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歩み寄りマインド飼育法

犬と猫、どちらの飼育が大変だろうか?
犬は散歩ができない日が続くとどうなってしまうのか?
犬は雨の日も散歩に行くのだろうか?
犬はりんごを食べられるのだろうか?

犬を飼ったことのなかった私は、これら全ての答えを持っていなかった。飼育書を読んだりネット検索をしながら手探りで犬を育てていたけれど、命にかかわるような失敗を避けたくてすぐに近所に犬のかかりつけ医をみつけて頼った。最初の英断だったと思う。
獣医さんに犬を飼うのはこれが初めてなのだと話すと、家庭犬しつけインストラクターなる職業のかたを紹介してもらった。どんな職業なのかはよくわからないが、とりあえずお話してみようと思ったのが次の英断だった。

犬の飼育に関して大きな困りごとはなかった。
しかし少し気になることならばいくつか出てきた頃で、ダックスの特徴でもある好奇心旺盛な性格を取り戻していくにつれ、散歩の途中で道に落ちているものをなんでも口に入れてしまい焦ることが増えた。また、縄張り意識が芽生えたせいか、宅配や家屋のメンテナンスの業者さんたちが自宅を訪れるたびに激しく吠えるようになっていた。
あるいは私が普段は自宅にいるため、ちょっとした買い物で家を離れる時は、慣れない出来事に不安が高まるのか帰宅するまでずっと吠えている。
声帯を切られているようだと保護団体の人から聞いていたのだが、かすれた鳴き声は聞いているほうが喉が痛まないかと心配してしまう。ペットモニターで外出先から観察できてしまうだけに、そんな姿を確認すると急いで用事を済ませて帰らざる得ない。
インストラクターさんをお願いしようかなと思ったのは、そんなことにちょっとだけ知恵を借りられれば嬉しいかもしれない…という気持ちだった。

実際にカウンセリングを受けてみると、彼らの仕事は想像以上に素晴らしかったのですぐに契約を決めた。
なにがそんなにいいのかと言うと、しつけられるのは犬ではなく飼い主なのだ。犬の特性を熟知している彼らは、どうしたら犬とうまく生活できるのかを教えてくれる。もちろん、お手やおすわりなんかもお願いすれば教えてくれるんだけどそれは本筋ではないようだ。なにより叱りつけたり恐怖を持って犬を変えようとは絶対にしないのが素敵だと思えた。コントロール対象は他者ではなく自分なのだというところも非常に現実的だと感じた。

インストラクターさんは我々の犬との暮らしかたをヒアリングしながら、科学的根拠に基づいたアドバイスをくれる。おかげで譲渡されてからの懸念事項であった「早食い」も、コングやノーズワークマットなどと呼ばれる犬の知育玩具を使って解決した。犬が自分で獲物をみつけて獲得する過程は自然の状態だし、それで喜びを得る。傍からみていると食べるのに手間も時間もかかるのでストレスがかかるんじゃないかと思ったが、犬のストレスを軽減させる効果もあるという研究結果もあるのだそう。なるほど、カニを食べている人間と同じではないか。

一方でどうにもならないこともあった。ダックスは狩猟犬なので吠えるのが仕事である。こうした本能を矯正することもできるが、相当手間がかかるし、犬にとってもあまり幸せなことではないそうだ。
とはいえ人間ができる範囲はコントロールしましょうということで、吠えるスイッチが入る前に飼い主に意識を向かせる方法や、玩具を使って一時的に黙ってもらうなど、バリエーション豊かな対策を授けてくれる。
切られた声帯が吠えるたびに痛むことはないとのことで、吠えることについては早々に許容することにした。近所迷惑になる建物でもないし。

紹介されたインストラクターさんは出張サービスをしていて、実際の飼育環境を見ながらアドバイスしてくれるため実践不可なことがないのも良かった。縄張り意識が強い我が家の犬も、インストラクターさんが来るとものすごく嬉しそうにしっぽを振りながら吠えている(やっぱり吠える)。
犬をあやしながら話をしていると、褒める時に与えるおやつの適正量が圧倒的に足りなかったこともわかる。質問するまでもないことまで、次々に智慧を授けられていくのだ。

私が子供の頃、遥かウン10年前、実家の近所では犬を飼っている家庭は珍しくなかった。周りが田んぼしかないような土地だったので、柴犬のような中型からシベリアンハスキーやシェパードといった大型犬を飼う家が多かったように思う。みな、庭に犬小屋があり屋外で飼育していた。
お手やおすわりなどいくつかの指示に従うこともあるが、犬が人に懐く印象はなかった。当時は犬を人間の生活に沿わせるスタイルが主流だったと思う。しかし今はどうもそのスタンスは違うようだ。いや、時代のせいなのか、このインストラクターさんの飼育法なのかはわからない。
目の前のインストラクターさんがしようとしているのは、犬と飼い主の暮らしの擦り合わせの手助け。犬種でざっくりと犬を捉えるでもなく、目の前の犬の個性と向き合うように飼い主に促してくれる。私も夫も何かを自分に従わせたり支配するのが苦手なので、このやり方がしっくりときた。
犬と対話はできないがよく観察をしていればわかることも多かった。
まだトレーニングは続く予定だが、犬がいきいきと暮らしているところをみるに、悪くはないようだ。あまりに元気よく走り回りジャンプするので、次は犬のヘルニアを心配している。


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