【SS】夕空に響かせて / shiosai

「うー、寒くなってきたねぇ」
「そうだね……体調管理、気を付けなくちゃ」
 劇場の前を吹き抜ける風が、少し冷たく感じられる時期になった。恵美はふるりと身震いをして、上着のポケットに両手を突っ込んでいる。風花も長袖の上にもう一枚羽織って、それでもまだ寒そうだ。
「それにしても、すごい偶然だね。それぞれ別のスケジュールだったのに、帰りの時間が合うなんて!」
「ふふっ、そうですね。私たち5人でのお仕事はたくさんありましたけど、一緒に帰るって、意外となかったかも」
 くすりと笑って、琴葉は一緒に歩く4人を見回した。数か月間、同じチームの仲間として歩んできて、アイドルとして経験を重ね、今ではすっかり気心の知れた4人だ。
「本当にいろいろありましたよね。真夏のデビューバトルから始まって、写真集が出て、それをきっかけにテレビにも出させていただいて」
「うんうん。ついこの前だと思ってたのに、気が付いたらもう11月になっちゃってさー」
 チームを組んでからのことを懐かしむように振り返る百合子の言葉に、恵美もうなずく。彼女たちの活躍は少しずつ世間にも知れ渡るようになり、仕事の数も増えて、忙しい日々が続いていた。
「でも、なんだか不思議だなぁ。こんなに慌ただしいのに、疲れるどころか毎日が楽しくて」
「たまきも、毎日すっごくたのしいぞー! 次の日のおしごとなんだろうって、いつもわくわくする!」
 環がニカッと笑う。それにつられて、他の4人も笑顔になる。
「そうだね。……きっと、今こうしてアイドルとしての活動を楽しめているのは」
 一度言葉を切って、再び琴葉はそれぞれの顔を見る。目に光を宿した、輝くような4人の笑顔。
「劇場の仲間たちと、皆と一緒に、走っていられるからだって思うんだ」
 異論はなかった。互いにとって、皆それぞれが大切な存在であるということを。
「もー、やっぱうちのリーダーはうれしいこと言うなぁ、にゃははっ」
「ちょっと、あんまりからかわないでよ……ふふっ」
 照れ隠しのような言い方の裏には、本心のうれしさがにじむ。2人、そして5人の間に、また笑顔が広がった。
「たまき、もっとみんなとおしごとしたい! いっしょに歌ったり、お出かけしたり!」
「私も! 作りたい思い出、たくさんありますから」
 環と百合子が口々に言った。何かをしたくてたまらない、というふうに。始まったばかりのアイドル人生には、叶えたいことだらけのようだ。
「……うん。アタシも、まだまだやりたいことがいっぱいだよ」
 やや間をおいて、恵美も続けた。その目は少し先を見ているようで。それを汲み取ってか知らずか、
「たぶん、忙しくなっていけばこの5人で活動するってことも減っちゃうだろうけど……でも、私は大丈夫な気がするよ。こうやって一緒に過ごしてきた分、離れていてもつながっているって、何となく……そう思えるから」
 風花がその不安を拭うかのように、言葉を紡ぐ。
「今までのことがあってこれからの未来がある……そう考えると何だか、私たちの歌みたいですね。今日の帰り道も、どこかで未来につながっているのかも」
 百合子も、彼女らしく自分の言葉を語る。それぞれの思いを胸にしながら、5人は海沿いの道を歩いていた。
「あ! みてみて、なんかこれ、前にみんなでとった写真ににてるぞー!」
「写真……皆でって、もしかして、テレビに出たときの?」
「あー、確かにそうかも! すっごくいいよねこれ、今見返しても泣けてきちゃう」
 気づけばすっかり日は傾いて、オレンジ色の光が彼女たちを照らしていた。デビューイベントのときに浜辺で見た夕日、そして写真集絡みでテレビに出たときに河川敷を歩きながら眺めた夕日と、ぴったり重なった。
 ――オレンジ色に染まってゆく あの空を見上げたら
 誰からともなく歌い出す。呼応して、だんだんと増えていく歌声。
 ――希望ひとつ 小さな手に握りしめて 未来へと
 彼女たちの笑い声と歌声が、秋の夕空に高く響いていた。

【comment】
ヤマなしオチなしですみません……!でも欲望に従った結果こうならざるを得なかったんだ……。
「オレンジノキオク」が、ミリアニでのあの使われ方や、ミリシタでの連動イベントの内容も含めて、本当に大好きです。ミリシタのイベントキービジュアルだったりミリアニのあのオレンジの海だったりを思い浮かべながら、気が付いたらこんなSSができていました。
千葉マスには他にも絵を描いたりDJをしたりと、クリエイティブなPが多く所属しています。創作に興味があるプロデューサーさんも、ぜひ気軽に遊びに来てください!


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