酔っぱらいのコンビニ募金

今はもう無くなったコンビニの店員をしてた頃の話です。もう場所も個人も特定できない出来事になったと思うので載せます。


夏は深夜も蒸し暑い。酔っ払いのお兄さん2人組がレジにアイスを置く。
「いらっしゃいませ。ポイントカードは」
「…あ!」

私は咄嗟に身構える。深夜の酔っ払い客の、あ!は面倒なことが多いからだ。次から次に追加の商品を持ってきたり、財布を忘れたり、ほかのお客さんが少ないのをいいことに支離滅裂な雑談を持ちかけて他の作業時間を際限なく奪うことも少なくはない。

だけど
「募金!雨のになってんじゃん!」
彼の気づきはレジ上の募金箱だった。
先日の西日本豪雨による甚大な被害を受けて、うちのチェーンが行っている緊急募金のお知らせが貼られている。

「ねえ、募金しようよ!俺は!この買い物の!お釣りを!募金するよ!?」
より陽気な方の彼は声が大きく、深夜の店内にほかのお客さんがいないことが幸いだ。

「そうだねー、オレらもなかなか荷物届かなくなって大変だからね。」

西日本から届く宅急便でもあったんだろう。彼らの会話を聞き流しつつお会計を伝える。
「あ待って!ね、俺ちょうどあるわ…」
「オレもだ…」

2人が半笑いで気恥しそうに顔を見合わせている。
私の方も、なんだかお釣りを出す会計にしたいのかな、と変な気を遣う。
「えぇっと…丁度のお預かりでよろしいですか?」
普段はそんなこと聞いたことないくせに。

「ごめんねー大丈夫でーす。」

2人は買ったばかりのアイスをすぐ開ける。
「ゴミ、貰いますよ。」
「ありがと!…お釣りじゃなくてもいいんだもんね!」
陽気なその人の興味は、やっぱり募金箱だった。
アイスを口にくわえて、財布の中の小銭をチャリチャリと募金箱に詰める。そして満足げに、俺募金って学生以来かも〜だとかなんとか、また大きな声で騒ぎながら出ていく。

さっきまで明るかった店内が、急に物静かになって、今はもう日も跨いだ深夜なんだと急に実感する。

酔った彼らの他愛のない会話。人は自分のこととして受け止めれば簡単なきっかけで動くんだろう。
私は受け取ったアイスの袋を、かるく結んでからゴミ箱に捨てた。

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