ドルオタだった話

隠していた訳では無いし、むしろ全面的に押し出していたので知っている人は多いと思う。俺は欅坂46と日向坂46というアイドルを熱心に囲っていた。

友香(推し)との出会いは中学3年。この時はまだお互いの顔を知らなかった。(当然今も知られてない)

当時やっていた体育の授業で「ダンス」という単元があった。思春期真っ盛りな中学生を対象にしたシンプルないじめである。いわゆる ”いつメン” でグループを組み、課題曲を決めることになった。5人いた中で、なんと3人がドルオタだったため、曲を決める過程でアイドルの曲が提案された。そこに出てきたのが欅坂46だった。ここで初めて彼女達の存在を知る。しかし、その時は特に関心が無かった。言われるがままに決まった欅坂の曲の振り付けを必死に練習し、発表は難なく終わる。

話は普段の学校生活へと続く。3年の2学期頃から友人との会話には坂道系アイドルがよく出てくるようになった。気心知れた仲ではあるが、当時の俺はその話題についていけなかった。適当に聞き流し、内心ではむしろ斜に構えていた。なんせ中学生なので ”サッカーとEDMが好き” というのがクールでベストだと思っていた。(今でも好きだが)

そんな心意気で過ごしていたのでしばらくは俺の気持ちがブレることはなかった。そしてこの時期から俺は授業で作ったラジオを家で聴くようになる。これがアイドルにハマる布石になるとは知る由もない。

月日は流れ、3年の3学期。受験勉強をしながら俺はラジオで「レコメン!」という番組を聴いていた。特にこの時期は毎日聴いていた。特定の曜日が目当てで聴いていた訳では無いが、毎日聞いていると嫌でも、曜日ごとに変わるパーソナリティの声を覚えてしまう。そして好みな声も出来てしまう。俺は火曜日の声が好きだった。俺の好きな声はいつも通り番組を進めていく。そして俺はある事に気づく。ながらで聴いていたせいでハッキリ分かっていなかったが、好きな声の正体は欅坂46の菅井友香とかいう子らしいのだ。そういえば冒頭でいつも挨拶しているのに今まで気に止めていなかった。それが偶然この時は耳にスっと入ってきた。

俺はおもむろに名前をググッた。初めて顔を見る。

「うん、可愛い//」 

その流れでYoutubeを開き菅井友香の動画を見た。

「うん、好き」


秒速7.7kmで地球の周りを回る国際宇宙ステーションにも迫るスピードで”好き”が溢れてしまった。ここから無事、沼にハマる。

いつの間にか日曜深夜に放送される欅坂の番組に、気持ち悪い顔でかぶりついていた。きっとテレビも引いていたと思う。今振り返るだけで鳥肌が立つ。想像して欲しい、深夜にヘラヘラしながらテレビに向かう少年の姿を。盛っている訳ではなく、本当にヘラヘラしていのだから気持ちが悪い。

この勢いを絶やさぬまま、俺は高校に入学した。「〇〇高校1年」みたいなグループに入った俺は欅坂が好きな同士を見つけ、LINEで互いの推しを気持ち悪く語り合っていた。高校デビューもクソも無い。 

その後の俺はインスタのストーリーに欅坂ばかり載せていた。毎回キショい褒め言葉が添えられていて、ストーリーアーカイブを見返すとたまらず冷ややかな目になってしまう。親切なヲタク友達からグッズを安く買わせてもらったり、「〇〇を3個購入でクリアファイルプレゼント」みたいなコンビニのキャンペーンに必死になったり、目まぐるしくヲタク生活を過ごした。文化祭で坂道系アイドルの曲を踊っていたクラスには感謝の気持ちも込めて、ドルヲタ全員で必死にコールもしていた。周りにいた人たち、怖がらせてごめんなさい。

欅オタ生活をしていく中で、必然的に知ることがある。妹分のグループ、”日向坂46” の存在だ。前から知ってはいたが高1の後半から、またしても友達の影響で日向坂にもハマることになった。この友達にはとても感謝している。何故なら「握手会に行く」というオタク即死事案のイベントに参加するきっかけになってくれたからだ。

話は高1の春休みにまで進む。坂道系アイドルのYoutuberをしている友人から

「日向坂の握手会行かないすか?」

と、LINEが来た。人生に革命が起きる大イベントだ。光の速さで「行きます!」と返信した。動画撮影の手伝いも兼ねてということだったがそれも承諾し、もう1人の友人を含めた3人で握手会に行くことになった。革命日は5月27日だった。

