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The Loneliest Americans 最も孤独なアメリカ人

2022年5月5日

大学院生の友人たちがやっている、ゆる〜いブッククラブで選んだ本がこれ。前回はナオミ・ヒラハラのClark and Divisionで、なかなか楽しい会でした。残念ながら今回は出席できず、本だけを読むことに。

著者はJay Caspian Kang、ご両親がソウルからアメリカに来た韓国系アメリカ人(でもお祖父さんは現在の北朝鮮出身)。漢字だと姜さん、かな、なんて勝手に想像しています。アメリカでは、私はいわゆる「移民」枠なので、日本風にいうと一世となるのだと思いますが、長い歴史のある日系史に自分を重ねることは難しい。だから孤独なのは当たり前だと思っていました。そして、単純にアメリカ生まれの二世(著者を含む。あ、厳密には著者はソウルで産まれたのかな?お母様が里帰りをしてらしたのかも。とはいえ、ソウルで育ったわけではないようです。)は、アメリカの教育を受け、文化的ジョークもわかるし、マイノリティーの疎外感は感じるでしょうが、私たちほど居場所がない、わけでもないのでは、と思っていました。

すみません!!

そんなことはないですよね。むしろ、日本に帰っても絶対順応できないと分かっていながら、そして日本には帰る場所もないと知っていながら、想像上とはいえ(imagined community)文化的に揺るぎなく頼れる場所がある私たちより、そうしたコミュニティーの想像さえできない彼らは孤独なのかもしれません。

そして、それはエリートになればなるほど。著者のように作家として成功する、ということは、白人世界に入るということでもあるのですから。そして、ここでいう「白人」とは必ずしも、人種の白人「のみ」を意味するわけではありません。エリート層を作っているのは色々な人種、ジェンダーの人たちですから。でも、そこで受け入れられる立居振る舞いや言動が白人(男性)モデルであることは否めません。つまり、オフィスの空調が白人男性の体格を基準に決められているように(我々アジア系女性には寒いはずです)、意思決定の仕方、仕事の進め方、などなど目に見えない基準がそうなのです。

成功する、ということは白人モデルを器用にこなした証であり、そのこと自体が自分のアイデンティティーと矛盾してしまうのです。そこで、多くのマイノリティーは「白人モデル」というものを「アメリカモデル」と考え、ナショナリズム的な言動に傾きがちです。つまり、日系人収容所に憤るのは「同じアメリカ人なのに!」という考えが根底にあるのです。気持ちはわかるけれど、これは危険なレトリックだと前から感じていた反面、日系人の苦労を知らない私が言うのもなぁ、と躊躇っていました。今回、著者がその点に直接ではないですが、触れてくれていて、嬉しくなりました。とはいえ、こうした危険なナショナリズムのレトリックに触れることは、彼らにとって自分たちの唯一の寄って立つところの「アメリカ人」を解体することになり、苦しいし、希望がある作業とは言えません。

自分自身、マイノリティーですから、何かあると「差別だ」と思いたくなります。実はその方が楽なときもあるからです。自分の能力不足、あるいは嫌われている、という事実を認めたくないときなどに。。。その反面、マイノリティーが突然大声で怒鳴られたり、忠告をすると言い返されたり、などなどは枚挙にいとまがありません。これはマジョリティーでも経験するかもしれませんが、圧倒的にマイノリティーの数が多い。でも、そりゃそうですよね。白人の屈強な男性が道を塞いでいたからといって、いきなり大声で怒鳴る人は少ないでしょう。「すみません、ちょっとどいてください」とお願いする感じ。でも、これがアジア系の小柄な女性だったらどうでしょう。「邪魔なんだよ!」と言われることは簡単に想像できませんか?私も(小柄ではありませんが)こうした経験はありますし、これは、日本でも「ぶつかりおじさん」に狙われる女性が小柄な人が多い、というのと似ていると思います。そう、弱いものいじめです。

ただ、「白人」というところだけを強調して、女性でも男性に限らずこうした不正義に対抗しようとしている友人を失いたくはありません。私だって、この社会で生きている限り「差別的思考」からは逃れられません。「私はカラー・ブラインドです」とか「差別したことありません」と言う人が信用できないように、自分の中の差別心をしっかり見つめて解体していかなくてはならないときに、白人の人たちの差別心ばかり目について糾弾してしまっても建設的ではないでしょう。とはいえ、トランプのように確信的な差別主義者は別ですけれど!

と、まあ、あまり気分の良い話でなくてすみません。

乾燥というより、ほぼ愚痴になりましたが、彼が「アジア系アメリカ人」と言う括りに疑問を投げかけたり、白人男性とアジア女性の組み合わせの考察をしていること(これは皆思っていても公にはあまり触れられないことかもしれません。共和党のボス、ミッチ・マカノーの2番目のお連れ合いが台湾系アメリカ人だったり)などなど、色々考えさせられました。おすすめです!!


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