見出し画像

再生可能エネルギー施設の保険付保について


再生可能エネルギー施設への保険付保が難しくなっている。損害率の高さから、各保険会社の収支が合わず引き受けに制限がかかってきているからだ。

太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、水力発電が代表的だが、地熱発電、積雪発電など新たな研究分野にも影響が出るかもしれない。

様々な政府、企業、団体が再生可能エネルギーによる発電施設への投資を行っている。そもそもなぜ近年これほどまでに熱を帯びているのか。なぜ投資するのか。

SDGsの7番目の目標「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」

と、いうものがありイメージ戦略的なところもありそうだが、儲からないことにはあまり莫大な投資はできない。
儲かる仕組みがあるはずだ。↓

FIT制度
・電力会社が一般家庭や事業者が太陽光発電した電気を買い取る制度で、国が約束し、経済産業省の認可により発電した電気を対象としている。
・この約束を固定価格買取制度(FIT)といい、再生可能エネルギーの投資は、FITにより成立する。
・電力会社には、電力量や発電方法などにより一定期間中は単価を変えずに電気を買い取ることが義務づけられている。
・FIT制度により国が固定価格で電力を買い取るために発電期間中は収入を得ることができる。

ということで儲かるのでやる仕組みが整っているらしい。最近ではより競争的なFIP制度なるものもできたようだ。


保険募集人なので、保険の話に戻る。

各保険会社から制限に関するガイドラインが出ている。

・免責金額の設定
 1事故につき数10万円〜1000万円の場合もある。

・ペリルごとの引受制限
盗難は不担保になりやすい。銅製ケーブル盗難が頻発しているからで、1回の盗難で数100万円の損害も珍しくない。臨時費用保険金も不担保になりやすい。
風雹雪災、水災は不担保まではいかないものの、支払い限度額が制限される。山奥で野晒しに設置されている太陽光発電施設を思えばわかるきがする。
EM、破汚損、飛来物は不担保もあれば引受可能もありばらつきがある。大規模火災のニュースもあり、全然火が消えないともあったため火災爆発あたりもあやしい気がしてきた。

・引受限度
そもそも幹事でも60%、非幹事でも数10%といったような引受限度がある。
支払限度額も火災・休業セットで数十億円限度という例もある。

・過去の事故歴
過去の事故歴があった瞬間に引受不可となる場合もある。新設であれば問われない。

・発電所の種類による引受姿勢
「太陽光はいいが、メガソーラーは嫌だ」
「敷地ごとの職作業コードで分類した時の太陽光発電所の区分は制限、コードが事務所だったらビルにちょっと太陽光パネルがついててもいい」
「パネル1枚でも付いてたら免責にして動産保険で受けろ」
「風力だけはホント無理」
など保険会社によって引受姿勢が細かく異なる。
巨大契約を組成しようにも非幹事の最低ラインが異なるため、条件を合わせることが難しそうだ。
しかも前述のように非幹事でも引受限度がある。

・そもそも引受レートが通常の不動産よりかなり高い 普通のビルより数十倍?くらい保険料が高い。


再生可能エネルギー施設への投資が加熱している中、保険付保の難しさが業界に冷水をかけているところである。保険付保のコスト次第で事業の成立可否が左右されるところまできているようだ。

結局のところ保険は基金みたいなもので、損害率が正しくわかり、それに見合った保険料を取れば破綻しないし制限なんかしなくてもいいのだが、各社引受制限を行っていることから再エネの急拡大による一時的な保険収支の問題を超え、これからの損害率が読めないのだろう。

ある技術者から話を聞くと、2013年ごろに最初の太陽光発電ブームが来た時にはガイドラインの整備が不十分であり、発注者も施工業社も当面の利益を追求し脆い設備ばかりを作っていたようだ。そのツケが回ってきている時代なのかもしれない。

既存の企財包に再エネ施設が混ざっている場合、引受ができずビルや工場などの資産への保険付保にも影響が出てしまう。

私も再エネ事業に積極的な企業の担当なので、なんとかして安心してリスクヘッジができる環境を作りたいと思っている。頭には以下の選択肢がある。

・再エネ包括保険の組成
企業の財産保険について、再エネ施設を定義し免責とする。同じ定義で再エネ施設だけの包括保険を組成する。

メリットは、統一レートを適用するため、期中追加の場合、被保険者にとって保険会社のアンダーライティングのための対応に追われずに済み手続きが簡便になる。保険選びも迷わなくなり事業の意思決定が早くなる。親会社も1つの保険を通じてグループの再エネ資産の状況を把握できる。(代理店も資産増減について異動対応だけやればいいので楽...)

デメリットは、低圧施設、高圧施設、特別高圧施設と様々なリスクの資産が入るため、低圧施設を中心に事業展開する被保険者からすると公平感に欠けるかもしれない。しかしそれ以上に「補償が決まっていて謝絶されない保険」があることの価値の方が高いかもしれない。
課題は、これを作れる損保が限られていること。いま調査で「できる」と明確に回答もらっているのは1社のみ。つまり1社で受け切れない場合には非幹事の引受次第になる。

・再エネ個別保険の集約化
上記と同じく企業の財産保険について再エネ施設を定義して免責とする。再エネ施設について保険付保のするのだが、保険会社側は施設ごとに個別のアンダーライティングをしたいという意向が強い。明細付き契約、個別証券に対して代表証券を作る、などまだ手法はわからないが、ひとつにまとめて共通支払い限度額を設定することは可能か。

メリットは、より細やかなアンダーライティングにより適正な保険料を算出でき、施設状況に見合った個別保険料が算出されることから被保険者各社へのアロケーションもしやすく納得感がある。
デメリットは、とにかく手間がかかる。1施設ごとに見るため、被保険各社にとっても施設ごとの設備の材料、ハザード情報、防犯対策など様々な資料を求めることになるかもしれない。レートもバラバラだとすると、スケールメリットがあまり得られないかもしれない。

・自己保有基準の策定(キャプティブ活用含む)
保険会社にとって、再保険の調達が難しいことも引受困難な要因である様子。グループ内で自己保有基準をつくり、自己保有以上の損害は元受損保にリスク移転し自己保有部分は事故処理の道具として元受保険会社を使うものの、裏ではキャプティブで引受けることで自己保有する。元受保険会社にとってもリスクの移転先が確保され、キャタロスレイヤーだけの引受になるため保険組成がしやすい可能性がある。

メリットは、包括保険組成の可能性を上げられること、自己保有部分ではロスプリ促進の効果が期待できる。
デメリットは、自己保有基準(元受証券のレイヤー分け)を決めることが難しいこと。低すぎてもキャプティブ収支が赤字になるし、高すぎても適切なリスク移転ができない。どうシミュレーションしても相当損害率が低くないと赤字の可能性もある。


いずれにしても、今を乗り切るのではなく、持続可能なプログラムにする必要がある。

色々書いたものの、いまはグループの再エネ資産がどれだけあって、近い将来どれくらいの規模になるかを描く必要がある。再エネ投資は待ってくれないので、こちらも手と足を動かすしかない...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?