スーパーショート文学賞 No.1 「狐の嫁入り」 あず紗
記念すべき第1作目です!『千葉大スーパーショート文学賞』の詳細は以下からご覧ください
「純はどっちがいい?」
またこの話。
「私はどっちでもいいよ。そもそも、式自体にこだわりないし」
「一生に一回だよ? 俺は純の綺麗な姿見てみたいし、ほら、親とかにも立派になったって見せたいし」
二回以上着る人もいるよ、なんて無粋な突っ込みは飲み込んで、へらりと笑う。
なんだかもう、疲れてしまったな。
やらかした。
すぐそこまでだし大丈夫、と思った十分前の私を殴りたい。どうしてもアイスが食べたくてコンビニに駆け込んだはいいものの、見事な通り雨に見舞われた。
店員の憐れみを背に受けながら、軒下に立つ。メールやらSNSのチェックやらをしていたら、いつの間にか霧のような細かい雨に変わっていた。
見上げれば、虹が架かっている。
「写真撮って水月に見せよ」
カメラアプリを立ち上げて、構える。スマホの中には、七色の橋の向こうからやってくる行列が映っていた。
「……え?」
白い集団はどんどん近づいてくる。目を離せないまま見つめていると、段々姿がはっきりしてきた。紋付き袴と、白無垢。――狐の嫁入りだ。
綺麗。思わず言葉が漏れた。
すると先頭にいた一匹と目が合った。手招きをしている。呆けていると、私の手元を指しているらしい。
ビニール袋に入った、アイス。溶けかけのそれを、レンズ越しに手渡す。
「本日は良いお日柄で」
慌てて何を言っているのかわからなかったけれど、どうやら笑ってくれたらしい。コーン、と高い声が響く。
瞬きの後には、嫁入り行列もアイスもなくなっていた。
「純、何か買った?」
「いや、特にしてないけど」
「玄関にすごい量の食材があったんだけど」
「え?」
ほら、と連れて行かれた先には確かに大量のお米、魚、肉。
ふと、数日前の出来事が蘇った。
「――ひ」
引き出物、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。
「何回も聞いて悪いけど、純はどっちがいい?」
「えーっとね」
あの不可思議で美しい光景を思い出す。
「白無垢もいいかなって思ってて」
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