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ピスタチオグリーンの永田町│ひとりアドベントカレンダー#18

なんとしても短い昼間の日光を摂取しようと外出し、近所のコンビニにふらりと立ち寄ったところ、アイスクリーム「MOW」のピスタチオ味が売っていた。

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物珍しさだけで買い、食べてみたら思ったより美味しかった。ピスタチオのフレーバーを楽しみながら思い出したのは、永田町・国立国会図書館の3F喫茶「ノースカフェ」である。

国立国会図書館といえば、「日本国内で出版されたすべての出版物を保存収集する図書館」として知られる、巨大図書館だ。歴史屋さんとしては、地方の図書館にしか置いていないような激レア郷土史料を東京にいながらにして見ることができたり、稀少にして貴重な史料をしれっとデジタル化して公開してくれていたりする、感謝してもしきれない拠点である。

学士論文のときも、修士論文のときも、ガタガタな睡眠サイクルをその日だけはどうにか立て直して、早めの時間(といっても午後になってからだが)に国会図書館に入り、集中調査をしていた。

国会図書館の所蔵資料は膨大だ。利用する人もものすごく多い。館内のパソコンで書籍の出納申請を出してから受け取りまで20分とか、複写カウンターで複写依頼を出してから複写物をもらえるまで30分とか平気でかかる。とはいうものの、書庫内ステーションとカウンター間を結ぶ書籍運搬装置がものすごい勢いでぶん回り、スタッフの人たちが爆速で作業をしてくれているおかげで数十分におさまっているのであって(カウンターの向こうは常に戦場のようであった)、人間と機械の共同戦線のフル回転ぶりには頭が下がる。

その待ち時間に、たまたまカバンに入っていた本や論文を読んだり、スマホでひたすらメルカリやっていてもいいのだが、どうせなら国会図書館ならではの楽しみ方で時間をつぶしたい。そう思って時計をみると、まだ本館3階の喫茶が開いている。いつもはラストオーダーの時間を過ぎてしまっていたから、今日はチャンスだ。

本館3階「ノースカフェ」は、内装はお洒落とはいえないものの、いわゆる公共の食堂然とした落ち着きがあった。一方、メニューのほうはなんだか洒落ている。大きく鉤型に曲がった店内を奥に進み、注文カウンターの可愛いポップをみながらケーキセットをオーダーした。そのときは確か、食べたかったケーキが既に売り切れだった。迷っていると、カウンターの陽気な店員さんに「期間限定でピスタチオケーキがあるよ!」と勧められ、ポップの写真のやたら鮮やかな黄緑色に若干引きながらも、言われるがままに注文してしまった。

店内はすいていたが、なにやら資料を読みふけっている人がいたり、時折専門用語を交えながら話し込んでいる同い年くらいの学生おぼしき人たちがレモンスカッシュを飲んでいたりして、他では入手できない資料を求めてやってきた人たちだけがいるカフェという特殊な性格のこの場が、なんとなく居心地がよかった。

ケーキが運ばれてきたとき、写真を撮り忘れていたのが残念である。鮮やかな黄緑色のケーキは、こうばしいナッツの香りがして、甘みとほのかな塩味がマッチしていた。周りの風景は食堂だけど、このケーキだけは本格的なカフェ……なんだかちぐはぐにも思えたけれど、国立国会図書館でしかできないちょっとした贅沢と思って楽しんだ。

そうこうしているうちに、複写資料ができあがったという通知がスマホに届いたので、カフェをあとにした。のんびりケーキ食べてると複写待ちの時間なんてあっという間である。

その翌日、大学院の平安文学の先生に嬉々としてノースカフェのことを話すと、「国会図書館は食堂も有効活用するといいよ」とのアドバイス。

「行く時間帯は、朝いちばんよりもお昼ちょっと前。資料を集めて、複写の申請を出したらちょうどお昼だから食堂でカレーを食べて、食べ終わったころには複写物ができているんですよ」

さすがと言うべき、ベテラン研究者なりの黄金ルートがしっかり確立されていた。

その後、自分も先生の黄金ルートを実践したいと思い、ちゃんと午前中から国会図書館食堂に行こう行こうと思っていた。思いながらうだうだしているうちに自分の研究が終わってしまい、そして食堂自体が閉店してしまった。いつまでもあると思うな国会図書館食堂。

そして今は新型ウイルスの影響で、国会図書館自体も抽選予約制になっている。好きなタイミングで行けるうちに、行きたい場所にはさっさと行っておくものだなと思ったことであった。

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