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灰色の煙草の煙に包まれる、自分の本音

最初にお伝えしておきますが、わたしは煙草を吸ったことはありません。

しかし時々ふっと、煙草の煙の思い出が、脳裏をよぎるのです。

あの匂いを思い出すだけで頭痛がしてきます。でも嫌悪感ではなく、自分の触れにくい部分に触れるようなそんな感覚で。

過去に付き合っていた男性で、いつも煙草を吸っている方がいました。その方はくも膜下出血で倒れました。しばらく付き添っていましたが、回復後、お付き合いをやめました。付き合っているころはすこし無理をしていたから、これ以上の無理がきかなかったのです。

職場でいつも煙草を吸っている上司がいました。優しい方でした。優しいばかりに、たくさん背負っていました。笑顔が癒し系の方でした。この優しい口調を真似て仕事をすると、わたしも感じが良くなりました。でもその一方、上司もわたしも、何かをはっきり断る、ということができませんでした。時々食事を部下にごちそうしてくださったり、笑いあったりして、仕事の大変さをそうやって吹き飛ばして。とても癒されました。のちにその上司は会社を離れていきました。

職場仲間とも煙草室に行って話す、そんなことがよくありました。今では考えられません。妊娠をしてからは、その機会はなくなりました。

それからしばらくして。その後上司になった女性も煙草を吸っていました。妊娠中ではなかったので、やむを得ず喫煙所で話をすることも、たまにありました。仕事の愚痴や、ぽろりとこぼす本音がそこにはありましたが、わたしはあまり多くをそこでは語りませんでした。ここ(喫煙所)での話はここだけにとどめる。そんな暗黙のルールもありました。その煙に、自分が吸い込まれてしまうような気がしていました。その上司は私に言いました。「ちびのんさんって、何考えてるかよくわからない。つかみどころがないよね」

その女性は、物事を感じたままにはっきり伝える方でした。仕事ができ、評価の高い人でした。憧れと、怖さと、両方ありました。その人から出たこのわたしへの言葉は、そのまま胸に刺さりました。わたしの本心を揺さぶるその言葉を、信じたくなかった。どんな言葉を返したかは覚えていません。でもその言葉はずっとわたしの胸の奥の奥に残っていました。その後がむしゃらに仕事をする時期があって、乗りに乗ってきた!というときに部署異動の発令がありました。その上司であった女性は、「ちびのんさんとまた仕事がしたい。戻ってきて」と言ってくれました。思わず涙がこぼれました。しかしその女性も、のちに会社を離れてしまいました。

煙草の煙の向こうには、相手との遠い遠い距離を感じました。煙をふっと私の目の前で吐き出された瞬間、いつもわたしは何かが遠く飛んでいくような感じ、空っぽにさせられるような感じを受けていて。煮詰まった気分のときがあって、自分でも吸ってみようと思ったけど、ダメでした。結果的にはそれでよかったんですが…。

そんな風景もいまは見られない時代になってきました。良い悪いではなく、煙草の煙にはいろいろな人のいろいろな思いが乗っていた…わたしも一緒にそれを感じていた。立ち上る煙からは「お別れ」という、ワードが浮かぶのです。

白でも黒でもない、灰色の思い出たち。

よみがえっては、また消えていくのです。


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