見出し画像

「嫌な印象ってなかなか拭えないんだよね」っていう話

人生でたった一度だけ、コンビニでツナだったか…おにぎりを購入して、具がなかったことがある。

その頃もの凄く忙しくて、それでも何か食べねば、と思って行ったコンビニ。
家に帰ってから、わーいようやく食べられる〜と思って一口目、あれ?。二口目、んん?。
もう口は具を望んでいたのに。
なのに、最後まで食べても、具が、ないっ!!!

えぇぇぇぇぇ〜?
食べ物の恨みは恐ろしいというけれど、まぁそれもあったんだろうけど、既にこのコンビニに嫌な印象を持っていた私はとっさにこう思った。

「また、このコンビニかよっ!」と。


━━━━━━━━━━


その当時住んでいた所の、最寄りのコンビニがその大手コンビニチェーンだった。

大きく7と書かれたロゴが特徴のそのコンビニは、やや大きな道路に面し、駅からの帰り道に寄りやすい立地ということで、時間帯によってはかなり賑わうような店だったように思う。

家から歩いて3分で行ける距離。

本来なら一番利用しそうなコンビニではあるが、利用し始めた頃からなんだか感じの悪いコンビニというイメージがぼんやりとあったので、あまり好き好んでは利用していなかった気がする。そしてそれは拍車をかけることになる。


ある日の昼下がり、私はそのコンビニに訪れていた。

平日ではあったが、昼過ぎということですでに品数は薄く、その中で食べたいものを探そうとうろうろしていた。何がいいかな、パンかな。ご飯かな。いやいや麺類という手も...。

うーん。

私的には食事を選ぶだけという、めちゃくちゃ平和でまったりとした空気の中にいた。そんな時だった。

店内に響き渡るものすごい怒鳴り声。
私はもともと大きな声も音も苦手だ。特に怒鳴り声というのは、他人が怒られていても泣きそうな気分になる。

そんな声を、店内で。
響くくらいの、大声で。
客の迷惑も、考えず。

思わず目を声のする方に向けると、体を強張らせてうつ向く青年に向かって、罵るこのコンビニの店長がいた。


怒られていた青年は、私にとっては好感度が高く純朴そうないい青年だった。

なにしろ、いつも横柄な接客をする化粧の濃いバイトのおばさま方が多かったこのコンビニに、ようやく優しい空気を運んできてくれた期待の新人さんだったのだ。
大きな体に黒縁のメガネをかけ、多少のんびりしてはいるものの、親切で優しく、何事にも真面目に取り組む姿勢は見ていてとても心地よいものだった。

その彼に、怒鳴るバカがいる。
やれ、お前のやり方はとろい、だの。
気が利かねぇなぁ、だの。
きびきびと働けよ、だの。


その怒鳴り声にショックを受けながらも、「え?なんで客いるところで怒鳴る?」「っていうかそもそも怒鳴る必要がある?」「そんな怒鳴ったら余計萎縮してなんも出来なくなるわ」「つか頑張ってやってんじゃん!」となる私。

正直詳細は分からなかったけれど。その怒鳴り方は度を超しているように思えた。そしてその店長が自分の憂さ晴らしのために怒鳴っているようにしか見えなかった。まぁそうではなくとも、客の前で怒鳴るってどうなのって話だけどね。


彼がバイトを初めた頃は、控えめながらも笑顔が多かったというのに、日を追うごとにどんどん顔の表情が乏しくなっていき、追い詰められていくのが肌で感じられた。日に日に目は悲しげになり、いつもビクビクするようになり、身体は強張るようになっていった。

その姿が見たくなくて、店内もほがらかでみんな気持ちよさそうに働いて見える徒歩10分以上かかるローソンへ行く回数が増えた。
ちなみにこのローソンのオーナーのおばちゃんはほんと感じのいい人だった。いっつもニコニコ笑顔が絶えず、その笑顔につられるのか、バイトの子達もすっごく感じよかった。

でも、毎回10分以上かかるローソンへ行くのも大変なのだ。
なのでたまにその近場のコンビニにも足を運ぶのだが、件の彼が怒鳴られてたり、そうでなくても大きな体を小さくして働く姿をみるたびに心が痛んだ。なんとかできないかなぁと。それくらい本当に彼の心が病んでいって、どんどんその周囲が黒ずんでいくように見えた。

誰かなんとかしてくれないかなぁ…とか、このコンビニの親会社に言えばなんとかなるだろうか、なんてことを行くたびに考えていた。


けれど、私は結局何もせず、何もできず、彼の姿はそのコンビニから消えた。

怒鳴られていた頃も行くのが嫌だったけど、彼がいなくなって余計そのコンビニが嫌になった。

当初持っていた「なんか感じ悪い」っていう印象が、この件で確実なものになり、こういう店長がいるから店の質が悪いのだな、という確信になった。

そして冒頭の具なしおにぎりが決め手になったのか、はたまたあの有名なロゴを見るたびにこの記憶が蘇ってきてしまって拍車がかかったのか…。「どうせ」あんな店長なんかがいるコンビニのチェーン店なんぞ、ろくなもんじゃねぇ!という、チェーン店全体の印象になってしまったのである。


自分が何もできなかった後悔が強すぎたんだとは思うけれど。少なくとも、一生懸命働くあの青年が体を小さくしていく姿は見たくなかったな、と。胸をはって楽しそうに働いて欲しかったな、と。

多分その当時、私はその青年とはそう大差ない年齢。もしかすると私の方が年下くらいで、自分に何かできたかも分からなかったし、あんな風に怒鳴る大人に楯突くなんて怖くて出来なかった。だけど、声をあげればよかった。

そして、いまだにあのコンビニを...他の店舗でさえも、見かけるたびに、利用するたびに、もやもやした気持ちを抱いてしまう。もういい加減忘れてもいいと思うんだけどね。頭ではそう思っても、心がまだついてこない。

嫌な気持ちって、油みたいにしつこくこびりついて、なかなか取れない。そして後悔の念が足をひっぱっるし、あの看板なんて街中にあるから記憶の定着にはもってこいだし。なんだか中々忘れられない土壌が出来上がっちゃってるみたい。

もちろんこのコンビニ全体が悪いなんて思ってない。ただ、私の心の中で、そういう想いが毎回うごめき、年月が過ぎても嫌な印象がなかなか拭えないんだよ、っていう。なんだろ。結局、後悔の話だったのかもしれない。


彼が今は元気に笑っているといいな!
と、勝手に願って。

この話は、これでお終い。


最後まで読んでいただきありがとうございます。 暑くなってきたので冷たい飲み物が美味しいです。