マーベル作品に全てを捧げた先輩とジブリ映画を観る ⑤君たちはどう生きるか
最終回は、まだ劇場公開が続いている(!)『君たちはどう生きるか』(2023)を観ていきます!
朝八時半という映画を観に行くとは思えない時刻に集合して出発。
本千葉駅を降りてから歩くこと十五分、Tジョイ蘇我に到着した。千葉大生が映画を観るのは大体千葉駅に近い京成ローザなので、意外に行かない映画館かもしれない。
(以下、『君たちはどう生きるか』について激しくネタバレしています)
夏子さんがヤバい
徳永 遠藤さんはどのシーンが印象に残りましたか?
遠藤 やっぱりラストかな。インコ大王が入ってきた瞬間に積み石が崩れるところ。
徳永 想像上の世界が最後崩れて現実に収束していくみたいなところですよね。
遠藤 あそこだけはなんとなく理解できた感じはしたかな。
徳永 僕この映画で夏子さんのキャラというか造形がヤバいなと思ったんですよね。ヤバいというのは、切実に胸に迫ってくる感情があったということなんですけど。夏子はお前のどういう関係の人だと訊かれたときに、「母さんの妹です」とか「今の母さんです」じゃなくて、「父さんの好きな人です」と答えるあたりに生きていく上でのしんどさが詰まっているように感じました。
遠藤 ずっと自分にとって遠い人として主人公が捉えていたよね。
徳永 もし遠藤さんの生活範囲に夏子さんみたいな人が現れたら結構ヤバくないですか?
遠藤 ヤバいけどなあ……まあ今はもう大人だからさ、俺からしたら遠い人だと思いつつも顔はヘラヘラっとしてね、やり過ごすとは思うけどね。それがいいことなのかはわからないけど。
徳永 笑 昔遠藤さんと話している時に「叔父や叔母に敬語使うべきか問題」で盛り上がったことがあるんですけど。そんな問題で悩んでいるようじゃ多分夏子さんに太刀打ちできないですよ。
遠藤 クッソ……
遠藤 あと石ね。あれは……俺の解釈では現実における武器に近いのかなと思った。大叔父様は悪意のない世界を作ろうとしているけど、でも結局は悪意が充満して世界が崩壊してしまう。それは現実でいうところの武器、ダイナマイトしかり核爆弾しかり、本来人のために作られたものが武器として使われてしまう、悪用されることまで含めて考えないと、バランスが取れなくなってしまうよなとは感じた。
徳永 確かに作中当時も戦争中だからそれはすごく重要な視点ですよね。石を積み上げているシーンがありましたけど、それもすごく危ういバランスの上で成り立っているということですもんね。
徳永 僕一番好きなシーンがあって、夏子さんがインコの糞まみれになりながら「かわいい」と言うシーンが一番好きですね。「それでこそ現実だ」と思いました。
遠藤 素敵なシーンだよな。でも気になっちゃったけどな……糞めっちゃするじゃん……って。
徳永 笑 でもそういう汚いものも受け入れる、綺麗に見えるというのが現実の肯定で素晴らしいなと思いましたね。
遠藤 あと産屋で夏子さんが「帰りなさい!」と主人公を遠ざけるシーン。顔も鬼気迫る表情で印象的だった。危険だからこそ主人公を遠ざけようとしたと考えられるし、主人公はずっと夏子を遠い人だと認識していたから、そのことに対する怒りとも捉えられて二面的なシーンだと感じた。
徳永 現実ではない世界で悪意も含む本心がぶつかり合うというのはいいですよね。逆にそうじゃないと人間関係前に進めないなとも思いますね。序盤でおばあちゃんに「あなたは夏子さんがいない方がいいと思ってる」と言われるシーンがありますけど、あれも「うお……」となりますね。
遠藤 グサッとくるね。
徳永 『思い出のマーニー』で信子に言われたときくらいグサッときました。そりゃあ周りには、百戦錬磨のおばあちゃんたちには見抜かれてるわという感じですよね。だからこそおばあちゃんたちが御守りになるという表現も腑に落ちました。
遠藤と悪
徳永 ジブリ映画をこれで五本連続で観たわけですけど、この企画全体通しての感想を頂いてもいいですか。
遠藤 前回も言ったけど、同じジブリ映画でもストーリーはそれぞれ多種多様というか、きれいごとだけじゃない、悪もしっかり描いているのは観てて面白かった。
徳永 悪との向き合い方というところで、MCU作品だと物理的なはっきりした悪をヒーローが倒すというのが王道ですけど、ジブリ映画では自分の中の悪を清濁併せ吞むという感じがしました。
遠藤 そうだね。それはあると思う。勧善懲悪じゃないというところは新鮮だった。ヒーロー映画だと直接傷つける、傷つけられるというのが多いけど、精神的な悪についても今回理解を深められたのかな。
徳永 遠藤さんって一番悪から遠い人じゃないですか。
遠藤 そうか?
徳永 自分の中の悪ってあります?悪というか悪意。
遠藤 悪意……?悪意はないけど、やっぱりゴシップとかスキャンダルすごい大好きだから……
徳永 笑
遠藤 悪意なき悪意?
徳永 弱さ?かもしれないですね。でもそれは誰にでもあるんじゃないですか。僕も今回この企画をやってみて散々ジブリとマーベルを比べてきましたけど、やっぱり遠藤さんは一作品一作品真正面からぶつかってくれるから、それがすごいいい人だなと思ったし、物語の受け手として学びになりました。そういう部分はありますよね?
遠藤 あると思う。なんでも楽しめるし。
徳永 最高ですね笑
遠藤はどう生きるか
徳永 これは最後に訊こうと思っていた質問をして終わろうと思います。これまで色々な映画を観てきたなかで、それらを受けて遠藤さんはこれからどう生きていきますか?
遠藤 これはもう決めてる。マジで……その時のテンションだけで生きていく。
徳永 最高ですね笑
遠藤 なんにも考えないで、「どうにかなるっしょ」で、その時の流れに乗って生きていく。特に人生設計とか目標もないんで、その時楽しければ大丈夫!
徳永 いいですね笑 なんか一周まわって元の場所に戻ってきた気がしますね。そういう遠藤さんの視点を改めて確認できたということで意義ある企画だったかなと思います。長い期間協力していただきありがとうございました!
遠藤 ありがとうございました!
こうして全五本にわたる企画が終わった。私がこの企画を通じて感じたのは、作品に対して一緒にぶつかって理解しようとしてくれる人の存在がどれだけ貴重なのかということだ。世の中に素晴らしいエンタメがたくさん存在するように、作品を媒介として生まれる前向きな人間関係も数えきれないくらい存在するのではないだろうか。最後に、私が今一番言いたいことで終わろうと思う。
遠藤さん、また一緒に映画観に行きましょう!
(おわり)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?