俺は握手会のことばかり考えながら高2の新学期を過ごしていた。遂に5月26日、革命前夜を迎える。もう意味が分からないくらいウッキウキだった。23時に友人宅に集合し、そのまま徹夜をして早朝4時に出発するという日程だった。補導にビビりながら無事に自転車で友人宅に着いた。オタク談義に花を咲かせつつ、予定通りの4時に友人母の車でポートメッセ名古屋に出発する。

到着するとまず待っていたのは「ひたすら並び続ける」という苦行。7時前には到着していても、10時の開場を待つキモオタ共がびっしりと並び尽くしていた。精悍な顔つきで待機している彼らも、どうせ脳内では数時間後の天国を想像しながら

「ニチャァ」

としているのである。気持ち悪すぎる。そんな奴らに続いて列に入った俺たち3人も「ニチャァ」としながら待ち続けた。そして開場の時はくる。まず最初にミニライブというものがあり、握手会の前に15分程度のライブを見ることができる。前座とは言え十分すぎるご褒美だ。位置取りが悪く後ろの方でミニライブを見ていたが、彼女達はとても可愛かった(照) 。天使の笑顔を振りまきながら踊る日向坂46はあまりにも輝き過ぎていた。既に幸せで満たされていたが、本番はこの後なのだ。

ミニライブが終わるとレーンが整備され、待ちに待った握手会がスタートする。まず俺が並んだのは小坂菜緒ちゃんのレーンだった。同い年かつ、とにかく顔が可愛い。興奮する。40分くらい並ぶと小坂菜緒まであと5mと言うくらいの位置まで来た。心臓はキショい速さで動悸している。目の前のキモオタが握手を終え、ついに俺は対面した。

「ッッッッ……!!!🤤🤤🤤🤤🤤🤤」


形容しがたい感情が湧き上がる。ぼんやりとしか覚えていないが普通に「好きです」と告白したような記憶がある。両手はしっかり小坂菜緒と恋人繋ぎをしていた。「ありがとう、また来てね😊」と優しく声をかけられ数秒の天国は終了した。湧き上がってくるニヤニヤを押し殺し自分の顔を手で覆う。

「いい匂いがするぞッッッッ!!!」

本当にいい匂いがした。いい匂いだった。いい匂いでした。以上です。


次に並んだのは渡邉美穂ちゃんのレーンだった。自分より2歳上だが雰囲気は幼く、テレビで見る姿も人一倍面白くて明るい子だった。レーンで待つ俺は何を話そうかと熟考していた。ここである事を思い出す。握手会には最強の言葉が存在するのをご存知だろうか。「釣ってください」というワードである。”ファンの心を釣る”みたいな意味合いがあり、投げキッスやウインクなど対応はそれぞれだ。俺は”釣ってもらう”ことに決めた。

30分以上の待ち時間に耐え、対面の時は来る。とにかく顔が可愛すぎた。会ってすぐ「え可愛い」と声が出てしまったが、気を取り直した俺は恋人繋ぎをしながら自分の下の名前を伝え「釣ってください」と頼んだ。渡邉美穂ちゃんはそれを笑顔で快諾し、こう言ってくれた。

「こういちくん、すきだよ」


もう心がドッカーンした。俺の目を見ながら顔を少し近づけて、なんと告白してくれたのだ。「俺も好きです!」みたいなことを即答した気がする。相変わらず手はいい匂いがした。スキップしそうになりながら、とんでもない顔でその場を後にする。

結局この日はこの2人としか握手をしなかった。合わせて計5回の握手をすることが出来た。特に好きになってしまったのは渡邉美穂ちゃん。なんせ告白された(させた)ので想いはあまりにも強くなっていた。釣ってくれたとは言え、本当に自分の事が好きなんじゃないかと過信しつつ長野の地に凱旋した。

その後も告白された熱をそのままに欅坂と日向坂を推していた。しかし、知っている人も多いと思うが欅坂はスキャンダルきっかけの卒業があまりにも多かった。そんなことを繰り返しているうちに熱は少しずつ冷めていった。平手友梨奈は卒業ではなく、脱退という嫌な形でグループを抜けるし色々なことが起きすぎた。それ以外にも皆ご存知、King Gnuというバンドにハマり坂道系の曲を聴くことが極端に少なくなる。もともと好きだったサッカー観戦にも時間をたくさん使うようになり、深夜の坂道番組からも離れていった。そしてやんわりとドルオタ生活は終了する。


以上が俺のドルヲタ生活の全容だ。今はサッカー観戦が生活の軸になっている。こればっかりは終わりがないし生涯続く趣味なんだろうなとは思う。渡邉美穂ちゃんと結婚出来ればなんでもいいやー(鼻ほじ


おわり









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