鉄道東京第二工事局
・「鉄道線路開業一覧表 昭和57年3月現在」1982日本鉄道施設協会
・「企業の歴史と産業遺産⑧-富士電機システムズ」小形 秀夫(富士電機システムズ川崎工場総務部長)
・『可動橋一覧と近代橋梁の利活用』―「土木史研究」第22号/2002年5月


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