ヒーロー

教室で クラスメイトのキオが 左目の周りに青アザをつけているのを見て
「ケンカしたの?」と私は思わず聞いた。
「・・・・・・」キオは答えない。
まあ そんな親しい仲でもないしね。でもキオは乱暴者ではない。私は重ねて聞かずにはいられなかった。
「誰?」
「関係ないだろ」とキオはそっぽを向いた。まあ 関係ないんだけど。
でもケガしているのを見たら なんでか ツラかったんだ。
「・・・ケガ、しないでほしい」つい、口にしてしまった。
キオは振り返り、ボソッと「親」と言った。
え? 親が殴ったの? 信じられない。親に殴られるような悪いこと、したの? どういうことしたら殴られるか、わからないほどキオはバカじゃないと思うんだけど。
「私は𠮟られるようなヘマはうたない」とつぶやいた。そしたらキオは
「お母さんを守りたかったんだ」と言った。
あっ・・・それはやるかも。

キオは転校することになった。親が離婚して 名前も変わるとか。挨拶はなかった。昨日までそこの椅子に座っていたのに。突然いなくなった。

その晩 私は窓からお月様を見上げてボーっとしていた。そしたら電柱の落とす灯りの中にキオの姿を見つけて あわてて外に出た。
「いや もう行くんだけれど。近くを通ったから。さよならも言ってなかったし」さよなら? さよならなんて言いたくない。
「元気でね」「ああ。元気でな」
少し離れたところに エンジンをかけたままの車があって その窓から女の人がこっちを見てた。キオによく似た美しい人。そっか 男の子ってお母さんに似るんだってね。

お母さんは キオが殴られるのを見たから 別れる決心をしたのかもよ?

私たちはまだ小学生だから 何も、何もできない。

その夜見た夢の中で キオは勇者の姿をして闘っていた。
守りたい人を守るために。


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